第4話 は?チート?転生特典?なにそれ?何で?

 さて、将校の説明は普通にドーランさんの説明を100倍堅苦しくしたもので、まぁ、説明会に参加したの殆どの猟師や木こりが首を傾げていた。

 そして、説明から一ヶ月後に師団が来た。村の前、夫々が指示された場所に向かう。セリナとは此処で待ち合わせをしていたのだかリディアも居たので3人でおしゃべり。


「じゃ、リディアも頑張ってね」

「うん!パックも頑張ってね!」


 臨時師団司令部こと町の教会に向かう。御えらいさんが居るらしく、教会の入口には小銃を持って立つ衛兵。師団旗も上がってるので師団長もご在宅だ。


「お邪魔しまーす」


 セリナと共に教会の扉を開けて中に入る。

 中に居た全員が僕等を見る。


「案内役のパトリック・マガトです。

 師団司令部に来いと言われたので来ました〜

 よろしくおねがいしますぅ〜」


 全員が珍しい物を見る顔で僕を見るので僕も珍しい物を見る目で眺めておく。


「来たか。こっちに来い。

 銃まで持ってきたのか?まあいい、ソイツに預けろ。弾のうもだ」


 奥から出てきたこの前の将校がテキパキと指示を出す。脇に居た兵卒が僕に手を差し出すので小銃と鞄以外を渡す。


「銃を」

「弾はない。

 これは僕の仕事道具だからね、君には渡せない。何処に置くんだい?」


 薬室を開いて弾が装填されていない事を確認させ、そこの銃架にと指差された場所に置く。


「じゃあ、行きますか」

「え、ええ……」


 セリナと共に将校の入った部屋に行く。よく司教が出入りしてる部屋だ。


「閣下、こちら町長の娘とこの山一番の猟師です。案内人です」


 将校が一番奥に居る女に敬礼し、紹介をする。セリナは慌てて片膝を付くので僕もそれに従う。


「うん?ああ、そう。

 楽にして」

「顔を上げてよし。

 自己紹介を」


 セリナが自己紹介をし、僕を見る。


「パトリック・マガト。

 この山で一番山に詳しいらしい猟師です」

「らしい?」


 師団長が将校を見る。将校は直ぐにセリナを見て、セリナは泣きそうな顔で僕を見た。全員の視線が僕に集まる。


「何か?」

「お前がこの山で一番詳しいと言う触れ込みだが?」

「どうなんですかね?僕はそう名乗った覚えが無いです。

 個人的には引退したマーベル爺さんの方が山には詳しいと思います」

「マーベル爺さんは腰が悪いので案内人には出来ません。

 私達が考える中で最も優秀な猟師はこのパトリック・マガトです」


 セリナは頭を下げて答える。


「優秀なのか?」

「少なくとも最も獲物を獲っているのはパトリックです」

「ほぉ、私も狩猟は好きだぞ」


 師団長は興味を持ったように少し前のめりになる。若い女性だ。


「最近獲った獲物で一番でかいのはなんだ?」

「ん〜……そうですねぇ。

 鹿じゃないですかね?」

「鹿か。

 私は熊と出会った事ある」

「そうなんですか。

 僕もつい一ヶ月前程に友達を食い殺されました。あの時は焦りました。

 師団長は熊何頭殺しましたか?僕はまだ1頭です」

「す、済まない。そんな事があったとは知らず、嫌な事を思い出させたな」


 師団長が気不味そうに告げる。


「僕は大丈夫ですよ。

 山では時々狼に襲われた旅人とか木こりいますし」

「そうですね。私もショックでしたが、それが神の思し召しなので……」


 セリナはまぁ敬虔な信徒だしね。僕は神様信じて無いし。


「今の会話で分かると思いますが、今の時期は熊が繁殖期を迎え個体によっては子供を産んでいるので、まぁ、気を付けて下さい。

 狼も同様です。基本的に森を歩く時は鈴とか付けるかして近付けない事が重要になりますね」

「演習で音を出して歩くバカが何処にいる」


 参謀なのか1人のおばさんが声を上げる。


「なら兵卒を食い殺されてください。

 熊は時速60kmで走れます。軍の主力小銃なら頭部の頭蓋骨を貫通して小さな脳みそを傷付ける事も可能です。

 まぁ、そんな余裕あるのか知りませんけど。

 それと、子連れの熊は空腹の熊では無いので部隊全滅させるまで暴れ回るので一人犠牲に〜とかは無理なので連携して狩って下さいね」


 釈迦に説法かもしれないが師団長に熊を殺す際の注意をする。


「我々は熊狩りに来た訳ではない」


 参謀がイライラしたように僕を睨んだ。


「そうですね。

 ま、僕は僕で身を守るので気にしないで下さい」


 ニッコリ笑い話の主導権を返す。


「それで、どうしますか?」


 どうします?と言うと参謀は一通り山を巡りたいと言い出した。


「分かりました」


 立ち上がると全員が夫々の準備をし始めた。

 部屋を出ると僕の小銃を囲んで複数の兵士が何やら話している。なんだろうか?


「ちょっとすいません」

「そのボロボロの銃は君のか?」

「ええ、そうです」

「これは我軍の最新式の小銃ではないか?

 何故、君がそれを持ってる?」


 ふむ。周りの兵士たちの小銃はこの小銃の一つ前の物だ。まだまだ全軍に行き渡っていないと言うことだろう。

 カールさんの話をする。


「なるほど、理解した。

 君の親友の冥福を祈るよ」

「ええ、彼も喜ぶでしょう」


 小銃を背負い、弾のうを纏う。

 外に出ると町の男女比が完全に逆転していた。軍隊は女社会の頂点なのだ。家を守るのが男の仕事なら国を護るのは女の仕事だ。それが魔力を持つ者の責務と言う考えがこの世界に有る。


「あら?兵隊ごっこかい?」


 そして、ぼーっと眺めていたらおばちゃんに話し掛けられた。格好は兵卒。この軍隊の階級は分からないので階級は不明だが少なくとも一等兵や二等兵では無かろう。


「いいえ、道案内です。

 師団長がお散歩したいそうなので景色の良い場所に案内するんですよ」

「成程、そりゃ失礼したね。

 頑張んなよ」


 おばちゃんはニッコリ笑い、タバコを一箱投げて寄越す。吸わないが貰っておこう。


「はい、ありがとう御座います。

 兵隊さんも演習頑張って下さい」

「ああ、ありがとね。

 アルベルタ!早く!準備しなさい!」


 おばちゃんは奥の方にいる兵隊を怒鳴りつける。見れば凄まじくデカイ大砲みたいな銃とその弾薬箱だろう金属製の箱を持った女の兵卒がまごまごしながら仕度をしていた。

 動作一つ一つがトロい。顔形はカワイイ。身長は少し僕より高くガタイも良い。

 ふむ。スペだな。


「い、今行きます曹長どの!」


 アルベルタと言う兵卒は大砲を担いで僕らの所に。


「あ、こんにちわ」

「こんにちわ。

 その武器はなんですか?初めて見ます」


 師団長殿はまだ時間が掛かるようなので会話を広げよう。

 アルベルタは曹長と呼んだおばさんを見る。


「これは対機動甲冑銃だよ。

 口径は13.8mmで、300m先から機動甲冑の装甲を撃ち抜ける大砲だよ」


 銃なのか大砲なのか。


「へぇ、凄いデカイですね。

 これなら熊も一撃で倒せますね」

「ハッハッハッ!

 そうね、熊が出たらそれで撃てば一撃ね」


 曹長はそんな事を考えたこともなかった言うように笑うと、アルベルタの持っていた弾薬箱を受け取り、蓋を開ける。

 中には極太の弾丸がぎっしり詰まっていた。

 正にキャリバー50だ。


「これが弾よ」


 一発抜き取られ、手渡される。

 秒速990メートルで飛び、厚さ60mmまでの装甲板を貫通出来るらしい。

 MBTの破壊は出来ないが、装甲車なら充分に驚異になる。ヘリにも攻撃できるな。まあ、どっちもこの世界には居ないけど。

 撃ってみたいな。


「凄い大きいですね。

 2名1組で扱うんですか?」

「そうよ。

 装填手兼組長と射手のバディーよ。3個組で1個小隊。それを更に3個集めて1個中隊ね。

 13師団には8個の歩兵連隊がいて1個歩兵連隊に1個対機動甲冑中隊が配置されてるのよ」


 成程な。母体は師団直轄だが、運用は各歩兵連隊に落としてるのか。


「難しかったかしら?」

「いえ、とても興味深いです。

 指揮権は歩兵連隊が持っているんですか?」

「いいえ。

 師団、正しくは特別火力支援連隊が保有してるわ」


 うん?


「特別火力支援連隊、ですか?」

「ええ、1個師団に付き1個連隊あるの。

 特別火力支援連隊は私達対機動甲冑大隊、聖歌隊、迫撃砲大隊、そして魔女大隊が所属してるわ」


 おっとおっとおっと?

 知らない単語が出て来たぞ。


「軍隊に聖歌隊なんかいるんですか?」

「そうよ。知らなかった?

 教会で歌ってる聖歌隊と何ら変わらないわ」


 この世界の聖歌隊は女しかなれない。歌を歌うだけなら男もなれるが、それは聖歌合唱団と呼ばれまた変わる。

 歌う歌は魔術が編み込まれており、魔力を操る素質がある者が歌えばちょっとした光やら音の反響やらがプラスになるイタズラレベルの効果が大規模に現れるのだ。


「戦場で歌うんですか?」

「そうよ。信じられないわよね」


 興味を持ってどんどん質問したのが良かったのか曹長は気前良く話してくれた。

 聖歌は歌う事で周囲の魔力を使ってその魔術を発現する。これは魔術の行使と然程変わらない。

 聖歌隊が歌う事で空気中の魔力が一時的に減少し、敵の魔術や魔法の発現がしにくくなるそうだ。

 その為に昔から聖歌隊は戦場ではつきものらしい。初めて知ったわ……


「じゃあ、魔女大隊とは何ですか?」

「文字通り、魔女の大隊だ」

「気を付けっ!」


 背後からの声と共に曹長が叫ぶ。その場の全員が動作を止めて不動の姿勢をとった。見れば師団長がマントを羽織り立っていた。


「待たせたかな?」

「はい。お陰で面白い話も聞けました」


 答えると周りの部下達が凄い形相で睨んで来た。


「ハッハッハッ!

 正直で良い。君は貴族が怖くないのかね?」

「僕は貴族より狼や熊のほうが怖いですね。

 知ってます?熊って足音ほとんどしないんですよ」


 手足の肉球が厚く音がほとんど聞こえないのだ。


「今から山に入りますが、歩くだけなので大声で話したりして下さい。

 もし仮に熊と出会ったら背中見せて走ったり急な動きをしないで下さい。

 数百キロの重さが時速60kmで走って来て人を吹っ飛ばす腕力で引っ掻いてきますよ」


 何人かの兵隊が想像したのか弾を弾倉に込めようとする。


「山に入るので、銃弾は弾倉に入れないで下さい」

「何故だ?」

「ビビって好き勝手に撃って他の人に当たったらどうするんですか」

「我が兵にそんな者は居らんよ」


 しょうがない。


「なら安全装置を確り掛けて下さいね」


 僕も弾を込めて安全装置を掛ける。そして、胸の前に吊る。


「銃は肩に担ぐのよ」


 脇に居た兵士が苦笑しながら吊れ銃を強調する。


「僕は兵隊じゃないので」


 にっこり笑い肩をすくめる。

 因みにこの銃は2点スリングから1点スリングに変えれる奴だ。マルティナの親父さんに作ってもらった特注品でもある。


「不思議な負い紐ね」

「特注品です。

 胸の前に提げて、咄嗟の時には此処を引っ張れば……ね?」


 銃口付近にある折返しの帯を引けば固定が解け、構えられるのだ。


「あら、便利ね!」

「それ、どこで売ってるの?」

「カスゲン縫製店ですよ。

 ほら、彼処の」


 マルティナが庭先を掃いているのが見えたので手を振っておく。


「なるほど。

 おい」


 師団長が脇にいる兵士に何か命令し、兵士は走っていった。


「便利なら我が師団で採用しよう」


 師団長はそんなことを言うと引かれた馬に跨がった。お偉方は全員馬に乗る。お付きもだ。

 そして、僕の前に馬がやってくる。


「僕、馬には乗れないんですけど」

「何?

 まぁ、簡単だ。馬を信じ自信を持って操れ」

「分かりました」


 よっとと言う掛け声と共に馬によじ登り、軽く首を撫でてやる。かなり高い視点だ。前世を思い出す。


「いい眺めですね。

 じゃあ行きますか」


 軽く馬の腹を蹴る。馬はカッポカッポと歩き出した。


「手綱は短く持ち給え。

 馬は時折首や体を動かすからその時は引っ張らないように長くしてやれ」


 師団長が隣に並んで教えてくれた。成程。

 町を出て山に入るまでに何とか基本中の基本を教わった。乗馬、楽しいかも。


「お前はセンスが良いな。

 その憎たらしい性格と容姿に相まって気に入ったぞ。私の愛妾にならないか?」


 師団長が僕の真横に並び告げた。グレーの瞳は真っ直ぐと僕を見ている。


「ハッハッハッ!

 師団長、山に入ったので周りもよく見て下さい。

 今の時季は草木も葉を付けるので獣等を見落とす可能性が大いにあります」

「嘘じゃないぞ?

 何ならこの場にいる全員に誓っても良い」


 師団長はなおも食い下がる。周りの兵隊達は羨ましいという顔だ。

 ふむ、まぁ、逆玉の輿以外の何者でもない。イケメンバンザイ。


「折角ですがお断りします」

「……ほう?なぜだ?」

「この生活が気に入ってるからです。

 楽しいですよ。山に入って一日中獣を撃つ」


 身の丈にあった生活をしたいし、自由も欲しい。僕はベルサイユのばらは好きだがなりたいとは思わない。


「師団長はそう思いませんか?」

「ふむ。狩猟はするが、社会的な付き合いが殆どだ」

「そうなんですね」

「上の兄が狩猟が好きだな」


 上の兄って、やっぱりお貴族じゃん。そんなことを言っていていたら丸々と太った山鳩が目に入る。

 あれ絶対美味しいやん……


「ちょっとすいません」


 綱を引いて馬を止まらせ、負い紐を一点に。安全装置を解除して構えるまでに3秒。

 向こうは警戒していない。

 狙いを定めて引き金を絞る。ドンと撃つと馬はピクリと反応するだけで動かなかった。軍馬は違うな。


「なんだ?」

「美味しそうな山鳩居たんですよ」


 馬で近くまで寄って降りる。距離は150メートル程だ。よし、狙い通り頭にあたってる。


「凄いな……

 頭に当てたのか?」

「はい。可食部増えますし。

 ちょっと待って下さいね、血抜きしますんで」


 腰に提げてる鉈を抜き、首を落とす。そして、足を紐で縛って木の棒で馬から少し離してから吊る。


「お前のお陰で頭撃てたよ」


 馬の首を撫でてやると首を振った。


「さ、お散歩の続きをしましょうか」

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