第5話 異世界転生?甘ったれるなボケ。勝手に死んだ奴に何で其処まで気を使わにゃいけないんだガキコラ

「此処は何の場所だ?」


 ゴードンが熊に食われた場所まで案内する。

 師団長達はキョロキョロ見回し、首を傾げた。徒歩で歩きにくい獣道。馬なんか尚更入れないので近くに馬の見張り番を置いて態々歩いて入って来たのだ。


「ゴードンと言う少年が熊に食い殺された場所です」


 ゴードンが死んでいた場所に寝転がる。ゴードンはこの時必至に熊を殴っていた。


「此処で、彼は下腹部の柔らかい場所を食われてました。生きていたので、必至に抵抗していてましたが僕等を見て安心したのか事切れました」


 起き上がり、持って来た小銃を見せる。


「熊の爪痕です」


 お気をつけて、そう笑うと茂みがガサガサと音を立て始めた。全員が銃を構えて師団長を囲む。人なのに。

 藪を漕いで出てきたのはリディアだった。


「あれ?パックじゃないの」

「やぁ、リディア。

 君もゴードンの墓参り?」


 墓自体は教会の墓地に本埋葬までされているのだが。


「し、師団長閣下!?

 気を付け!」


 リディアの後に続いて出て来た兵隊達は慌てて並んで師団長に敬礼をする。師団長はそれに答礼をして休むよう告げた。


「何でそっちの人達は銃を向けてるの?」


 リディアはマナー違反の兵士達を軽く睨みつける。兵士達は慌てて銃を担ぐとバツの悪そうに僕を見た。


「熊が出るって脅し過ぎたから、かな?」

「呆れた」


 リディアが大きくため息を吐いたその瞬間だった。首筋がひり付く様などうしようもない悪寒が駆け巡る。この正体が何なのか、それすら分からぬままに気が付いたらその方向に銃を向けていた。


「え、何、あれ……」


 木々の合間から見えたのは、巨大な翼竜だ。大きな翼を生やした巨大な竜。劣化竜と呼ばれるそれは所謂ワイバーンだ。ドラゴンと呼ばれる存在のなり損ないが生まれと言われ、ゴブリン以上人間未満の知能を持つ野生の攻撃ヘリみたいな生物だ。

 本来、こんな場所にはおらず北限山脈や海向こうの大陸にしか居ない存在で、一度ワイバーンが来ると町が一つ消えると言われるほどに狂暴だ。

 倒すにはまず間違いなく凄まじい量の死者が出る。

 そんなワイバーンが数匹も居た。リディアはゴードンが食われた時の様に顔面蒼白になっている。


「む、奴等の到着は3日後ではなかったか?」


 師団長が脇に控えている参謀の一人に告げる。慌てているのは僕とリディアだけだ。


「あのワイバーンの正体をご存知で?」


 師団長を見る。


「うむ。

 申し訳ないが散歩はこれにて終了だ。町に戻る。町に戻ったら説明してやろう」


 師団長は僕が慌てているのを観れて満足したと言わんばかりに厭らし笑みを浮かべ、ウムウムと頷きながら歩き出す。

 馬の場所まで戻り、それから全員で駈足の速さで馬を飛ばして町まで戻る。町では突然やって来たワイバーンに逃げようとする市民とそれを大丈夫だと説明し、押し留めて居る兵隊に分かれていた。


「何が大丈夫だよ!

 ワイバーンはこんな町、一瞬で吹き飛ばしちまうんだぞ!」

「だから!このワイバーンは魔女様のワイバーンだから襲わないんだ!」

「その魔女が居ないじゃないか!

 大人しくしている内に俺達は逃げるんだ!」


 しょうがない無いので上空に一発。全員が、僕を見た。


「落ち着こう。こんだけ騒いで襲ってこないんだから、兵隊さんの言う通りだよ」


 僕が言うと、手に持てるだけの家財道具と子供の手を引いた男達は冷静さを取り戻す。


「それに、僕が居るんだ。万が一でも暴れたら、次はドラゴンキラーになっちゃうよ?」


 冗談めかしにいうと全員が笑う。


「幾らパトリックでも出来る訳無いだろうが」

「銃弾で死んだら俺達だって逃げはしねぇよ」

「ちげぇねぇ!」


 全員が悪かったなと兵隊たちに謝り、家に戻っていく。騒ぎが収まると教会から黒いローブととんがり帽子を被った女の一団が現れた。

 魔女。そう、魔女だ。

 この世の理の外に存在する女達。


「お早いお着きだな魔女殿よ」


 師団長は馬から降りて一団に近付く。魔女達はゆっくりと師団長の前まで歩いていく。ローブの下は師団長や参謀たちに負けず劣らずの改造制服だ。成程、わが軍では魔女は特権階級と同等の扱いを受けるのか。

 上は皺くちゃ、下は僕と同じぐらい。全部で4人の女が師団長の前に立つ。ぱっと見全員弱そうだ。


「これはこれは」


 皺くちゃの魔女が慇懃に頭を下げるが内心は見下している感じだ。師団長や所謂貴族出身者はそれを感じているのか若干イラついている。


「師団長、僕はどうすれば?」

「君か?

 私の傍に居ろ」

「分かりました」


 馬の後ろに吊った山鳩を手に持って師団長の後ろに並ぶ。


「その猟師は?」

「この山の案内人よ。

 山に入るなら彼に道案内を頼みなさい」

「面白い冗談ですね。

 道に迷ったら空を飛べばわかります」


 なるほどね。


「魔女は一つの魔術に特化した存在と聞きますが、そんなに凄いんですか?」

「こんなクソ田舎には魔女は居ないのだろう」

「私は雷を操れる」


 神経質そうな女が告げた。


「単純な思考をする生物なら何でも操れる」


 皺くちゃが告げる。


「て、天候を操れます」


 気の弱そうな少女が告げる。

 え、なにそれスゴッ!?


「凄いですね!

 天候操れるんですか!?」

「あ、は、はい」

「どんな場所でも操れるんですか?」

「はい」

「えー!凄いな!貴女が居れば帝国軍は無敵ですよ!」


 べた褒めしてると脇にいた神経質な魔女が前に出る。


「高々天候しか操れない奴より私の方が強いわよ」

「お前はどっちが我軍に有益となると思う?」


 師団長が僕に告げる。


「お前たちも考えろ。

 どっちの魔女が強い?」


 僕以外の全員が雷の魔女を指差した。


「何故だ少年」

「何故って。

 それは確かに1対1ならそっちの雷さんが強いだろうけど、軍隊にとっては広範囲に長期的に影響を与え続けられる天候を操れる天気の魔女様の方がよっぽど帝国軍に有益です」


 他にも色々あるけどね。


「例えばどんな状況でどんな天候を使う?」

「塹壕戦なら相手の塹壕に一ヶ月以上雨降らせます。可能なら雷雨を。

 そして、自軍陣地には曇りにします。時折風を吹かします」

「塹壕戦?」


 何だそれは?と師団長が参謀を見る。参謀ははて?と首を傾げた。あれ?この世界は塹壕戦無いのかな?


「地面に穴を掘って、お互いに撃ち合うんですよ」


 言うと全員が笑った。


「何故そんな馬鹿なことをする!」

「穴を掘る前に敵を撃ち殺してしまえばいい!」

「その為の我々魔女だ」

「竜騎兵や騎兵の突撃に踏まれて終わりだぞ」

「所詮は何も知らぬ子供ね」


 ふむ。ま、良いや。日露戦争前の日本や、第一次世界大戦前のヨーロッパもそんな感じだった。


「塹壕戦にならないなら良いです」

「それはなぜか、参考までに教えてくれまいか?」


 師団長も笑いを堪えながら尋ねてきた。


「一言で言えば、戦争が長引いて国の生産力と資源が勝負の分かれ目になるからです」

「あ〜……戦場はどうなる?」

「ん〜……」


 どうなる?どうなるとは何だ?


「どうなるとは?」

「兵士の戦い方、戦場での推移だよ」

「ああ。

 多分、国境線に沿って際限なく塹壕戦が伸び伸びになります。機関銃ありますよね?」


 広場に対空用なのか三脚に置かれ、上空に向けられた重機関銃を指差す。


「アレのせいで一回の突撃で下手すると一個連隊消えます。

 何十万と言う犠牲を出し、100メートル進むのに1週間掛かるかもですね」

「馬鹿な!」

「それと、塹壕は水が貯まるので重度の水虫と皮膚病に破傷風等諸々が発症します。

 最悪足切り落とす……いや、死にますね。重傷だと足切り落とすか指落とすかですね」


 あの画像は本当にグロかった。


「他には」

「え〜?

 あ、そうだ。1週間で数百万発砲弾撃ち尽くすんで砲弾の備蓄が「分かった分かった」


 脇にいた参謀がそれを遮る。


「良く出来た妄想だ。猟師を辞めて物書きにでも成りなさい。

 師団長、そろそろ中に。会議があります」


 暗に帰れと言われたので帰ろう。


「じゃあ、明日は8時頃に来ますね」

「ああ、もう帰っていいぞ」


 失礼しますと師団長に別れを告げて家に帰る事にした。家に帰る途中、リディアが兵士達に囲まれて酒場に引っ張られて行くのが見えた。

 南無南無。

 小銃を担いで町を出たところで、誰かが跡を付けてきている。まだ完全に日は落ちていないが、あと30分もすれば真っ暗になるだろう。

 家に直接向かう事なくかぎ針歩きをする。これを数度して追跡を撒こうとしたが駄目だった。


「何が付けてる?人か?」


 前世と今世の知識と技能をフル活用してこのストーカーを撒こう。普通に怖い。

 鞄からマルティナに作ってもらったギリースーツの試作品、ギリーマントを取り出して羽織る。木の根元を掘り返し、マントと着ている服に土を擦り付ける。

 そうこうしていると日は落ちた。

 小銃を胸の前に提げて靴を地下足袋みたいな構造の物に履き替える。ブーツと違って足音を消してくれる。

 顔にも泥を付け、頭の形状をぼやかすために大きめに作ったフードを被れば偽装完了。

 足音を殺す様に歩き、足跡が探し難い低い草木の場所を歩く。北海道ならクマザサがそこかしこに生えていたので歩くのに便利だったのだがこの世界には存在しない。

 ま、良いさ。

 季節は夏になりかけた春。身を隠すには最適だ。生い茂る草は姿を隠し、陰影を増やす。


「さて、どうするかな?」


 足音を殺して歩き、そもそも付けてきている奴を確かめる事にした。適当に獣道を8の字を書くように大きく周りある程度してから木の上に登る。

 平常心を持ち、木になる。木化けとか言うらしい方法で木と同化し、木と成ることで獲物に殺気を気取りずそして見付からない。

 動物は目は悪いが鼻や耳、そして第六感が鋭い。故に木になる。

 人間はその逆だ。今回はよく分からん相手だが人間だ。夜になったので目は効かないが耳が少し上がった。

 じっと待っているとカサカサと音がし始めた。見れば下を何かが歩いている。人で、頭には何も被っていない。いや、フードを被っている。手には弓矢を持っている。


「……」


 弓、今時弓。弓を使うのは海向こうの大陸のエルフ族やゴブリンとか言う低能な種族らしい。

 今更ながら、この国がある大陸と海を挟んだ大陸の2つの大陸があるそうな。

 そして、海向こうの大陸。通称南大陸はファンタジーな生き物が多く居りファンタジーな種族もいる。

 対して僕等のいる通称北大陸は人族しか居ない。港がある南沿岸部の国々は交易によった向こうの大陸の人達が居るらしいが北限に近いこの国、そしてその更に北にある僕等の領土には居ない。

 少なくとも僕は見たことが無い。


「……どこに行った?」


 追跡者はキョロキョロ見回し、それから何やら手を翳す。何がする気だ。取り敢えず上から襲うか?


「上?」

「見付かったか」


 そのまま飛び降りて銃床で頭をぶん殴ってやる。多分死なない。死んでも後を付けられてたし武装してたからと言えばなんとかなるだろう。

 あやしいやつめー


「取り敢えず縛るか」


 息をしているのを確かめて、両手足を縛って目隠しと口にハンカチを詰め込み轡をする。そのまま担いで家に持ち帰って、地下の倉庫に放り込む。

 その際にもう一度確りと両手足を縛り、轡とか目隠しも頑丈にする。序に耳栓もする。その際に耳が見えたが、所謂エルフ耳だった。

 初めてのエルフさんかな?

 体を検めるとよく分からない道具とか後は人を殺すのに特化した様な剣とか見つけたので没収。

 鞄も没収。暗器みたいな道具も出てきたので服を全て取っ払って素っ裸にしておいた。このエルフは貧乳でした。

 縛ってたので服は切ったりしたが、まぁ、良かろう。

 明日、覚えてたら村長に報告しておくかな?


「さてはて、何が入っているのかな?」


 カバンを開けると何かまぁ、良く分からない道具とか出てきた。変な粉の入った瓶とかよく分からない言語の手帳とか、後は……何に使うのか細長い木の枝とか。


「ゴミばっかだな。

 僕の鞄も人のこと言えないけど」


 取り敢えず、夕御飯にしよう。山鳩を塩漬けにし、ここ数日食べているポトフを食べる。この体、米や味噌を欲しない。

 いや、まぁ、帝国人普通なドイツ人みたいな食文化だから米とか味噌とかは食べないのでこの体は米も味噌も知らないのだ。

 逆にポテトとソーセージにベーコン大好きになった。


「腹ごしらえもしたし、シャワー浴びて寝よう」


 シャワーと言っても湯を沸かし水で薄めて浴びて石鹸で髪と体を洗うだけだ。シャワー後はベッドで体を解し、睡眠。

 朝は6時に目を覚ます。時計は高いけど有るのだ。父親や祖父の遺品だ。地下倉庫に行けばエルフが暴れようとしていたががっちり縛っていたのでモゾモゾしているだけだった。


「お早うエルフちゃん。

 君の名前は?」


 モガモガ。


「目的は?」


 モガモガ。


「なにか言ったらどうだい?」


 モガモガ。


「まぁ、口に轡してるからね」


 外してやる。


「お前!私にこんな事して「聞かれたことだけに答えてね?

 なまえは?」

「この拘束を外せ!」

「ま、良いや。

 暫く放置してみるか。じゃあねエルフちゃん」

「巫山戯るな!?この拘束を外せ!」


 大口を開けて居たのでハンカチを押し込み轡をする。よし、行くか。

 家に戻り軽い筋トレをしてシャワをー浴びてから朝食をとる。朝は7時30分を過ぎた。そろそろ町に向かおう。

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