第2話 あのぉ!転生ぇ!したのでぇ!

 明後日、カールさんに借りたライフルといつもの相棒を片手に街に向かう。町の入口にはリディアとマルティナにゴードンとセリナが居た。


「やぁ皆。

 今日は鳥を撃ちに行くよ。セリナも一緒に行くかい?」

「勿論です!

 ですが!鳥撃ちに行くのでしたら少しお待ちを!私も参加しますわ!」


 そう言うとセリナは走って街に戻りそれからダブルバレルの散弾銃を片手に戻ってくる。後ろには犬を連れた庭師のアルフレッドさんがついて来る。


「さぁ!行きましょう!」

「うん」

「絶対負けねぇぞ!」

「わたしも負けないから!」


 鳥撃ち勝負になったぞ。面倒臭い。

 アルフレッドを見ると申し訳無さそうに僕に頭を下げるので僕はお互い様ですと答えておいた。

 それから6人と1匹で森に向かう。銃を持っているのは僕、ゴードン、リディア、セリナ、アルフレッドの5人だ。


「アルフレッドさんも鳥撃ちを?」


 アルフレッドさんもダブルバレルの散弾銃を背負っている。


「まさか。これは狼や熊なんかが出てきた際に使うんですよ。なので」


 ホラと出された弾はスラッグ弾。一粒の弾が封入されたショットシェルだ。この世界はそこそこ時代が進んでいるのでライフル弾は真鍮の薬莢もあるし、少し高価だが無煙火薬の小銃弾もある。

 ただプラスチックはまだ無いのかショットシェルは紙製だった。厚紙の筒に火薬と雷管に弾が入っているのだ。

 山の入り口に行き、銃を体の前に持っていく。所謂ローレディ。槓桿を操作し薬室を開く。新型小銃には安全装置があるので装填してから安全装置を掛ける。


「さてはて、何の鳥を撃つかな?」

「私は食肉になる鳥を撃つわ」

「俺は何でも良いぞ!」

「私も何でも良いわ!」


 食肉に成る鳥を探すのか。カモとかそう言うのだな。


「売るように綺麗な羽や日用品に使える羽を持つ鳥も撃とうよ」

「良いだろう。

 それじゃあ、一番多く鳥を撃った者の勝ちだな!」

「いや、売れる鳥を多く獲った者の勝ちだよ。

 鳥なら何でも良い訳じゃないし」

「そうね。

 ではそうしましょう。さぁ、行きますわよ!」


 セリナがズンズン奥に行ってしまう。なのでその後を追い掛ける様にして続く。


「マルティナとアルフレッドさんはここで待ってて」

「はい、お気を付けて」


 それからまぁ、ゴードンとセリナが喧しくすぐに鳥は逃げていってしまう。


「何で一羽も取れないのかしら!」

「それは君達が煩いからだよ。

 此処でちょっと待っててくれる?」


 3人に待機するように告げて奥に向かう。

 足音を殺しながら歩き、鳥の声や音を聞く。


「……」


 案の定、木の枝に鳥が止まっている。あれは山鳩かな?何時も使っているライフルをその場においてその場にしゃがむ。中間姿勢……は体勢が悪い。その場に仰向けに寝転び背中に上着と鞄を纏め上半身を起こして狙う。

 旧軍の対空射撃の方法だ。まぁ、こんな方法での射撃はこの世界に来て初めてやったんだけどね。

 距離は約300か?小さいな。


「……」


 息を深く吸い吐く。感情は無い。殺すのでは無い。構え、狙い、引き金を絞る。殺意は出さない。無駄な感情は必要無い。前世では全く知らなかった。

 構え、狙い、引き金を絞る。

 ドンと音がした瞬間には鳥が落ちていた。


「一応、頭を狙ったけどね」


 よっこらせと立ち上がり、槓桿を操作。次弾を薬室に入れて安全装置を掛けた。

 それから脇に置いた愛銃を持って鳥の元に。鳥を見れば首は無く成っていたので上手く頭に当てれたのだろう。

 逆さ吊りにして血抜きしつつ3人の元に。


「取り敢えず一羽捕れたよ」


 持って帰ればゴードンとセリナは納得行かないという顔をしていた。


「山鳩?

 凄いわね頭撃ったの?」

「たまたまさ。

 カールさんが貸してくれたこの銃、凄いね。撃った後全然煙たく無い」

「あ!?お前!それ!ズルいぞ!

 新しい銃使えば俺だって山鳩の一羽や二羽あっという間に狩れる!」


 かせよ!と言われたので貸してやる。元々は彼の家の銃だ。

 安全装置の扱いを教え、使用分の一発を補填して渡す。


「次は俺が狩ってくるからな!

 皆待ってろよ!」

「行ってらっしゃい」


 ゴードンを見送り、僕は愛銃をローレディ。

 左手の人差し指と中指、中指と薬指に弾を挟み待機。


「あの銃、どうなのかな?」

「銃じゃないよ。撃つ人の腕さ。ゴードンには勿体ない性能だと思うし、何より彼はあの銃の癖すら聞かぬまま行っちゃったからね。

 僕は昨日癖を調べたから良いけど、彼はまず当てられないよ」


 癖、とはその銃が的を狙った際に何処に弾着が偏るのか?と言う事だ。あの銃は距離300メートルで右下に弾着が集まる特性に在る。

 狙う際は左上を狙うように意識して撃つと良いのだが、それを彼は知らない。


「彼には勉強になるだろうね」


 なんて言っていたらぎゃあぁぁ!と凄まじい叫び声が聞こえ、何やら声にならない声と共に助けてくれと続いた。嫌な予感がする。


「2人はアルフレッドさんの所に行って!」

「あたしも行くわ!

 セリナはアルフレッドさんの所に!」

「わ、分かったわ!」


 この中で1番腕の良いのは僕だ。続いてリディアで、大きく離れてセリナとゴードンだ。


「リディア、弾を薬室に込めて」

「えっ!?」


 山での約束は撃つ前に弾を薬室に入れてはいけないという約束がある。これは町のハンター達の間で交わされただけの約束だが、大体何処のハンターもやっており皆律儀に護る。

 理由は簡単、獲物と誤認して早発してそれが実は人でしたと言う事故が多発した為だ。


「一発弾込め。良ければ報告!」

「よ、良し!」


 リディアが僕を見る。


「僕が撃つまで絶対に撃っちゃ駄目だ。

 動作は僕が指示する。その通りに頭を動かして。余分な事は考えちゃ駄目だよ?」

「わ、分かったわ!」


 リディアが緊張感を増した顔で頷き、弾を銃に込める。僕も弾を一発込める。

 ローレディに銃を構えて声のした方に走る。何処まで行ったのか100メートル200メートルの距離では無い。

 周囲を素早く観測し、前進する。前世の記憶が蘇る。懐かしき接敵行進だ。息を殺して前進し、痕跡を探す。リディアも同じ様に痕跡を探す。

 何故だか途轍もなく嫌な予感がする。崖から落ちたとかそう言うものじゃない。何故ならこの近くに崖は無い。そういう場所を選んだのだ。崖に行くには数キロ移動する必要がある。

 故に、崖等からの転落とかでは無い。となると他にあるのは木の根に引っかかり足を折ったとかだ。しかし、それならあんな声はしない。

 となると、だ。狼や熊などに襲われている可能性がある。今は春。冬眠から目覚めた熊や子供を生んだ狼などが獲物を探して彷徨くことも在る。


「糞、ゴードン!ゴードン!何処に居る!」

「ゴードン!返事して!」


 焦りから僕が叫ぶとリディアも叫んだ。

 叫びながら前に進むと何やら黒い物がモサモサ動いていた。強烈な獣臭いだ。


「ああ、そんな……」

「糞、マジかよ……」


 黒いものは熊で、に必死に頭を突っ込んでいる。そのは手に銃を持っておりそれで力弱く殴っていた。

 間違いなくゴードンだ。首から下げている笛を咥え思いっきり吹く。ピリリリリと鋭い警笛は熊の注意を引きつけるのに十分だった。それと同時にリディアも我に返る。


「リディア!熊の弱点は分かるな!」


 熊に銃口を向けてリディアに大声で怒鳴る。


「わ、分かるわ……」

「大声で返事!」

「大丈夫よ!」

「よーし!ゴードン!ちょっと待ってろ!

 今、この熊を追い払ってお前を助けてやる!」


 ゴードンは返事をしないし抵抗も止めてしまった。熊を見越して見ればゴードンは呆然と空を見ている。


「熊テメェ!コラァ!」


 腹から精一杯怒鳴る。熊はゴードンと僕等を遮るようにこちらを警戒し、それから暫くして立ち上がだろる。

 大きく見せようとする威嚇だ。熊の弱点は脳みそと心臓だ。素早く狙いを付けるのだ。


「リディア。熊が立ち上がったら心臓を狙って撃て」

「む、無理よ!」

「距離は30メートル!目標は地上から概ね150cmの位置。鳥を撃つより簡単な射撃だ。構え!」


 叫ぶとリディアが直ぐに構える。僕は両手を大きくゆっくり挙げると熊はビクリと動きを止めその場で立ち上がる動作に移る。


「狙え!」


 僕はそのまま手を自然に下ろしながら銃を構えて狙いを定める。


「テッ!」


 ババゥンとその場で二発の銃声が響き、熊の胸元に二発の弾が当たる。それと同時に熊は前に倒れる。


「リロード!」


 リディアに告げるとリディアは慌てて震える手で弾盒から弾を取り出し地面に落とす。


「落ち着け!確り動作をこなせ!」


 僕も槓桿を素早く操作して排莢し、左手の弾を込める。

 そして倒れた熊の頭部に狙いを付けて一発。二の矢だ。リディアも今度は確実に弾を込めて二の矢を頭に撃つ。

 この町では少なくともくまの脳みそを食う習慣はない。

 それから2人でお互いに5発づつ撃ち込んだ。10発も撃ち込めば頭は完全に壊れ、周りは青白い煙で視界不良になった。


「ゴードン!」


 そして、倒れているゴードンに近付けば腹から腸を溢し、両足が変な方向に曲がっているゴードンが居た。

 息を確かめると死んでいた。


「ゴードン……」


 見開いた目を閉じてやる。


「う、嘘よね?」

「君のせいじゃない。僕等は最善を尽くした」


 リディアがペタンとその場に崩れ落ち、それからその場で倒れてしまった。慌てて、それを抱き留め、ゴードンから少し離れた場所に寝かせると犬の鳴き声と共にアルフレッドを連れたセリナがやって来た。


「熊です。ゴードンが死にました」


 犬は死んだ熊の匂いを嗅ぎ、それら周囲をウロウロ回って警戒するように僕等の横に立つ。

 セリナとアルフレッドはゴードンの元に駆け寄りそれから被っていた帽子を脱いだ。


「僕とリディアが駆けつけた時はまだ息があったんです。

 それで、熊を引き離して完全に射殺してから駆け寄った頃にはこと切れてました」

「……パトリックさん。アンタさんは何も悪くない。

 ゴードン君は運が無かったんだ」


 脇に落ちている銃を拾い上げる。安全装置は掛かったままで一発も撃てていなかった。


「……クソ、安全装置の解除が出来なかったのか?」


 必死になって槓桿を動かそうとしたのか、ボルトハンドルの周りに血が付いているし、何なら火事場の馬鹿力なのか少しばかりハンドルにガタがあった。先程までは一切無かったのに。


「取り敢えず、今、マルティナが町に非常事態を告げに行った。

 此処は私とラックに任せてパトリックとお嬢様は町の者の迎えに行ってください」

「わかりました。

 ゴードンとリディアをお願いします」


 青白い顔のままどうするべきか考えが纏まっていなかったセリナの腕を掴む。


「セリナ、落ち着いて。

 森の入口まで町の人を迎えに行くよ。銃を確り持ちなさい」

「え、ええ!わかりましたわ!」


 ハッと我に返ったセリナは頷き、少しばかり震える手で散弾銃を持って僕と共に森の入り口まで走った。

 彼女もまた恐ろしいのだろう。

 しかし、ゴードンはグロかった。人間の肉は、腸はああもピンクなのかと。鹿やその他小動物の解体で内臓や死体は見慣れているつもりだった。

 しかし、やはり、人間だと少し勝手は違うのかもしれない。

 兎も角、先を急ごう。

 余計な事を考える前に身体を動かすのがセリナや僕の為だ。

 森の入口にまで行くとマルティナが町の男達を連れて待っていた。

 その中には町の警察署長や警官も居り、そしてカールさんもいた。


「パトリック!」

「カールさん」


 言うかどうか迷う。


「カールさん、気を確かに聞いてください」


 カールさんの前に立つと自然と不動の姿勢に成る。負い紐を確りと握り、身体に痛いほど圧着させる。


「ゴードンが熊に襲われて、死にました」


 周囲の男達がざわめき出す。


「熊は僕とリディアで殺しました。

 現在、ゴードンの所には気絶してしまったリディアと二人の安全を確保しているアルフレッドさんが居ます。

 セリナはマルティナを家まで送って、そのまま家に帰って町長に報告。僕は案内をするから」


 後ろで固まっているセリナに指示を出す。セリナは白い顔のまま頷いてマルティナの手を引いて町の方に向かう。その後を警官が慌てて付いて行く。


「行きます」


 宣言する様に告げる。

 カールさんは何も言わなかった。手にはカールさんの店で一番高いが高性能な自動式散弾銃が握られている。

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