異世界に転生したので現代知識で無双出来たら良いな

はち

猟師の経験と様々な出合い

第1話 転生したのでぇ!

 野生動物は人間よりも卓越した身体能力や頭脳を保有している。例えば鹿。鹿は我々人間よりも速い脚、我々人間よりも高い聴力を保有している。

 故に近付く際は際限ない慎重さを求められる。

 そして、そんな鹿を狩るのには二種類の方法がある。一つは罠。何でも良い。トラバサミやスネア、落とし穴。その生態と縄張りを知っていれば容易に取れるだろう。

 もう一つは狩猟だ。昔は弓、今は銃を用いてバイタルゾーンに一撃を入れて絶命させる。僕はこっち。

 両親が早くに、具体的に言えば転生して3年目に、死んだ僕は山に居る父方の祖父母に引き取られた。かなり古いライフル銃を片手に祖父と山に入る。

 そんな祖父母も僕が14歳の頃に死んだ。

 厳冬に風邪を引きいてそのまま死亡だ。風邪と言うかインフルエンザだった。


「天涯孤独、と言うわけではないけどこれからは一人で生きなくては成らない」


 どこぞの島国で作られたとか言うくっっそ古い単発式ボルトアクションライフルを片手に山に出る。

 鹿を二頭狩り、バラしてから一頭は僕の食事、もう一頭は近くの町で売る。そんな生活を2年続けていた。


「パック」


 いつもの肉屋に鹿肉を卸に行くと肉屋の親父がいつもの朗らかな笑みを消して立っていた。


「なんです?」

「うちの娘、知ってるだろ?」


 ソバカスまみれのリディアだ。町でもソバカスリディアとか肉屋のリディアと呼ばれている。


「ええ、時々肉の解体手伝ってくれたり狩りに行きます」


 銃の腕はお世辞にも上手いとは言えない。僕の方が上だ。


「服屋のマルティナは?」

「知ってます」


 時折、冬物や夏物をシーズン外に補修に出す。

 その際になんだかんだで会話するのだ。


「じゃあ、ドーランんトコのセリナは?」

「勿論」


 セリナは町長の娘で異世界特有の魔術の能力に秀でている。頭が少し良く僕が爺さん達が死ぬ迄時々通っていた寺子屋みたいな場所で僕と良く成績を競い合っていた。


「そうか。

 お前、今年で16だろ?」

「エエそうですね」


 嫌な予感がする。


「縁談が上がっている」


 この世界、何故か男は家に入って畑仕事をし、女は外に出て稼ぐと言う世界だ。理由は簡単魔術が存在し、その魔術も女しか扱えないからだ。

 外に出るとは、まぁ、昔は狩猟や政だったそうで、今は色々だな。


「縁談ですか」


 やっぱりか。

 前世では恋人とも長続きしなかった。結果死ぬまで独り身であった。人前に性欲はあるし、三人で何度かオナニーしたことも在る。ただし、そういう関係になりたいとは思ったことは無かった。


「ああ、そうだ。

 俺としちゃお前がうちの娘に婿養子として入って肉屋を継いでくれりゃ万々歳だが、ドーランの野郎やカスゲンの奴もお前なら娘の夫にしてやっても良いって言ってる」


 面倒臭いな。


「そうなんですね。

 取り敢えず、一旦、持ち帰って考えて良いですか?」

「ああ、当り前だ。

 ほら、今日の分だ」


 肉代が何時もよりホンの少し多い気がした。僕は金を見、親父さんを見る。


「愛娘なんだ。出来ることはするさ」


 悪びれも無い。なるほどね。


「ご厚意に甘えませて貰いますよ」


 肉屋から立ち去ると件のリディアが僕の使ってる小銃よりも上等なライフル銃を担ぎ、少しばかりおめかしして立っていた。顔は少し赤い。


「き、奇遇ねパック!」

「うん。

 どうしたの?そんなもの担いじゃって」

「と、鳥とか狩りに行こうかと思って!」

 

 鳥か。今の時期は越冬して栄養を付けるためにやって来た水鳥がのんびりしてる時期だ。腹一杯に魚を食い、ブクブク太っているので肉も美味い。


「そうなんだ」

「ええ!い、一緒にどうかしら!?」

「今日はやめておくよ。

 明後日狩りに行こう」

「わ、わかったわ!明後日ね!絶対よ!忘れないでね!」

「うん、勿論さ」


 リディアは破顔すると走って肉屋に入って行った。

 僕はそのまま服屋に。


「こんにちわ」


 服屋にはマルティナと親父さんが居た。店先の工房にはこれ見よがしに婚約用のドレスまで飾ってある。


「やぁ、パトリック。

 何か御用かな?」

「はい。

 冬の間に獲った狐とこの前獲った鹿の皮持ってきました」

「お、この前言ってたやつだね。

 なるほどなるほど。流石パトリックだね。弾の侵入口は一箇所で抜けたあとも無い」


 これに関しては弱装弾を使用する事で解決する。通常装填よりも弾の威力や射程が落ちるがその分弾着した際の弾頭が威力を急速に失い、体内に留まり、同時に反動が下がるので命中率も上がるのだ。


「ええ、頑張りました」


 親父さんは次も期待してるよと頷きドレスを見る。なのでそちらに視線をくれてやる。


「どうだい?」

「良いと思いますよ」


 正直どうでも良い。


「ハハハ、パトリック。

 もっと具体的に褒めなきゃ」


 親父さんが苦笑しながらアドバイスをくれた。なるほど。


「なるほど……」


 そんな事を言われても、どうでも良いからなぁ……


「うーん……全体的に白いドレスに胸の青い花の飾りが目を引くね。個人的には良いと思う。

 スカートの裾にも青い花の刺繍で一周囲ってるのも良いと思うし、スカート自体も女の子が好きなフリフリのスカートじゃなくてシンプルなスカートは僕は好き」

「ホント!?」

「うん」


 マルティナが嬉しそうに僕に近付く。彼女がデザインしたのだろう。


「私がデザインしたのよ!」

「へーそりゃ凄いね」

「でしょ?

 良ければパックの服もデザインしてあげようか?」


 ふむ。

 何時も持ち歩いている肩掛けカバンから少し大き目の手帳を取り出す。これは僕がこちらに来てから持ち歩いる必需品の一つだ。前世の記憶やそれを思います手掛かりなどを纏めたり、この世界で学んだ事を書き留めてある。

 言語は日本語とこちらの世界の言葉。

 そんなメモ帳のとあるページを開く。


「これ、作れる?」

「なにこれ?」


 マルティナが顔をしかめる。


「ギリースーツ」

「ぎりー?」


 マルティナが首を傾げていると親父さんが貸してご覧と手帳を覗き込む。


「ふむふむ。

 不思議な文字な事は置いておくとして、これは……マント?いや、網を服に縫い付けているのかな?」

「ええ、そうです。

 キャンバスとかで作った丈夫な服にフードを付けて、背中と腰回りに漁網を縫い付けるんです」


 口で軽く説明するとマルティナの親父さんがすぐにメモ帳を取り出して書き出す。


「なる程なるほど。

 他には?」

「肘と膝は厚めに、後は胸のボタンは二重布にしてボタンが隠れる様にして欲しいです」

「ふむふむ」

「それと、ポケットは両足の左右の大腿部に大きなのを付けて欲しいですね。

 上着は胸ポケットを大きくして欲しいです」


 親父さんはなるほどなるほどと頷く。


「何に使うんですか、その変な服」

「狩りに使うんだよ。

 人間のシルエットって頭部が1番目立つんだよ」

「何故?」


 何故?さぁ?


「それは知らない。

 でも、目立つんだよ。だからそれを隠す為に頭をフードでぼやかして頭に草や木の枝、ボロ布とかで誤魔化すんだよ」

「隠すとどうなるの?」

「野生動物が油断しやすく成る」


 なるほどとマルティナが頷く。


「良いよ、作ろう」

「ホントですか?

 幾ら位ですか?」


 親父さんがちょっと待ってとパチパチそろばんを弾き出す。そして、この位と出された値段は5万マルクルだ。マルクルはこの世界のこの国の貨幣価値だ。

 この世界でオーソドックスかつ主食な黒パンが100マルクル。


「意外に安い」


 もっとするだろうと思ったが。


「君には色々と良くして貰ってるからね」


 親父さんは一瞬マルティナに目をやりそれから僕を見る。肉屋と同じかな?面倒臭いな。


「じゃあお言葉に甘えます」


 何も分かってないアホの振りをしよう。

 ちょっとアホだけど優秀なパトリック君だ。


「何時ぐらいに出来ますか?」

「そうだね。

 構造自体は簡単だから一週間もあれば出来るよ」


 やりー。


「ありがとう御座います」


 それじゃあと服屋を後にしようとしたらマルティナが付いてきた。


「今度ピクニックに行かない?

 最近暖かくなったし、どうかな?」

「良いよ。何時行く?」

「明日、明日はどうですか?」


 明日か。よし、此処はちょっと空気読めないけど優秀なパトリック君だ。


「じゃあ、明後日はどう?

 鳥を撃ちに行くんだ」

「わかりました!

 そうしましょう!腕によりを掛けてお昼を作りますね!」


 やったぜ。タダ飯ゲット。


「うん。期待してるね」


 マルティナは浮き上がらんばかりに楽しそうに店に戻って行くのでそれを見送ってから今度は銃砲店に。


「お!パトリックじゃないか!」


 店に入ればガンスミスをしているオッサン、カールさんだ。


「こんにちはカールさん。

 火薬買いに来ました」

「おう、そうじゃろうな。

 ほれ、弾頭もあるぞ」

「ありがとう」


 金を払い商品を受け取る。


「あ!パトリック!テメェ!」


 カールさんの息子、ゴードンが小銃を片手に飛び出てきた。


「やぁゴードン」

「勝負だ!」

「良いよ、明後日鳥撃ちに行くから勝負しよう」

「上等だ!」


 ゴードンは走って戻って行った。


「あのクソ阿呆は……

 パトリック。あのバカ息子をコテンパンにしてやってくれ。

 最近、猟師になるなんてアホな事を言い出したんだ。お前如きじゃ猟師で食っていけ無いってのを分からせてやってくれ」


 カールさんがハーッとため息を吐くと椅子に腰掛ける。


「分かりました。

 ゴードンは散弾銃持って来ますかね?」

「そんな計算出来るほど奴は賢く無い。

 どうせ、お前さんに憧れて小銃を持っていく。そうだ、お前さん、この新しい小銃買わんか?」


 そう言って出てきたのはボルトアクションライフル。槓桿を上げて薬室の固定を解除し、手前に引いて薬室を開放する。


「装弾数は5発。

 口径は8mm。1150mmで4.5kgだ」

「ふむふむ。

 小口径なのは無煙火薬だからですか?着剣装置があるから軍用かな?

 連発式で安全装置まで付いて重さは僕の使ってる重と同じ。

 これ、最新式の歩兵銃ですよね?照準は……目測だから500位が限界ですけど多分、2kmは届きますよね」

「お!聞いただけでそこまで分かるのか」

「ええまぁ、ざっとですけど」

「お前、俺んトコの店の後継がねぇか?」

「ハッハッハッ。

 あと三年この生活が続けて不都合出てきたら跡継ぎを考えますよ」

「言ったな?」


 カールさんの目が割とガチになった。


「ハッハッハッ」


 笑って誤魔化す。


「その銃貸してやる。

 お前がレビューしてくれりゃ売上も見込めるだろうよ」

「良いんですか?」

「良いとも。

 弾も30発やる」


 やったぜ。明後日コイツといつもの銃を持って行こう。

 よし、家に帰るか。夕飯はシチューよー。

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