3度目の正直?2度あることは3度ある?②

 圭介は目的に向かいながら、さっきのことと、以前にあったことを頭の中で反芻する。

 今回は男。前回は女。

 2回とも俺が運転するトラックで跳ねてぐちゃぐちゃになったはずなのに、しばらくすると消えていた。一体全体どういう事なのだろうか。考えても考えても答えは出ない。

 圭介の思考はもうパンク寸前で、運転操作を何度か間違え、危うく事故を起こしそうになった。


 —こんなわけのわからない事で、俺が死んだらたまったもんじゃねぇ!


 前回もそうしたように、圭介はあまり考えないように今回の出来事も頭の隅に追いやることにした。


 15:15にやっと目的地にたどり着いた。

 工場の守衛にフロントグリルの傷のことを尋ねられたが、圭介は鹿にぶつかったのだと適当に濁した。実際に職場の先輩が何度も山道で経験していたことだった。先ほどまでの道のりの中で運転しながら会社への言い訳を考えておいたのが役に立った。

 守衛も経験があるらしく、あれは困るよなー、なんていいながら、轢き殺した鹿を、そのまま知り合いのハンターのところまで持って行き解体して食べたという武勇伝を語ってくれた。心底どうでもよかった。適当に相槌を打った圭介は車を進め、荷物を積み込むために指定の位置に停車した。


 担当者が現れたので、遅刻したことを謝罪してから今回の仕事をお互いに今回の仕事について確認をした。

 今回圭介が運ぶ荷物は、複数のパレットの上には沢山の段ボール箱が積まれ、テープで固定されていた。


「今回、多くてね。フォークリフト使える?」

「あ、使えます」

「なら、あそこの使って、よろしくね。終わったら声かけてよ」

 そういいながら、担当者は鍵をよこすと、事務所の中に消えていった。

 圭介は間の抜けた猫のキーホルダーのついた鍵をプラプラとさせながらフォークリフトに乗り込んだ。操作方法は知っている。しかし免許はまだ持っていない。バレなければ大丈夫だと圭介はいつものように慣れた手つきで作業を進める。荷物をフォークリストに乗せてトラックに積み込む。何度か同じような動作を繰り返し、最後の荷物を乗せ終わった。

 事務所に行き、鍵を返し、ジム手続きを終え、帰ろうした時に呼び止められた。圭介は少しどきりとした。

「そうだ、これもしよかったらどうぞ」

 そう言って栄養ドリンクを渡される。

「なんかひどく疲れてそうだから、運転気をつけてね!」

「はぁ、どうも」

 てっきりまた車の傷のことをとやかく言われるのではと勘ぐっていたから、拍子抜けだった。圭介は気の無い返事をしつつも、しっかりと受け取ってから、再び仕事に戻っていった。


 =====


「おめー、まーたやりやがったな!」

 仕事を終え、会社に戻ると早速おやっさんにどやされた。

「仕方ないじゃないですか、鹿が急に飛び出してきたんすから…」

 圭介は自分の演技力に感心しながらそう膨れっ面で言った。

「まぁ、そりゃ仕方ねーけどよ…。修理代はてめぇ、持ちだからな!」

「そう言って前回の時も給料減ってなかったすっよ」

「うるせぇ!」

 そういうおやっさんは照れたように笑い、圭介の頭をくしゃっと撫でてから、一発叩いてデスクに戻っていった。

 おやっさんは誰に対しても優しい人だった。しかし圭介には特別に手をかけてくれていると、圭介自身はそう思っていた。そして、それがたまらなく嬉しかった。


 —今回もなんとか誤魔化せた…。


 死体が消えるなんて非現実的なことを誰にいっても信じてもらえないし、そもそも、本当だったのかもわからない…。こういうことはそっとしておくに限る。前回の時と同様にもう忘れてしまおう。

 圭介がそんなことを考えながらデスクワークをしていると、おやっさんの携帯が鳴り出した。

 着信画面を確認したおやっさんはニヤリと笑い、嬉しそうに電話を受けた。

 娘さんからの連絡かな?

 しかし、話ぶりから少し違うように感じた。

 おやっさんは圭介の方をチラチラと見て、事務所の入口の方を指差す。


 —なんだ?


 圭介はおやっさんに促されるようにして、入口に入っているガラス戸に目をやると、1人の若者が立っていった。

 年は圭介と同じくらいだが、パリッとスーツを着こなしていて、落ち着いた雰囲気で大人びて見えた。


 —誰だこいつ…?


 いつのまにか電話を終えていたおやっさんは、圭介の横に立ち、その疑問は答えをくれた。

「あれな、明日からここで働く、山本隆くんだ。お前の初めての後輩だぞ!」

「は?後輩?」

「そうだ」

 どう見ても事務職員風の山本が俺の後輩?と圭介が困惑していると、当事者である山本が事務所に入ってきた。

「皆さん、お疲れ様です。これからお世話になります。山本隆と申します。よろしくお願いします!」

 とてつもなく眩しい笑顔だった。綺麗に整えられた髪や姿勢。礼儀正しい言葉遣い。希望に満ちていて、ハキハキとしていて、そして何より丁寧だった。

 そんな姿を見たおやっさんはぼそっと呟いた。

「圭介もあんなんなら、みんなに認められるのになー」

 それを聞いた圭介は心がざわつくのを感じた。

 —なんだそれ?俺はダメってことかよ…⁉︎

 圭介は早速後輩のことが気に食わなくなったが、流石に社会人だ。その態度を前面に出して対応するわけにはいかない。これくらいのことならば圭介でも可能だ。

 爽やかによろしくお願いします!と笑う山本に笑顔で答える圭介。

「おう、よろしくな!」

 心はグツグツとどす黒い感情で渦巻いていた。

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