第7話 不信感とオフ会
そりゃあ、もうパニックに陥ったわよ。招待しないと赤原さんは言っていたのに、DMにもハッキリ書いてあったのに。
一つ分かることは私は赤原さんに嘘をつかれたこと。
都合の悪いことを隠して少しでも会員人数増やしたかったのよ。人数集めてお山の大将したかったのではないかって。
腹が立ったけど、抗議のメッセージは送ったわ。
「話が違います。藤井さんを呼ばないと言うから参加したのに何故、藤井さんがいるのですか」
でも相手はだんまり。
「正直、嘘をつかれて、失望しています。退会はしませんがROMだけにします」
やはりだんまり。こういう人だったのかと。
そうなると、7ちゃんねるも案外荒唐無稽ではないと思えてきて。
『赤原と藤井には気をつけろ』
『藤井は毎日エゴサして、少しでも批判すると粘着する』
『赤原と藤井は義兄弟の杯を交わしているくらいべったりだ』
という書き込みも本当ではないかと思うようになって。
そういえば赤原さんと仲良しの鴇田さんもよく掲示板で叩かれていたわ。鴇田さんの作品の内容ではなくて、赤原さんと仲良くて擁護することが多かったからだと思うの。さっき言った『敵の仲間は敵』理論かしらね。Webもややこしいわね。
で、赤原さんを批評したら、赤原さんが暴言リプを返してブロックされた人も複数見かけたから、相関図を書いたら多分二人は仲良しより敵だらけだったと思うわ。赤原さんもその頃からおっかない人だったのね、今思うと。
人の心というのは不思議なもので、好意的な感情が無くなるとその人への評価が変わるの。面白かったと思う作品が途端に色褪せて見えて。
「なんか、肝心の部分がフワッとして分かりにくい」
「え? ラストこれだけ?」
とか粗が目につくようになってきて。
そうねえ、例えて言うなら料理人のグルメ小説書いて、材料揃ってライバルとの対決シーンの次がいきなり完成した料理が並んでいて審査員の「(主人公の)料理が絶品だ!」と主人公の勝利シーンに飛ぶような。
肝心の素材を料理するシーンが抜けているの。
で、「勝者、主人公!」「やったあ!」「くっ、あいつにまた負けた」の一文で強引に終わらせるような半端さ。
言い回しも余計な装飾が多かったかな。さっきのグルメ小説に例えれば『今日のお題は鯛である。愛媛産の天然物、もちろん今朝水揚げされた新鮮なもの。それを会場までヘリで運んだのだから鮮度は抜群によい。水晶のように透明な目、鮮やかな桜色の身、キリッとした形から引き締まった身が想像できる』なんて装飾されてるのに肝心の調理シーンがないのは変よね。
なんかね、仲良しフィルターが外れて目が覚めた感じ。でも、シンパは多かったのよね。やはり「別名義でプロ」というフィルターがかかっていたからじゃないかしら。
私はやはりプロだったと思うのだけど、理由は後でね。その前にある出来事が起きるから。
そのクラスタと言われる中にさっき言った伊太利杏さん。クリスマス休暇で一時帰国するから、オフ会を開こうとメンバーの「四条フェルト」さんから呼びかけがあってね。
あ、四条さんは現代ドラマを主に書く人で手芸が趣味だから、ペンネームにして手芸に関する小説が多い人。でも、このオフ会ではあまり出番ないかな。後に色々疑惑が出るけど。
伊太利杏さんには一度お会いしたかったし、イタリア話も聞きたかったし、なんと言ってもデザートに彼女の作ったデザート振る舞うと言うから、赤原さんクラスタ疑惑の不安を飛び越えて「参加します」と飛びついたのよね。食いしん坊よねえ。もう一人の憧れの鴇田さんも参加するというし。
恐怖より甘い物の誘惑に負けたとも言えるわね。もちろん参加リストに藤井さんいないのを何回も確認して、締切日までチェックする用心はしたわ。
確か当時はまだ平成だったから当時の天皇誕生日に開催でレストランを貸切というオフ会。クラスタメンバーではない人や敵対しているはずの人も参加していたから、今思うとカオスね。赤原さんは頑なにオフ会には出ないという評判だったからだと思うの。
だから、顔を見たという人は都市伝説じゃないかって掲示板にも揶揄されていたわ。
そうして、ある日Twitterをチェックしていたら奇妙なことが起きていたの。ブロックされていたはずの藤井さんからフォローされていたの。
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