第6話 恐れていた現実
赤原さんは謎が多い人だったわね。Twitterもやってると何かしら「仕事終わった、帰れる」やら「子供の運動会の準備ある」なんて、チラッとプライベートが見えるじゃない。独身か既婚か、フリーランスかサラリーマンか。「雪かき大変」というツイートから豪雪地帯に住んでいることが分かったり、地震だ!というつぶやきからその時間に地震のあった地方にいると分かったり。でも、そういう人は大抵プロフィールに「うどん県在住」やら「二児の父です」とか大まかに明かしているから問題なかったけど。
でもね、赤原さんは決してプライベートはつぶやきはしなかったし、サークルでも話さなかったわね。
「配偶者が」という書き方でかろうじて既婚者と分かったけど、男女どちらかも分からなかったし。
「何関係のお仕事ですか?」という質問もはぐらかしていたわね。
もう一つの名義や作品も頑なに明かさなかったの。私は契約の問題があったから明かせないのではないかと思っていたの。
音楽の話だけど、レーベルと独占契約を結ばされてしまったから、活動制限されてソロ活動する時は別名義でインディーズから曲を出してたアーティストを知ってるから。もちろん正体は内緒という体裁でね。
でも、それがアンチが増える原因だったのよね。7ちゃんねるにも毎日のようにバッシングの嵐。
『偉そうに創作論語る癖に名義明かさない』
『本当に作家なの?』
『いや、待て。怪しい化粧品やパチモンダイエット食品の広告文を書くのもライターと言うし、明かすのが恥ずかしいかもしれんぞ』
『エロ小説家というオチかもしれないな』
『あの文章力でエロ書ける? せいぜいAVのレビュアーだろ?』
『あの上から目線の創作論も古臭いよな』
皆、想像力豊かよね。それをこんな所ではなく、執筆すればいいのにって笑いながら掲示板読んでたわ。
サラリーマンではないフリーランスだったのかしらと思うけど、仕事中にTwitterやる人も結構いるから当てはまらないかもね。
「アカハラの部屋」も内部では「7ちゃんねるにバレるとまたバッシングされるし、ひっそりと活動しましょうね」と最初から赤原さんが呼びかけていたのに、裏切り者がいたのよ。未だに誰かは知らないけど、ある日7ちゃんねる開いてみたら
「赤原がまた何か企んでいるぞ。WriteRead作家をSlackに集めている。新たな相互クラスタかもしれん」とご丁寧に加入メンバーの名前まで晒した人がいて。
「竜田age」はもちろんリストに入っていたわ。あちゃー、ついに私も7ちゃんねるに名前書かれるようになってしまったと思ったわね。あ、相互クラスタと言うのはね、お互いの作品のを評価し合う不正グループのこと。知ってるとは思うけど。
それでね、メンバーリストにはその人の一番評価の高い作品と評価の点数まで添えてあってバッチリと底辺作家とバレてねえ。ボロクソに書かれていたわ。
『やっぱり赤原に集まるのはそれなりのレベルの奴なんだな』ってバカにされて。悔しいけど、私のは評価低いのは事実だからねえ。反論の書き込みなんて怖くて出来ないし。
7ちゃんねるは書き込んだらウイルスも拾ってしまいそうで。実際そういう事があったらしいわよ。
その日の「アカハラの部屋」でも7ちゃんねるの話題で持ち切りだったわ。
代表の赤原さんも「内部にこういう事をする人がいるのは残念です」と嘆いていた。
でも皆さん、前向きでね。
「やましい事なんてしていないのだから、このまま活動しましょう」という意見が圧倒的だったわ。
ユダは誰かは分からないけど、私もそのまま活動して皆さんの意見を取り入れようと思っていたの。でもね、引っ張るようで悪いけど、またトラブルが起きるの。
ある日、Slackを開いた瞬間に凍りついてしまったの。もう分かると思うけど、二ヶ月遅れで藤井さんが入会してきたのよ。
「新刊の執筆で遅れました。新しく加入した藤井です! よろしくお願いします」
もう、恐怖でしか無かった。
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