故郷の最期

逢雲千生

故郷の最期


 爽やかな風が鼻を通り抜けると、かすかな草の香りがした。


 遠くで草刈り機の音が聞こえ、畑仕事に精を出すお年寄り達が腰を曲げたまま、重い体をどうにか持ち上げる姿を見かけた。


 物心ついた頃から見てきた光景は、いまや、ひといきで吹き飛ぶほどもろいものとなっている。


 もう一度、もう一度と、復興を願う人々の声をあざ笑い、過去にしがみつく人達が無情な声を大きくし、急げ急げと追いかけ回すのだ。


 可愛がってくれた人達の姿は消え、残った人達は涙を流し、唇を噛みしめて土と向かい合う。


 通り過ぎる白い車に怯え、やって来た若者達に苦笑いを浮かべ、そうしてまた道具を手に取るのだ。


 太陽が昇り、空気が熱を帯びてくる中で、私は背中を向けた。


 遠くに聞こえる音も、誰かの呼び止める声も聞かず、黙々と歩いて故郷を出る。


 揺られながら希望に胸を膨らませ、将来を思い描きながら目を閉じると、かすかな声が聞こえて消えた。




 もう、私の故郷はない。









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故郷の最期 逢雲千生 @houn_itsuki

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