故郷の最期
逢雲千生
故郷の最期
爽やかな風が鼻を通り抜けると、かすかな草の香りがした。
遠くで草刈り機の音が聞こえ、畑仕事に精を出すお年寄り達が腰を曲げたまま、重い体をどうにか持ち上げる姿を見かけた。
物心ついた頃から見てきた光景は、いまや、
もう一度、もう一度と、復興を願う人々の声をあざ笑い、過去にしがみつく人達が無情な声を大きくし、急げ急げと追いかけ回すのだ。
可愛がってくれた人達の姿は消え、残った人達は涙を流し、唇を噛みしめて土と向かい合う。
通り過ぎる白い車に怯え、やって来た若者達に苦笑いを浮かべ、そうしてまた道具を手に取るのだ。
太陽が昇り、空気が熱を帯びてくる中で、私は背中を向けた。
遠くに聞こえる音も、誰かの呼び止める声も聞かず、黙々と歩いて故郷を出る。
揺られながら希望に胸を膨らませ、将来を思い描きながら目を閉じると、かすかな声が聞こえて消えた。
もう、私の故郷はない。
故郷の最期 逢雲千生 @houn_itsuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます