帰る家がなくなりました――[06/22/14:20]

一晩明けて、帰ってみたらお屋敷は更地になっていました。一族の皆様の行方はようとして知れず。


「ああ、これは百鬼夜行だね」


A氏は言いました。


百鬼夜行とは皆様もご存知の通り、有り余るエネルギーを発散するべく人里にて行われる破壊的行進デストロイマーチングのことにございます。


「ほら、浄化の光のせいでここ数ヶ月、引きこもりっぱなしだったでしょ? それでたまりに溜まったうっぷんが彼ら、夜のものどもをこういう凶行に駆り立てたんだろうね」


A氏は君が気にすることではない、と言ってくれましたがやはり責任を感じずにはいられません。悲嘆に暮れ、涙一滴とて流せぬまま、お屋敷跡地を見ていると私、永らく忘れていた諸行無常の理を思い起こしました。


さて。


住む家をなくした私がでは今、一体どこでこの文章を書き、アップロードするのかと申せば、それは皆様もお察しのことと思いますがA氏の家にほかなりません。


「帰る場所がないなら、しばらくうちにいていいよ」


A氏は言ってくださいました。


いやあ。昨日も体験したばかりですがなんとも快適なものですね、10G回線。1PB程度ならば一分足らず、1GBまでならばダウンロードボタンを押す前にもうダウンロードが完了してしまうというのですから驚きです。たかが通信規格ごときが因果律を捻じ曲げる日が来ようとは。この座敷童、思いもよりませんでした。


ちなみに。お屋敷は跡形もなくなりましたが、私は大抵のものはダウンロードで済ませる人間なので購入したゲームやマンガ等までは失われずに済みました。不幸中の幸い……とは言えませんがまあそれは良かったです。そういうわけでゲームのレビュー等も継続できます。楽しみにしてる方はあまりおられないようですが。


これを話すと、侍従の方は意外そうな顔をなさっていましたね。


「座敷童なのに、そういうところデジタル派なんですね!」


なんて言って。


……こうして思い出してみてようやく、涙がこぼれ落ちてくるとは、なんとも不思議なものです。


そうですね、ちょっとお屋敷の思い出でも本日は綴るといたしましょう。この目で一族の終焉を見届けられなかったのは心残りですが、それでも思い出はたしかにこの胸にあるのですから。


お屋敷には一人、お嬢様がおられました。かわいいかわいい女の子にございます。もう高校生になるのでしたか、いやはや時の流れとは速いものですね。


私がダウンロード派になったのは何を隠しましょう、彼女の存在あったがゆえでございます。


誰も信じませんが私、本当にリアルはかわいらしい童なのですよ。幼女です幼女。一族の皆様のイメージを損なうといけないと思って、今までVtu○er的活動はしてこなかったのですが、声もちゃんとかわいらしいんです本当です。人並に外出もすれば一般男性100人を変質者にする自信があります!


失礼。熱くなってしまいました。このような自己主張をネットの海に流すのは慚愧の念に堪えないのですが私の名誉のため放流します。これだけ恥ずかしい思いをしているのですから皆様、ちゃんとしんじてくださいね。


話を戻しますと、私が彼女のためにダウンロード派になったのはどういうことかと言いますとまあ、つまり。うら若き少女の大人のゲームやマンガを見せるわけにはいかないという話でございまして。ほら、ああいうゲームのパッケージってシナリオ重視のものであっても大抵は性的CGが載ってるものでしょう? 子供の目に触れさせてはならないわけです。


しかし私は先述の通りかわいらしい童。お嬢様には同年代の少女に見えたのでしょう、たいそう懐かれてしまいまして。いつからか、お嬢様は私の部屋に入り浸るようになりました。そんなことが日常となっていましたので、部屋のどこに隠そうといずれは見つけ出されてしまうことでしょう。


というわけで、全てデータにしてしまうことにしました。


慣れるまでは大変でしたが一旦慣れてみればいやあ便利便利。


ゲームデータは購入サイトから何度でもダウンロード可能なのですから物理媒体が破損しても問題ないのは助かります。


――と。今気付いたのですが件のお嬢様、まだ生きてました。


修学旅行です。


緊急事態宣言明け、そう、あれはまだ残光の残る頃のことでした。お嬢様は修学旅行に行かれたのです。向かう先は、京都。


寺社仏閣の密集する神秘の都、京都。


皆様ご存知、裏天皇さまの居られるところですね。


なんでも、京はその特殊な歴史や土地柄ゆえ、浄化の光が他の地域よりも五割増しで弱くなっているらしく、他の地域よりも残光の散るのが速かったそうです。芸者さんやエンタメ忍者の皆様も早々に活動を再開されたとのことで。


ともあれ、これは京都にお嬢様を迎えにゆく必要がありましょう。


事情を話すと、A氏は二つ返事で了承してくださいました。


「じゃ、私の車で行こっか」


そういうことになりました。


というわけで、次回更新は京都でする予定です。お嬢様、無事であると良いのですが……。


  ――『つれづれなる日々』[06/22/14:20]投稿


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