第21話 同じ血を分けた兄妹とは思えない

 注文した料理が店員によって運ばれて来て、私たちは少し遅めの昼食を取り始めた。

 兄はハンバーグステーキ。

 恭太郎さんは和風定食。

 私と舞衣さんはパンケーキだ。

 ちなみに舞衣さんは三段重ね、私は一枚だ。と言ってもこのパンケーキは一枚だけでかなり分厚いのだ。

 よくあんなに食べようと思うな……。

 舞衣さんの強靭な胃袋に、食が細い私は胸焼けしそうになっていた。

 すると兄がハンバーグステーキを切りながら恭太郎さんに尋ねた。

「恭太郎くん、パンケーキ頼まなくて良かったのか?」

「……何ですか、急に」

 少し唸るように恭太郎さんは聞き返した。

 兄は肉肉しいハンバーグステーキを頬張り、軽く咀嚼して飲み込んでから答える。

「引っ越しを手伝った時に英太朗さんから『恭太郎くんは甘党だ』って聞いたからさ。てっきり頼むのかなぁって思っていたから、意外だな〜って」

「余計な事を……」

 恭太郎さんは恨めしそうに、恥ずかしそうに頭を抱えて項垂れた。

 私にとってもこの反応は意外だったので、思わず目を見開いた。

 もしかして、甘党なのを隠していたのかしら……。

 それならどうして、私にはそんな素振りを見せなかったのだろうか。

 私が不思議に思っていると、舞衣さんは兄に甘えるような声を出してきた。

「慧くぅん、うちにもハンバーグ一口ちょうだい!」

「ちょっと待ってな〜」

 兄は慣れた様子でハンバーグステーキを切り分けた。フォークで刺すと、舞衣さんの方に向けて……

「はい、あーん」

「「…………ッ!?」」

 目の前で見せつけられた少女漫画みたいな展開。

 私は耳まで顔を火照らせて、絶句してしまった。

 だが舞衣さんは全く驚いていない。

 そして躊躇なく、フォークを咥えた。

 えっ……そのフォーク、兄さんが使っているやつなのに……!

 だが舞衣さんはとても美味しそうに咀嚼している。一体、どんな心臓をしているのだろうか、私には全く理解出来なかった。

 すると舞衣さんは兄の顔を見て、くすっと笑い出して兄に人差し指を向けた。

「もう、慧くんってばぁ、口にソースついてるよぉ?」

 舞衣さんは兄の口元のソースに指をつけた。

 そのまま拭い取って…………ぺろりと舐める。

「〜〜〜〜ッ!?」

 思わず両手で顔を覆った。無理やり目を塞ぐ。恥ずかしすぎる……!

 慧兄さん……何をしているの!?

 恋愛の進み具合が、とても同じ血を分けた兄妹とは思えない。

 私は体を縮こませ、全身で恥ずかしがった。

 恭太郎さんも私と同じ気持ちのようで、

「な、なななっ……何をしているんですか!?」

 これでもかと動揺している。

 指の隙間から見える恭太郎さんの顔は完全に真っ赤だ。

 こんなに動揺している恭太郎さんは初めてだ。

 だが対照的に兄も舞衣さんも至って冷静だった。

 舞衣さんはきょとんと首を傾げてきた。

「何って、ソース取ってあげただけだよぉ。なんでそんなに慌てるのさぁ」

「……だったら舐める必要、ありますか?」

 全くだ。

 普通におしぼりとかで指を拭けば済む話だろう。

 だが兄たちは恭太郎さんの言葉に頓狂な声を上げた。

「「えっ?」」

 何か問題ある? と言わんばかりの顔をされた。

「…………」

 恭太郎さんは、この人たちには何を言っても分かり合えない、と察したようだ。

 小さく息をつくと、自分が馬鹿馬鹿しかったように呟いた。

「……忘れてください」

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