第18話 キスはスキンシップ?

 すると恭太郎さんが恐る恐る言ってきた。

「……鯉川さん、公共の場ですよ……? その……恥ずかしくないんですか?」

 舞衣さんはまたキョトンとしたように首を傾げてきた。

「えっ? だってデートだよぉ? イチャイチャしなきゃ損じゃーん!」

「「…………」」

 全く理解出来ない。理解しようとも思えない。

 私たちはあくまで許嫁同士だ。

 恭太郎さんのことは人として尊敬している。

 だが恋愛感情は、ない。

 役割を全うする上で、そんなものは必要ない。

 だが舞衣さんには、私たちの無言の理由が分からなかったらしい。

「えぇーっ!? なんでっ!? 普通、デートって言ったらイチャつくでしょぉ!? 手を繋いだりぃ、ハグしたりぃ、キスしたりぃ!!」

 舞衣さんが興奮気味で早口に言った。

 だが舞衣さんの言葉に、恭太郎さんも茫然としてしまった。

「……しないです。というか、キスは性行為なのでは……?」

 抑揚のない声で、自信なさげに言った恭太郎さん。

 私はパッと振り返り、恭太郎さんを見上げた。

「ですよね、分かります!」

「嘘でしょっ!? 二人とも、いつの時代の人っ!? 奥手過ぎなぁい!?」

 そんなことはない。

 私から言わせてみれば、兄や舞衣さんの方が進み過ぎている。

 未婚の身として、清い付き合いをしようと思わないのか。

 すると兄が舞衣さんに言ってきた。

「舞衣~、二人は絶滅危惧種なんだよ。あんまりとやかく言わないであげて~」

「絶滅危惧種って……」

 私は目を伏せながら呟いた。

 さすがに失礼よ。むしろ慧兄さんの方がお盛んすぎるわ!

 私は少し拗ねたように口をすぼませると、舞衣さんが何気なく言ってきた。

「ほんとピュア過ぎだよぉ。よく恋人になったよねぇ」

「……はい?」

 私は思わず舞衣さん聞き返してしまった。

 恋人……? 私と、恭太郎さんが?

 少なくとも私にはそんなつもりは一切なかった。

「えっ!? 付き合ってるんじゃないのぉ!? じゃあ何で今日、デートなんか……」

「「「…………」」」

 そうだった。

 舞衣さんは私たちが許嫁であることも、その理由も知らない。

 だが流石に関係ない人に言うのは憚られる……。

 私と恭太郎さんと兄は目線を逸らし、黙り込んでしまった。

 だが舞衣さんは鈍感だった。

 疎外感でも感じたのか、兄の腕を揺さ振って問い詰め始める。

「仲間はずれなんてひどいよぉ! うちにも教えてぇ! ねぇ、慧くーん!」

「え、えーっと……ちょっと、家の事情っていうか……」

「だったらうちも家族みたいなものでしょぉ!?」

 全然違う。ただの彼女と家族とでは隔てる壁の厚さが全然違う。

 だが兄にとっては長年付き合っている大切な人だ。

 ヘルプ! と言わんばかりに目線をこちらに向けてくる。

 私と恭太郎さんは顔を見合わせた。

 このままでは目的達成すらも阻害されてしまうかもしれない。

「ごめんなさい……」

「……仕方ありません」

 お互いに納得すると、私は兄に向って頷いた。

 兄は申し訳なさそうに頭を下げると、舞衣さんに言った。

「じゃあ、他言無用な?」

 兄はもっと断る、ということを覚えるべきだ。

 私は兄のお人好しさに呆れて溜息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る