Wデート編
第16話 許嫁らしい写真とは……?
徐々に冬が近づいて、空気が冷たくなってきた。
窓の向こうの爽やかな空が、どこか物悲しい雰囲気を醸し出すようになってきた。
私は鏡の前で制服姿の自分を見つめて、身支度を整える。
ブレザー、よし。スカート、よし。髪型、よし。
身支度を終えて携帯端末で時間を確認しようとした。
すると一時間ほど前に、兄からLINEが来ていたようだ。
表示されていた文面の一部を目にして、私は思わず目を見開いた。
「…………えっ?」
恭太郎さんが私の通う私立白波学園高校に転校して、一週間ほど経った。
至って平穏な日々を送れている、送れてはいるのだが……。
「……本当にどうしましょうか」
「そうね……」
昼休みの図書室は人気が少ない。
昼食を食べ終えて、私たちは三週間後の期末考査に向けて自習していた。
だが目下の悩みと言えば……。
「多分、一緒に撮るだけじゃ味気ないわよね」
「そうですね。何が許嫁らしい写真なのでしょうか……」
教科書の問題をノートに書き写しつつ、私たちは小声で相談した。
そう、修治郎さんへ送る写真だ。
以前、試しに二人で夕食を食べている写真を送った。
食事中に写真、なんて行儀が悪い事は分かっているが、仕方ない。
しばらくして修治郎さんから返って来たメールの文面は素っ気なかった。
だが、あとから豪太郎さんに聞いた話では、『仲睦まじくて微笑ましい』とすごく喜んでくれたようだ。
今朝に来た兄からのLINEは「そろそろ送ってあげて~」というものだった。
以前送ったのは一週間前。さすがにスパンが短すぎる。
一度ならいいが、何度も同じ写真を送っては疑われてしまうだろう。
さっそくネタが思い浮かばず、私たちは勉強どころではなくなってきた。
「この話は家に帰ってからですね」
「そうね。何か降って来ないかしら……」
私は息をついてから数学の教科書のページを捲った。
だが問題の数式が全く頭に入ってこない。私は一度気持ちを切り替えようとしたが、どうしても頭の片隅で考えてしまっていた。
今日はバイトがなかったので、即帰宅してから恭太郎さんと相談してみた。
カフェオレを飲みつつ、二時間ほど話し合ってみたものの……全く降って来なかった。
結局、このままでは時間を浪費するだけだ。
私は相談相手として、現在進行形で彼女がいる兄への相談を提案した。
LINEで通話の許可をもらい、私から電話をかけるとすぐに電話がつながった。
『もしも~し、冴姫。元気でやってるか~?』
「久しぶり、慧兄さん。突然ごめんね」
『いいよ~、妹に頼られて嬉しくない兄貴はいないからな~』
屈託なく言ってくれた兄の言葉が嬉しかった。
私は小さく笑みを浮かべると、兄が話を切り出してきた。
『LINE見たけど、つまり写真のネタがないってことだよな?』
「そうなのよ。食事風景は撮ったんだけど、同じ写真を送るのも味気ないなって……」
『なるほどな~』
兄はしばらく考え込むように唸った。
するとあまり関係のない質問を私にしてきた。
『ところで二人はデートとかしたの?』
「えっ……!?」
思わず頓狂な声を上げてしまった。
ど、どうしていきなりそんな事を……?
激しく動揺しつつも、私は必至に冷静さを保とうとした。
「そ、そんな時間ないわよ……! というかどうしてそんな話になるのよ……?」
兄は私が何に動揺しているのか、いまいち分からなさそうな声で言ってきた。
『いや、写真撮るんだったらちょうどいいよな~って。水族館とか、遊園地とか』
「……まあ、そうね」
盲点だった。
確かに出掛ければ、写真なんていくらでも撮れるだろう。
だがいきなり二人きりでデートなんて……ハードルが高すぎる。
すると兄はこんな提案をしてきた。
『冴姫、次の日曜日って暇か?』
「……急に何?」
私が尋ねると、兄はある提案をしてきた。
『オレ、彼女と動物園でデートするんだけど、良かったら一緒にどうだ? 写真を撮るならうってつけじゃないかな~って』
「あー……なるほど」
つまり、世に言うダブルデートというやつか。
あとで恭太郎さんに聞いてみないと分からないが、いいアイデアだと思う。
むしろ自分たちだけで悶々と考えるよりは、よほど現実的だろう。
「分かったわ。恭太郎さんにも聞いてみるわ」
『じゃあ話がまとまり次第、LINEしてくれ』
「ありがとう、慧兄さん」
すると兄はなんだか嬉しそうな声音で照れたように言ってきた。
『……へへっ、どういたしまして。じゃあな~』
兄は通話を切ると、私は耳元から携帯端末を離した。
自分の名前が出て来たのが気になったのか、恭太郎さんが尋ねてきた。
「冴姫さん、自分がどうかしましたか?」
恭太郎さんの言葉に私は兄が言った文言を要約して伝えることにした。
「動物園でダブルデートをしないかって言ってきたのよ。写真を撮るならうってつけだって」
私の言葉に恭太郎さんは目を見張った。
「で、デート……ですか?」
明らかに動揺している。
無理もない。私だって戸惑ってしまったのだから。
恭太郎さんは確認の為に私に質問してきた。
「慧さんには彼女さんがいらっしゃるのですか?」
「ええ、中学時代から付き合っているわ」
実家に遊びに来た兄の彼女さんと何度か会ったことがある。
私とはまるで対照的で、明るくて人懐っこい小動物みたいな人だった。
兄の彼女の印象について恭太郎さんに伝えると、安心したように息をついた。
「そうですか……。分かりました、行きましょう」
「じゃあそう伝えるわね」
私は再びLINEを開いて、兄に送る文章を作成した。
デート、か……。
兄たちと一緒とはいえ、人生初の経験だ。
だがあくまでも目的は写真撮影だ。
浮かれて目的を見失ってはいけない。
私は自分を戒めつつ、兄にメッセージを送信した。
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