第4話 殺風景な部屋

 2LDKのマンションの一室。

 バルサンを焚いて、家具や運搬物の確認を終えると、四人総出で荷解きが始まった。

 新しい自分の部屋。

 実家の自室を片付けた時よりも少し広々とした印象だった。

 私はタンスなどに、買ってきた収納グッズを設置していた。

 新生活が始まるという実感はある。だが季節のせいか、自分の考えなしの行動を猛省しているせいか、気分は暗く沈んでいた。

 荷物は必要最低限になるようにしたので、荷解きがあっという間に終わった。

 なんだか実家の部屋よりも殺風景だった。

 ネットで調べて計画的にやったとはいえ、ずいぶん早く手持ち無沙汰になってしまった。

 私はビニール紐で括った段ボールを玄関の方へ置きに行った。

ぼーっとしていても邪魔になるので誰かの手伝いをしようと、私はリビングへ向かった。

「慧兄さん、何か手伝うことはある?」

「早いな~、もう片付いたのか? じゃあ食器しまうの、手伝ってくれ」

「分かったわ」

 段ボールに収納された食器を取り出して、種類別に分けて丁寧に食器棚へ収納する。

 食器の手触りがなんだか冷たい気がする。私は小さく溜息をつき、再び段ボールから食器を取りに向かった。

 すると兄が私の隣にしゃがみ込んで来て、食器を取り出しながら言ってきた。

「恭太郎くん、なんかご機嫌斜めだったな」

「……そうね」

 その原因、もしかしなくても私なのよね……。

 私は俯きがちのまま重ねた食器をキッチンへ運んで行く。

 だが兄はなんだかおかしそうに、くすくすっと笑い出した。

 私が不審そうに眉をひそめると、兄は楽しそうに声を弾ませてきた。

「あれ、気付いてなかったのか? 恭太郎くん、分かりやすいくらい緊張してたからさ~」

「えっ……?」

 緊張していた……?

 一体、何に対して?

「とても年下には見えなかったけど、案外可愛いところあるんだな~」

「えっ……? 強引に同居生活をさせられることになって、怒っていたんじゃないの?」

 驚いた様子で私が言うと、兄は柔らかな口調で言ってきた。

「そんなことないと思うけどな~。さっき英太郎さんとも話したんだけど、恭太郎くんってあんまり人付き合いが得意じゃないんだってさ~」

 人付き合いが苦手……。

 兄の言葉に私は一度、深呼吸をしてさっきまでの記憶を呼び起こした。

 思えば今回の件に関して何か言われたわけではないし、ずっと目線を逸らされていた。

 ずっとピリピリとしたオーラが怖かったが、冷静に分析してみると、私の考えすぎだったかもしれない。

 すると兄は感慨深げに言ってきた。

「似た者同士だからな~、冴姫と恭太郎くん」

「……そう?」

「オレにはそう見えるよ」

 兄は空いた段ボールをビニール紐で括りながら言うと、玄関の方へ置きに行った。

 私は自分では気付かなかった事実に、思わずポカンとしてしまった。

 そんなに似ているのかしら……?

 私は疑問に思いつつ、高いところに食器をしまおうとした。

 だが私の身長では届かず、背伸びしてもギリギリ置けなかった。

 あと少しなのでどうにかしまおうと奮闘した。

 つま先立ちで入れようとすると、背後から逞しい腕が伸びてきた。

 ごつごつとした浅黒い手は私の手から食器を取ると、難なく食器棚の一番高いところに置いた。

 振り返ると、武蔵恭太郎さんは不愛想に告げた。

「届かないなら呼んでください。落としたらどうするんですか」

「あ……ありが、とう……」

 私がごにょりと感謝を呟いた。 

 だが武蔵恭太郎さんはすました顔をしていた。

 何事もなかったようにリビングにあるビニール紐を拾って、自室の片付けへ戻って行った。

 不思議とさっきのピリピリとした雰囲気は感じなかった。お見合いの時のように物静かで、落ち着いているように思えた。

 どうやら私が考え過ぎていたらしい。

 私は安堵し、息をついて食器棚の扉を閉ざした。

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