第72話 答え合わせ、理由 死がふたりを分かつまで
注・本編終了後からかなり時間がたってます。
「葛様・・・最後に良いですか・・・・?」
「何じゃ?」
ただ明るい陽射しの差し込む縁側で一緒に日向ぼっこをしながら、今更な事を聞こうと思う。
「何故僕を結婚相手に選んでくれたんですか?」
本気で今更だ。
「何を今更、儂を口説いたからじゃぞ?」
きょとんとした表情を浮かべるその顔に、数十年一緒に歩いたが老いと言う物は一切感じられない、共に長々と歩んできたが、何気にこれが一番、自分と葛様の差、人と神の差を見せつけられる部分だと思う、初めて会った時と一切変わらない普遍性それこそが人と神の一線を隔している。
「其れだけですか?」
きょとんと聞き返す。
「其れだけじゃ、例えば初めての旦那、晴明の父親だとか、子狐丸の相槌を打った鍛冶屋の生まれ変わりとか、そう言った裏付けは一切無い、純粋にお主が幼小の頃に儂を口説いたからじゃ、良く言うじゃろう? 美女の隣に座れるのは美女を口説ける勇気のある奴だけじゃと。儂の本性と立場を知っている本家の連中は先ず求婚など出来る筈が無い、未だ目の空いて居ないボンクラのお主だからこそ儂を口説けたんじゃ、幼少の勢いじゃろうと何じゃろうと其れがどれだけ貴重な事だかわかっておるか?」
「いいえ・・・」
「これだからにぶちんは・・・・儂は神の座に居るから高嶺の花なのは理解しておるが、1200年以上生きて来て求婚されたのは数える程度じゃ、そりゃあ大笑いもするし、こうしてお主の一生分添い遂げもしてやるわい」
上機嫌に返してくる、外見の形態年齢のせいも在りそうだが。
「やかましいわ、この形態が素じゃ、この姿の段階で好きですと言ってくれる奴なら兎も角、別の姿が好きですから、そっちに成ってくれませんかとかほざく奴に惚れる訳も無かろう」
「たしかに、其れはそうですね・・・」
「化ければ誰にでも成れるが、儂が化けて追いかけるほど惚れる価値のある雄なんざそもそも居らんわい」
確かに、この人が男の尻を追いかける図が思いつかない。
「だからお主が何者で有るかでは無い、釣り合いも何も無い、只儂に気に居られる価値のある行動をしたと言うだけじゃ、長年の疑問は解消できたかや?」
「はい、有り難うございます、では欲を言うと・・・次は有りますか?」
その言葉を聞いた葛様がニヤリと笑う。
「そうじゃな? 来世が有ったらまた口説け、また100年位は付き合ってやるぞ?」
「良かった・・・ではまた・・・・・・約束です・・・」
精一杯手を上げ、小指を立てる、葛様が苦笑を浮かべ其れに応えて小指を絡ませる。お約束の問答を唱えるまでも無く、ふと力が抜けた。
葛視点
その顔には、満足気な笑みが浮かんでいた。
大往生の台詞としては上出来、笑って逝きおったか。
「おう、またな?」
「おじーちゃん死んじゃったの?」
孫が未だ良く分かって居ないと言う様子で確認してくる。
「そうじゃな? また来世じゃ」
泣きたいのをこらえ、精一杯笑って呟くように答え、送り出す。
魂は輪廻で巡る、何百年かすれば生まれ変わってまた出会う事も有るだろう。
尤も、次の生を得る時は前世の記憶も何も無くなった、まっさらに漂白された魂だ、今生の続きとして生きる様な事は先ず無いだろう、だからこれは恐らく果たされない約束だ。
そもそも彼岸の閻魔の裁きで、地獄道・餓鬼道・畜生道・人間道・天道の内で人間道を引き当てるのは中々の狭き門だ。何かの間違いの様な確立を引いて現世に戻って来れても、出会う縁の巡り合わせも欲しい、其れこそ呪いじみた縁が・・・
「全く、これだから人間は、あっという間に居なくなるんじゃもんなあ・・・」
共白髪のフリをしても、彼岸までついて行く事は出来ないので、儂は常に残される側だ。
神と人なのだから当然線引きはしているのだろう? 等と他の神からは言われたりもするが、悲しい物は悲しいのだ、儂の歳と人の歳の比率を考えると、人が飼い犬や飼い猫が逝った場合の沈み具合を考えると分かってもらえると思う。
犬は兎も角、猫は特殊な仕組みで7回まで高速転生復活するのが何気に羨ましい。
供の時間を過ごせそうな、この孫が付いて居るのが救いかのう?
陽希の約束については、万に一の確率だが、次が有る事を期待しようか?
追伸
予測が付くと思いますが、後1話有りますので、お付き合いください。
感想、応援、評価の☆☆☆、レビュー等、気軽にお願いします、読者の方々が思っている以上に影響がデカいのです。
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