第48話 番外 盃

 この世界では男女共に16歳時点で結婚も飲酒も出来る一先ず成人扱いだが、在学中は大っぴらには飲まない様にと言う感じの法律と成って居る。但し自宅や自室で飲む分にはセーフである。ただし買う時や居酒屋では店員に見せる身分証明が18歳以下の場合、基本全部弾かれると言うシステムに成って居る。おおっぴらに買う事は出来ないが、身内で飲む分にはセーフ的な変な枠組みだ。

 尤も、お酒もそんなに安い物では無いので、手を出すのは少市民な自分には意外と敷居が高かったと言う訳で、機会が無かったダケである。

 そして、この人に勧められたものを断るのは失礼と言うか、氏神様が氏子相手にお福分けのお神酒として出したのなら、氏子は従って飲むだけで、其処に選択肢はない。一種の神事として扱われるのだ。

 葛様が手元の朱塗りの盃に注がれている分をグイッと飲み干し、空に成った盃をほら使えと此方に差し出して来る。

 反射的に受け取ると、何と言うか良い笑顔で、なみなみと瓢箪の酒を注ぎ始めた。

「少しだけで良いのですが?」

 葛様がニコニコと笑みを浮かべて注ぎ続ける、盃はそんなに大きく無く、大した量では無いのだが、ゆっくりとジワジワ注がれて居る。

「って、多く無いですか?」

 半分を超えた辺りで思わずツッコミを入れる。

「まあまあまあまあ、おっとっとっと、と言うのがお約束じゃぞ?」

 そんな事を言いながら、静止をモノともしない様子で、予定調和とばかりに表面張力でこんもりする迄注がれてしまった。

「動けないんですけど・・・・」

 動くと確実に零れる、食べ物や飲み物を粗末にするような教育は受けていないので、残したり零したりと言うのはあまりしたく無い。

「お口から迎えるんじゃぞ?」

 こういう感じじゃと手を動かさずに口と頭だけ突き出して啜る様な動きをして見せる。

 其れを見てから、同じ様に真似をして溢れそうな分を啜る。

 甘い匂いが鼻を抜けて、甘く感じるのだが、不思議な苦みも感じる。

 何と言うか飲んだ事のない味だった。

 二口目を啜る、舌が慣れたのか、今度はカラメルやメープルシロップの様な甘味にコーヒーを入れた様な苦味を感じる、本当にお酒なのだろうか?

 比較対象が無いので美味しいのかどうかすら分からないので、内心首を傾げつつ、一息に飲み干し、杯を空にする。

 アルコールの感触なのか、喉が焼ける様に感じて、胃が燃えるように感じる。

 其れなのに不思議とスッキリとして次が飲みたくなる。

「おや、意外と良い飲みっぷりじゃな? もう一杯行くか?」

 返事を待たずに次が注がれ出した。コレの止め方ってどうやるのだろう?

 一瞬遠い目をしつつ、注がれる酒を見る。

「どうせじゃから三三九度(さんざんくど)にしよう」

 注ぎ終えた葛様が良い事を思いついたと言う調子でつぶやき。結果として何処からともなく盃が3枚に増えた。

 完全に神事にされてしまった様子だ、止めるのは諦めよう。


 追伸

 このお酒の味は、日本酒の古酒をイメージしています。

 酒蟲の抜け殻瓢箪に関しては、最近の他作品では東方の酔っ払い鬼、伊吹萃香が持ってるアレです。むしろメインの元ネタがそっち。酒蟲は元ネタ探すと割とメジャーな様でドマイナーでした。

 作中ではそんなルールですが、現実世界のお酒は二十歳になってから。

 因みに、神式の現代式だと、一つの盃に付き3回に分けて一杯分注いで、其れを三回に分けて飲む(口が付いて居ればふりでも良い)訳ですが。葛様は旧式呑兵衛ですので、一つの盃に付き三杯ずつ、一口ごとに盃を空にして交互に回し飲みと成ります、知識とツッコミ力が足りない陽希に止められる術は有りません。

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