第47話 番外 欠食児童とキャベツと酒(節分に鬼から例の瓢箪を貰った後の話)

(あれ? 安い・・・)

 スーパーの店先でキャベツ一玉50円と言う愉快な値段がPOPされて居た。

 元値を考えると農家の方々の生活が気に成る位の安さだが、消費者側からすると有難いだけだ。

 ん-と

 一玉適当に刻んで塩もみして浅漬けにして、4つ位に割ってベーコンと挽き肉一緒に鍋に放り込んでコンソメで味付けして。みそ汁に投入。塩昆布刻んで揉んでごま油でパリパリキャベツ。野菜炒めに回鍋肉。豚バラと一緒に放り込んでミルフィーユ鍋と・・・

 キャベツ尽くしは飽きるとか言われそうだが、料理の引き出しは多いし、日持ちもするから買い過ぎても問題無いだろう。

 一週間で消費すると見て4つ・・・いや5つ・・・・


「何と言うか、お主意外と所帯じみとるな?」

 葛様が呆れ気味に言う。

 食卓はキャベツ尽くしである。

「もう一寸映える様に成らんか?」

 キャベツ鍋を指差す。

「色気より食い気です」

 ミルフィーユ鍋は奇麗に交互に盛るのが面倒だったので、ざく切りして斜めストライプ状に放り込んだだけだ。

 見た目を気にする余裕があったら倍量作ってお腹いっぱいにしたい。

「意外と女子力低いのう」

 残念だとしみじみ言う。

「男に何を求めてるんですか」

 自分が男だと言う事は忘れないようにしていきたい。

 見た目は兎も角味付けは妥協して居ないので、味に問題は無いのだ。

「良い嫁に成りそうなのに、一歩惜しい」

 訳の分からない事を言って居るが、スルーする。

 因みに、葛様は毎回、何とも言えない調子で小言を挟むが、最終的に上機嫌で平らげているので特に問題には成って居ない。

 更に言うと、料理を振る舞ってくれるかは割と気まぐれだったりするので、頼り切ったりすると見限られるのは確定である。


その夜

 葛様が何時もの様に風呂上がりの晩酌を楽しんでいた。

 服装は白い浴衣で、下着に白の上下を着ている、何故下着まで知って居る? と言われそうだが、堂々と胡坐をかいて居るので盛大に着崩れているのだ、油断して居る時はブラも付けていないので、非常に目の毒である。

 酒は何時かの節分に鬼達の献上品として受け取った古びた瓢箪から出て来る酒蟲の酒、酒のアテはパリパリキャベツを延々と齧って居る。

「何と言うか、サラダだと思えば問題無いが、酒のアテでは無いな?」

 納得の行かない様子でパキパキシャリシャリと音を立てながら延々とキャベツを齧って居る。

「じゃあ、コレで良いでしょうか?」

 豚ハツを塩コショウで炒めた物を追加した。

「おう、気が利くな?」

 肉が出て来て葛様の機嫌が一気に良くなる。何だかんだでこの人は肉食動物であるらしい。

「しかし、其の瓢箪に入ってるお酒って無くならないんですか?」

 節分に献上されてから、上機嫌で毎日飲んでいるのだが、無くなった様子が無い、市販の1.8Lの一升瓶の日本酒を飲んでいた時は1本消費するのに1週間はかからないのだが、かなりの期間もって居る、見た目は1升瓶より少し大きい程度で、見た目通りではない世の中では有るが、不思議だ。

「ん? 不思議か?」

 少し得意気だ。

「はい」

「こうして光に透かして見て見ろ、傾けすぎない様にな?」

 手に持った瓢箪を天井の灯に透かして覗き込むポーズをしてから此方に渡して来る。

「何か入ってるんですか?」

 そう言いつつ、受け取り、同じポーズで瓢箪の中を覗き込んだ。

 ・・・・・何か赤いぬめぬめした生き物が居る。

 足と尻尾が見える?

 瓢箪の口の大きさより大きい、赤い山椒魚(サンショウウオ)の様な物が見えた。

外鰓も付いて居るからウーパールーパーだろうか?

「視えたか?」

「はい、何です此奴?」

 覗き終えたので、瓢箪を葛様に返す。

 何か居るのは解ったが、其れが何なのかは判らなかった。

「この瓢箪の中に居るのが酒蟲(しゅちゅう)、酒を入れていた古い瓢箪に住む、一種の妖怪やら蟲、モノノケの類じゃ、創作世界では有名所じゃと芥川龍之介が描いておる、瓢箪に注がれた水を酒に変えるんじゃが、中身の蟲が歳を減る程に酒の味に深みが増すんじゃ、若い酒も良いが、古いのも良いモノじゃ、因みに、減った分だけ水を入れれば酒蟲が酒に変えるから、実質無限の酒瓢箪じゃ」

 酒飲み垂涎、夢の瓢箪だった。

「確かに、一晩の宿の礼にしては凄いですね・・・」

「じゃろう? あ奴等としては其れほどに有難い話だった様じゃな?」

 鬼としてあの時期は結構辛いモノらしい。

「使えなくなったりは?」

「儂が霊力と神力注ぎ込んどるから、儂が持って居る限りは問題無いな?」

「成程・・・」

「弱ると味と度数が下がって来るから、休ませるのに酒注いで勝手に減ってく天使の取り分だけ酒を注いで数年単位で休めんとどうしようもなくなるがな」

 機嫌を取る必要も有るらしい。

「機嫌損ねると居無くなる事も有るが、其れでも酒蟲が居た瓢箪だけで水を酒にする事は出来る、味は落ちるがな?」

 どっちにしても便利な生き物(?)である。

「因みに、時たま人に取り付いて、水を飲んでも酔っぱらう気の毒な状態に成ったりもするから、退魔師してれば時たま出くわす程度の存在では有るぞ?」

「居るんですか?」

「時々な? まあ、この酒蟲は古いようだから、コレ程のモノを探すのは骨じゃがな」

 どっちにしても珍しいものでは有るらしい。

「偶には飲まんか? お神酒じゃ、飲める年じゃろう?」

「はい、ではご一緒します」

 断れる要素は無い。


追伸

 陽希は何だかんだで欠食児童な食べ盛りなので、エンゲル係数的な食材消費量はバグり気味です。

お酒は二十歳になってから。

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