第35話 小市民の日常
周囲の人々が息をのんで一人の動向を観察する。
仕事の邪魔をしてはいけない、コレもお願いなどと言って自分から要求するのはマナー違反だ。
学校帰りの午後5時過ぎ、現在地は通学ルートの途中に有るスーパーで、今日の夕飯と明日の朝飯の買い出し中だ。
店員さんが見切り品に値引きシールを張って行くのを、興味の無い振りをしつつ近くの棚を物色しつつ待って居る。
シールを貼り終えた店員さんが移動して行く。
目当ての棚は鮮魚系、魚や刺身がメインの棚だ。
ここぞとばかりに他の客が半額に成ったお刺身を物色し始める。
自分は其れを尻目に、刺身以外を物色する、確かに刺身は見栄えが良いが、量的にお腹に貯まらないのだ。
棚の隅に半額シールの付いたタイの頭(かま)を見つけた、1匹分セットが100円の半額で50円が2つ!
よし、これだ!
かなりこんもりと盛られているので、食いでが有りそうだ。
内心で笑みを浮かべつつ買い物籠に放り込む、今夜は頭を塩焼きにして。中骨の辺りは炊飯器に放り込んで出汁を取りつつ炊き込みご飯にして、余ったハラスの辺りはアラ汁にしよう。
そんな安い幸せを噛み締めつつ、他の物を物色する、イワシ3匹パックが200円の半額で100円と、塩焼きか、開いて塩ふって一夜干しにして明日にでも。
其れなら付け合わせにダイコンも欲しい、紫蘇の葉はちょっと高いなあ、種買ってベランダで水耕栽培しようか?
・・・・・は?!
そんなこんなで気が付いたら結構買っていた。
都会は物価が高いと言うけど。高いのは家賃だけで、食料品系はスーパーが競合して殴り合っているお陰か、寧ろ安い位だった。
田舎で食品が安いって言うのは、ご近所の農作物御裾分けと、家庭菜園補正のお陰なので、寧ろ田舎のスーパーは高いのだ。
いやあ、帰り道に安いスーパーが有るって素晴らしい。
そんな所帯染みた事を考えつつ。帰り道を行く。
「きゃあ!」
「ひったくりよ!」
「捕まえて!」
そんな叫び声と、原付らしいエンジン音が聞こえた。
音の出何処を確認しようと、音の方向に目を向けると、二人乗りのフルフェイス原付、すれ違いざまに丁度此方に手を伸ばす後部座席の人間と目が合った。
条件反射的に買い物袋から手を離しつつ、その手を右手で掃い、左手で正拳を叩き込む。
ガサ
足元に買い物袋が落下した。
原付は其のまま通過した所で、後部席の男が道路に落下、その影響でバランスを崩したらしい原付がふらつき大きく蛇行して、ガチャンとガードレールに接触して転倒する。
「事故だ! 警察呼べ!」
「救急車もだ!」
大騒ぎに成ってしまった。
「しまった、やりすぎた・・・・」
呆然と呟く。
犯人以外は怪我人居ないのが不幸中の幸いだろうか。
「お姉ちゃん有り難う」
一部始終を見ていたらしい人々とひったくりの被害者らしい人達が、そう言いながら犯人の生存確認と荷物の回収を始める。
犯人の二人組はどうやら死んではいない様子で、色々引きずりつつ今更逃げようとしているが、落ちた衝撃で上手く動けないようだ。
「お姉ちゃん強いなあ」
何時の間にかギャラリーが集まって身動きが取れなくなってしまった。
一先ず足元に落とした買い物袋を回収する、どうやらパックは無事な様子だ。
セーフと安堵の息を吐く。
そうこうして居る内に警官が現場に到着、事情聴取されたが、事故の原因が自分かも知れない事を話した所。
「いえ、アレは犯人が勝手にバランスを崩しただけです、良いですね?」
と言う感じにまとめられた、どうやら無罪らしい。
助かったけど、都会は怖いなあ・・・・
ハラスが緑色、胆嚢(たんのう)潰して胆汁(たんじゅう)が零れてる、捌くの若干失敗してるのか。
ちょっと残念、まあしょうがないなと思いつつ、緑の部分を切り取って廃棄する。
この部分は苦いのだ。
「全く、儂にタイの尾頭(おかしら)付きを献上するのは珍しくも無いが、尾頭だけ献上するのはお主が初じゃな?」
葛様には楽しそうにそんな事を言われたが。何だかんだ上機嫌で完食して居たので特に問題は無かったらしい。
追伸
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