第36話 番外 きさらぎ駅 前編(葛様合流前、つむぎ合流回)
時系列的には 入学直後、葛様とは未だ合流して居ない頃です。
ガタンゴトン ガタンゴトン
しまった、乗り過ごした?
朝の心地良い陽射しが射し込む通学電車の中で、思わず独り言ちた。
乗っているうちに何とも言えない眠気に襲われ、気がついたらこの有様だ。
スマホを取り出し時間を確認すると、既に遅刻は既に確定している時間だった。
通勤通学時間で電車には結構な人数が乗っていた筈なのに、自分の他には1人しか居ない。
その一人も同じ制服で、同じ一年生の学生証を付けている。此方が見ているのに気がついたのか、目線が合ったので、苦笑を浮かべて挨拶をする。
「おはよう遅刻仲間だね?」
「おはよう御座います、そうですね?」
警戒はされて居ないようだ、こういった時にこの女装は便利だと思う。
「所で何組?」
話題を探して適当に話を繋げる。
「同じクラスですよ、三門春樹さん?」
「あれ? そうだっけ?」
一方的に知られているというのは結構気まずい。
「良いですけどね? 嫌でも目立つあなたと違って、私地味ですし」
若干恨みがましくだが、特に気にした様子も無く返してくれた。
「そんなに目立つ?」
「ええ、かなり」
深刻そうに返される、そんなにか・・・
「えっと……」
「紬(つむぎ)です、結城紬(ゆうきつむぎ)」
「ごめんごめん、紬さん」
「覚えてくれます?」
若干ジト目で要求してくる。
「覚えました」
両手を上げて降参して置こう。
「と、前置きはこの辺にして、次の駅で折り返そうか?」
遅刻は確定にしても、余り学校を休みたくはない。
「そうですね」
微妙な顔で同意してくれた。
【ざざざ えーづぎは ぎざらぎ駅 ぎざらぎ駅】
妙にノイズ混じりの案内音声が響く。
聞き覚えが無いなあと思いつつ、降りる準備をする。
ききききー プシューと音を立てて電車が止まる、車内から見る限り小さな駅だが、まあ取り敢えず降りてみよう。
【お降りの際はボタンを押して下さい】
何だか故郷で散々聞いたような案内が鳴る。
あれ? 此処ってそんな田舎? と訝しがりながらボタンを押す。
今住んでいる場所や学校周辺は勝手に開くのが普通なので、少し驚いたが、そんなに乗り過ごしたのかと悔やみつつドアが開くのを待つ。
一拍遅れて、ピンポンピンポンプシューとお約束の音を立てながらドアが開く。
何故か降りたく無さそうな様子の紬の手を無意識に取り、電車から駅のホームに降り立つ。周囲には草原の様な何もない世界が広がって居た。
降りると電車はピンポンピンポンと音を立ててドアを閉め、直ぐに走り去って行った。
「きさらぎ駅?」
駅のホームの看板を読み上げて場所を確認しながら首を捻る。
「え”?」
紬が何とも言えない声を上げたが、続きが来ないので置いて置く。
駅名に聞き覚えが無いし、何処の駅だか分からない、どうやらホーム待ち合い室しかないような無人駅らしい、本数が少なそうだ。
「失敗したかな?」
乗り鉄の人なら場所と乗り換えを一瞬で割り出してくれたり、時間まで覚えていたりでかなり役に立つのだが、自分には残念ながらそんな便利な知識は無い。
もしかして大きい駅に着くまで乗って居たり、終着駅折り返しの方が速かったかも知れないと今更後悔する。
尤も、何処まで行く電車なのかも覚えていなかったので、県境突破する様な長距離だった場合酷い事に成るのでコレで正解だと思いたい。
空いている手でポケットからスマホを取り出してアプリを起動、乗り換え検索を始める。
「あれ? 圏外?」
アンテナ表示が×に成って居る、どうやら本気で都市部から離れてしまったらしい。
其れでも内部データだけで動かないかと検索するが、「オフラインです」と、無情な警告メッセージが返って来るだけだ。
其れならばとオフラインでもGPSだけで位置を探せる地図アプリを起動させる。
「GPSもロストしてる・・・・・」
どうやら今回スマホを当てにできないらしい、都市部の電車の乗り換えは苦手で、スマホ頼りだったのだが命綱的な物が一つ無くなってしまった。
「まあ、時刻表・・・・」
近くの柱に張り付けられている時刻表を見つけて覗き込む。
「真っ白・・・・」
到着時間も何も、上りも下りも表示されて居ない。幾ら田舎だとしてもこれは酷い。地元の限界集落駅でも2時間おきに電車はあったと言うのに・・・
コレが嫌で田舎から出て来たんだよなあとしみじみと実感する。
おらあこんな村嫌だと、どこぞの歌詞に首を痛めるほど同意しか無くて、地元の公立校より学力高目の学校に行きたいと言う事を口実に都市部に出て来たのだが、真坂こんな身近に何とも言えない空間が広がっているとは思わなかった。
どうしようか、引き返せる電車が来るのをひたすら待つしかないかなと危機感無く考える。
そんな感じに一人で結論付けして納得した所で、掴んだままだった紬の手が震えている事に今更気が付いた。
「どうしたの? 紬さん?」
覗き込んで見ると、何とも言えない、初めて幽霊を見つけた様な青い顔をしていた。
「知りません? きさらぎ駅って? 有名な怪談ですけど?」
深刻そうに言う、怪談なのかと今更納得するが、鉄の人では無いので駅ネタは良く知らないので首を振る。
「知らないけど、どう言うの?」
「有名な閉じた無人駅です、迷い込んだら帰れないとか、ネットに書き込みが有って、迷い込んだ本人の生存報告無いんでオチも何も無いですけど・・・」
「まあ、怪談なんてそんなもんだよね」
古い怪談は、そんな恐ろしいモノが居たとか、恐ろしい死に方をした、神隠しにあった、其れだけで‵どんとはれ’や‵さもありなん’程度のオチで終わりだ。
今の世界ではほぼオチ無しに近い。
そっかぁ異界かぁと、今更納得する。
確かに周囲の風景と気配に違和感がある、人家も畑も田んぼも他の人も見えない、只の草原何て日本にはほぼ無い。
正直、GPSや電波が通じない位は日常茶飯事なので危機感が沸かないと言うか、其処まで凶悪そうな気配は感じないのだが。
(失敗したかな?)
怪異だと言うのなら仕事に成ったかもしれない、タダ働きなのはちょっと癪だ。
一先ずスマホで仕事確認用のアプリを起動して、仕事中に設定する。コレを起動すると、GPSや各種センサーで周囲の状況のデータを収集し始める、音声データも録音されたりするが、変な事をする訳では無いので問題無いだろう。
ランダム遭遇系の怪異の場合は、業界的に出会ったらボーナスと言うか、解決の依頼が有ってもそもそも遭遇しないとどうしようもないので、遭遇した場合は其の怪異を解決するなり、情報を集める事に成って居るのだ。
「まあ、其れなら実際に出て見ようか?」
紬の手を強く握ってこの駅の外に向かって歩き出す、こういった異界化した場所に一般人を放り出すと碌な事が起きない、何かと入れ替わられたり、神隠しにされたりするのだ、こうして握って居ればそう言った事も無い筈、何故か赤い顔しているが、特に問題は無いだろう。
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