第34話 居なくなった葛様

「ちょっと出雲行って来る、最低でも1週間は帰らんから、帰り遅くても気にせんで良いぞ?」

 10月、神無月(かんなつき)の頭に葛様にそんな事を言われた。

「出雲って言うと神在月(かみありつき)の?」

 神無月、出雲では他の地方とは逆に神在月として神様を迎える、神様が集まって縁結びの会議やら何やらをするので神様でごった返して大騒ぎに成るらしい。

「おう、何年かに一回は出んとな?」

「分かりました、行ってらっしゃいませ」

 そんなやり取りをして、葛様は出かけて行った。


 時は過ぎて神無月から霜月、何時の間にか師走へと移り・・・・

 未だに葛様は帰って来ていない、遅くても気にするなと言われては居るが、此処迄遅いと困る、愛想をつかされて居ないだろうか?

 そんな益体の無い事が頭に浮かぶ。

 そして、葛様が居ようと居まいと、日常は進むし、依頼も来る。

「あれ?これは?」

 何時かの様な駅前通りの淀みの調査の依頼だった。


 部長と一緒に処理をする、今度はトラップに引っかかり得物を失う様な事は無い。

 ひゅん

 ただ淀みの起点を過たずに斬るだけだ。

 今回は囮に騙される事も無かった。

 結界的なモノもあった様だがそれも無くなり、通りから聞こえる雑踏のざわめきが帰って来る

「お見事、こうなると出番無いな?」

 部長が何のことは無いと言う様子で褒めてくれる。

「後詰めは必要ですから、前回は失敗しましたし」

 前回は油断があったせいか、斬り方が浅かったので、結果的に葛様の手を煩わせている、今考えて見ても情けない。

 更に言ってしまうと、この人の方が強いのだが、其れを笠に着る様子も無い、諸々この人には敵わないと思う。

 実質的に手柄を譲って貰って居るだけに近い。

「んで、この結界の起点は之だな、本体はさっき斬ったやつだが、この魔法陣がバックアップで、起動する度にどっかに飛ばされるんだろう」

「成程・・・・」

 こう言った事には疎いので、結局頼る事に成る。

「明確に悪意のある物だな、適当に一部消すか書き足して呪詛返しを狙うのが最上だが、何と言うかこの言語読めないから細工も何もあった物じゃ無いな、塗りつぶすだけにしとくか」

 部長はそう言って、近くに落ちていた缶スプレーを使い、魔法陣が起動できない様に一部を塗り潰して行く。

 スプレーは捨てて有った物らしく、ほぼ空ではあったようだが、一部塗りつぶす事には成功したようで起点としての魔力的なモノも起動し無くなった様だ。

「成程、そうやるんですね?」

「落書き消すまでやるのは手間だしな」

 ビルの外壁には所狭しと落書きがされて居る、これを消すのは専用の洗剤を使って一日がかりだろうか? 確かに自分達でこの処理までするのは面倒だし、其処までしろとも言われて居ないので、手を出さないのが正解か。

「さて、今日はここまでだな? 帰りどうする? 送ろうか?」

「大丈夫です、これでも男ですよ?」

 部長が何か言いたそうにこちらを向き、頭から足までじっくりと見つめる。

「まあ、そうだな?」

 奥歯に物が挟まった調子で渋々納得した様だ。


 結局、現地解散で一人で帰ることになった。


 甘かったか・・・・・

「ねえ彼女、かせげるバイトに興味無い?」

「モデルなんかも有るよ?」

「アイドルに興味ない?」

 夜も遅かった事も有り、今度はナンパと言うか、怪しいスカウトに囲まれてしまった。

 部長の防御力凄かったんだなあ・・・・・

 と、居なくなってから気付く有難み、前回の葛様が小細工していた訳も分かるというものだ。

 思わず進行方向を塞がれて足を止めてしまったので、脈有りかスキありと見たのか、隙間無しに囲まれてしまった、面倒・・・・・

 思わず半目に成り、殺気を飛ばそうと内心で身構える。

(ボディにしとけ)

 不意に葛様が言っていた一言を思い出し、物理で見えない様に殴る。

 前方纏めて3人ほどお腹を抱えて蹲ったのを確認して、そのスキに走って逃げる。


「ほれ其処の彼女? そんなに急いで何処に行くんじゃ?」

 ある程度距離を稼いで巻いた辺りで早足程度に速度を緩めると、不意に聞き覚えのある声を聞き、足を止める。

 数ヶ月前に出かけた格好のままの葛様が居た。

「な・・・・な・・・・・」

 思わず声が詰まってぱくぱくと変な声が出る。

 よろよろと葛様の方向に一歩歩を進めた。

「ん?」

 察したのか、葛様がしょうが無いなあと言った様子でほら来いと手を広げる。

 その仕草が止めで、人前だと言うのに思わず抱きついた。

「どうした? 捨てられた仔犬が飼い主見つけた見たいな動きしとるぞ?」

 変な例えをしつつ、優しく抱き返してくれる。

 久しぶりに感じる力強く優しい小さな感触に何故か泣きそうになりながら、抱きしめたまま動けなかった。

「よしよし・・・」

 ポンポンと背中を叩かれて、やっと手を離せた。


「所で、なんでこんなにかかったんです?」

「縁結びの会議で誰かがコヨリを結び間違えてグダグダに成ってな? 時間だけは無限にある神の類じゃから一切改善無しじゃ、延々と結び直しする羽目に成った」

 流石にげんなりと言った様子で答えてくれた、そんな物らしい。








 神様達の会議、内情

「えーい! 面倒じゃから人間だけと言っておろうが! 何だこのアスファルト×コンクリートだとか、アスファルト×地面だとか?!」

「無機物萌えなのはどうでも良いがくじに混ぜるな!」

「なんだこの部長×電柱とか?!」

「エンマコオロギ×カマキリとか捕食以外に道がある訳無いだろうが!」

「だから一々こよりに仕込んで結ぶな!」

「誰だこのちくわ×チーズ何て仕込んだの?!」

「ベストカップルじゃねえか!」

「そういう問題じゃねえ!」

「羊×狼?」

「下剋上!」

「だからどうした?!」

「特殊なカップリングは同人誌と妄想だけにせい!」

「せめて子供が増える組み合わせにしろ! 伊邪那美命(イザナミノミコト)に負けそうなんだよ!」

 確かに段々と少子化が進行して来た。

「って!?間違えてる?!」

 悲鳴が上がる。

「何処からだ?!」

 怒号が響く。

「お前らが騒ぐからだ!」

 そんなぐだぐだ縁結び。


 追伸

 この神様達が縁結び間違えるくだりは出雲公式で存在したはずだけど、ネットで調べると出て来ないと言う不思議な扱いとなっております。

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