第9話 後始末と燃料切れ

「おっと・・・」

 力尽きた様子でふらりと倒れかけた陽希(はるき)を咄嗟に下から抱き止める。

「大分疲れた様じゃのう?」

 苦笑しつつ抱きしめ、ついつい背中をポンポンと叩く、赤ん坊の頃の陽希をあやした時の癖が抜けて居ない。結構育ったな。こやつを抱きしめるのは、あの時に大騒ぎで呼び出されて以来だから、結構時間が経った物だ。

 いや、間にもう一回あったかな? 物心ついたので双性の加護無しでも大丈夫かと男の格好をさせた頃か、確かあの時、こやつ面白いこと言っておったな・・・?

「すいません・・・力が入らなくて・・・」

 陽希が未だ力が戻って居ない様子で呟いて居る。

「あ奴等、邪神共の眷属を相手にすると変な疲労が溜まるからな、今の流行だとSAN値が下がると言うらしいぞ?」

 下がると発狂するらしいが、今の所其処まで極端な状態には出くわして居ない。日本人の発狂耐性が無駄に高いのかもしれないが・・・

「しばらく寝ておれ、家には送ってやるから・・・」

「すみ・・ません・・・・」

 そんな一言を最後に陽希は意識を手放したようだ。

「まったく、こういう時の台詞は有り難うございますが先じゃろうが・・」

 苦笑を浮かべつつ、抱え直す、所謂御姫様抱っこでは無く、お米様抱っこと言う奴だ、体格的に無理矢理だと思うが、幸いこやつの背丈は其れほどでは無いし、筋力では無く、氣を込める事で細かい所は解決する。

 視界の端で自分の銀の髪がさらりと揺れた。

「まったくこやつめ・・・儂の結界迄斬りおって・・・」

 本家の奴等に気づかれない様に認識阻害の結界で金色に変えていた髪が、本来の銀色に戻っていた、恐らく認識阻害で隠して居た耳と尻尾もはみ出て居る事だろう。

 本家の連中には銀髪として認識されて居るので、あっちに行くにもこっちに行くにもついて来られるのを嫌ってこうして多少化けていたのだ。

「あ奴ら呼ぶのも面倒だしな・・・」

 折角掴んだ本家の弱味だ、絶好のタイミングで止めを刺せなければ面白くないので、陽希の世話を優先させよう。

「さて、この犯人は如何してくれようかのう?」

 壁にはぐしゃぐしゃで見れた物では無いが、魔法陣らしきものが描かれていた、どうやらこの落書きを起点としてアレが沸いたらしい。

 そして、最近流行りの人さらい、何の前触れも無く森の中に居ると言う流行の都市伝説の正体も恐らくアレだ、日本での伝統的な怪異としては一反木綿や天狗などが居るが、何方かと言うと昼間の怪異だから可笑しいと思ったのだ。

 夜鬼の性質として、被害者を人里離れた山や荒野に運ぶと言う良く分からない嫌がらせを行うことが知られている、行先は何処の山の中やら・・・・

「一先ず今日は之で勘弁してやろうかのう?」

 雑に落書きの様な魔法陣らしき物を、自分が陰陽道の符術、五芒星の魔法陣を張り付けて上書きする。

「この場合、エルダーサインの方かのう?」

 くくくと一人で含み笑いを浮かべる、クトゥルフ共は神話としては新顔では有るが、何かと自分達の神道や陰陽道と通じるものが有るのだ。

 魔力の流れを呪詛返しで逆流するように細工する、相手の顔も何も知らんが、こうして可愛い孫(の、ようなもの)を苦労させたことを後悔するが良い。


 其れはそうと、好い加減移動するか、確かこやつの部屋に霊道と神棚は設置していた筈だから・・・

 この辺で最寄りの霊道はっと・・・

 稲荷神社はあっちだな・・・

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