第8話 番外 服屋の店員

 私は駅ビルのブティックの店員で、獲物・・・もといお客さんが来るのを待っている、流行りのお安目なファストファッションでは無いのでお客さんのターゲットは一寸高め、お陰でマナーの悪い客は来ないし、レジがラッシュでパンクするような事は無い、代わりにお客さんの数が少ないのが多少暇なのが難点ではあるが・・・

 高めの値段に見合う程度に、絶対に似合うのを見立てる腕には自信があるのだが、日に一人捕まればいいのが良いという感じの客の少なさにはちょっと退屈で腐りそうになるが、売り上げの数字自体は結構悪くないのでビジネスモデルと言うか、方向性は間違えてないだろう。

 一人のお客さんに付きっ切りで色々出来るし。

「こ奴に似合う服を見立ててやってくれ」

 そんな夕刻、可愛らしい少女が、可愛らしい少女? を連れて店に来た。

「はい、喜んで」

 ?が付いたのは、何か違和感が有ったからだ。何百人もの客の服を見立てて来た自分の目が違和感を訴えている。

「一先ずこれを着てみい」

 自分が選ぶより先に小さい方の少女が、大きい方の少女? に適当に見立てた服を持たせる。

「はい」

 どうやら主導権はこの小さな少女に有るらしい、大抵の服選びではお互い好みのぶつかり合いになるので、服を選んだ先からあーだこうだとやり合う事に成るのだが、大人しく試着室に入って着替え始めた。

「着替えましたけど・・・これ正気ですか?」

 気後れして居るらしい。

「正気じゃ、先ずは見せてみい、話しは其れからじゃ」

 着替えを終えた少女の試着室のカーテンを遠慮無く外から開ける。

 純粋に露出多めのミニスカートと、キャミソールっぽいブラトップだ。

「あれ?」

 違和感がはっきりする。

「分かるな?」

 小さい方の少女は得意顔だ。

「成程・・・」

 すらっとした贅肉の少ない身体だが、胸が無い、筋肉の付き方が、骨格が違う、くびれの位置も違う、男の娘と言う訳だ・・・

「これを、一目では男の子(おのこ)だと分からないように、可愛く動き易く見立ててくれ」

 成程、之を見せる為に先に着替えさせた訳だ、中々分かって居る、そしてよい趣味だ、更にこの服を大人しく着てくれると言う事は、多少かっ飛ばしても大丈夫と。

「分かりました、任せて下さい」

 胸を張ってポンと叩いて気合を入れる、体系を誤魔化すのは私の十八番だ、ベースも悪くない、先ずは一通り着せてと、手足と顏は其のままで行ける。

 手の甲に血管は未だ浮かんでない、浮かんでたら夏でも長袖で、甘えんぼ袖にするか、手袋か指ぬきグローブだったので一手間減った。

 骨盤とお尻周りは膨らむ様にプリーツが入ったスカートにすれば良い感じに誤魔化せる、お腹は男女でくびれの位置が違うから、だぶついた少し大きめのトップスにして、ちょっとゴツメのベルトで絞める位置をずらせば薄い生地でも体系を誤魔化せる、胸は最初からパットが入ったAAサイズのブラトップで有るように見せれば・・・

 序に、口紅・・・とは行かないから、カラーリップだけ使わせてもらおう。

 うーん、肌のきめも細かくてニキビも無いので化粧すればもっと行けるのに・・・

 その他色々と・・・

 お客さんと揃ってあーだこうだと試して見て・・・

 スカートとリボンは必須?

 パンツルックだと骨格バレますしね?

 露出はどれぐらいまで?

 本性が男だから油断しまくりだけど、下着はボクサーブリーフだから見えても平気?

 なら、目一杯短くしちゃいましょう。

 足に余計な脂肪ついて無いから、長目に見せたいですしね、替わりにギリギリの長さまでオーバーニーソックス上げるか、ガーターリングなんかも良いでしょうか?

 いっその事メンズワーコルでも穿かせます?

 ・・・・流石にサンプル出したら青い顔して首を振った、成程、之はアウトか。

 レースのパット入りメンズブラは・・・うん、之もアウトと。

 何でそんな物の在庫が有るのかって? こんなお客も居ないことも無いんですよ?

 完全着せ替え人形では無いですね、自意識は有るようで何よりです。

 ・・・・・

 ふう・・・

 一通り試して満足のため息を付く。

「これで如何です?」

 ダブついたトップスとベルト、短くてふわっと広がるミニスカートでシルエットを整え、元から脂肪の少ない形の良い足を目立たせるように黒のオーバーニーソックスでキュッと絞める、ミニスカートとソックスの境目の生足部分に視線を集中させて、体系をさらに誤魔化す。

 足元は活発な印象のスニーカーで・・・

 髪は結構良い感じに長くしているし、中々見事な癖の無い真っ直ぐな黒髪だ、無造作ロングだと重いので、リボン使いたいのなら高い位置でポニーにしてしまうのが手っ取り早い。

 化粧っ気が無いし、恐らく未だお化粧の習慣はないだろうけど、それでもリップクリームだと思えばあんまり違和感無く使ってくれるはずだ、地味な物なので、最初に着ていた制服でも違和感なく調和するはず。

 一仕事終えた感じに満足感の有る仕上がりだ、確実にコレなら駅前で騙されたナンパ男どもが入れ食いに成る。

「グッジョブじゃ」

 ぐっとお客さんが右手の親指を立てて笑みを浮かべて居る。

 釣られて此方も右手親指を立てる、当人の方は蚊帳の外で外野の私たちが無言で通じ合い、拳を突き合わせた。

 (いえーい)

 流石に口には出さないが・・・

「お支払い如何します?」

 おずおずと電卓を叩き、合計金額を出す。色々と目一杯揃えた物だから、結構良い値段に成ってしまった。

 全身揃えて本当に軽いメイク、メイクはカラーリップだけだが、一揃いで2桁万円突入直前だ、大丈夫だろうか?

「わしが払おう、このまま着せて行くから値札は外しとくれ」

 少女が当然の顔でブラックカードを取り出す。ありがとうございます。

 それじゃあ、着てきた服を袋に詰めておきますね?

「はい、有り難うございます、お支払いは?」

「一括じゃな」

「はい」

「名刺も貰って置こうか」

「有り難うございます」

 そつが無い、中々見ない位の見事な上客だった。

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