第6話 着せ替え人形

 結局その後も世間話が途切れず、色々と話して居る内に、その格好だと補導されるなと言われ、駅ビルのショッピングエリア、ブティックで着せ替え人形にされ、気が付くと無暗に可愛く、尚且つ動き易く服を見立られ、会計は何時の間にか済まされていた、其のまま着て行く行くと言われ、値札だけ切り取られた。

 因みに、ミニスカートにシンプルな半袖のブラウスとベスト、オーバーニーソックスに、スカートに通す太めのベルトと、もう一本のベルトを重ねて有る特殊な組み合わせだ、恐らく帯替わりだろう。 

 不意にポロリと落ちた値札に、5桁の数字が書かれて居たのはきっと見間違い・・・

 着ていた制服は丁寧に畳まれ、袋に収まっている。

「えっと・・・良いんですか?」

「わしの趣味だから気にするな、良く似合っとるぞ?」

 ほくほく顔で先程散々写真を撮られた、流石に少し恥ずかしいので、顔が赤くなっている気がする。

「・・・・有り難うございます」

 女物が良く似合う男と言うのも如何なのだろう? と、内心突っ込みつつ、服の礼を言う。

「時間も大分潰せたな、獲物は持っとるんじゃろう?」

 葛様が懐中時計を取り出して時間を確認する、飾り気の無い銀色のシンプルな懐中時計だが、この人には良く似合って居ると思う。

 そんなこんなの内に日も沈み、外を歩いて居る人もまばらに成って来た。

「此処に・・・」

 刀を持ち運ぶ為の刀袋を言外に示す。

 因みに、無銘だがれっきとした日本刀が収まっている、刀袋は皮製の確りした造りで金属製の金具で鍵も付いて居るので、基本的に堂々と持ち歩いて居ても警察に咎められる事は余り無い、尤も身分証明書を見せれば話が通じるので、仕事中に持ち歩いて居る限りは色々大丈夫である。

 結局学校でも持ち歩いて居るので突っ込み所は多めだが・・・・

「所で、相方は如何した? 合流地点は?」

「今日は自分一人だそうです」

 自分が発したその一言に、葛様は片手で頭を押さえ、呆れ半分のため息を吐き出した。

「じゃあ、儂が付き合ってやろう、さっきよりは楽に歩ける筈じゃぞ?」

 その言葉に抗えるはずも無かったというか、自分に拒否権が有ると思えなかった。


 確かに、一人で歩いて居た先程とは違い、葛様と二人で歩いた場合は誰とも引っ掛る事が無かった。

 日が沈んで、空が暗いと言うのに、店から漏れる灯と街灯で何も持たなくても足元は明るい。

「楽じゃろう?」

 葛様は得意気だ。

「はい、でも何でこんなに違いが?」

 違うにしても極端だ。

「人払いの結界じゃ、ほんの少しでも意識がズレれば他人の視界からなぞすぐ消えるわ」

「成程・・・」

 成程と言って居るが、陰陽術なんて物は見た事が無いので、納得しきれないのだが・・・

「第一、この程度」

 その言葉と同時に葛様が指を鳴らす、直後、一瞬ざわめきが近くなる。

 と、同時に、目敏く此方を見つけて、寄って来る者が居た。

「ねえ、其処の彼女達? ドライブにでも・・・」

「失せよ・・・」

 ぎろりと、葛様が低い声で呟く、周囲の空気が一瞬で凍り付いた。

 その男は、動きを一瞬で止め、後ずさりして居無くなった。

「この通りじゃ」

 得意気だ、同時に手で何か印を組んで指をくるりと回すと、又ざわめきが遠く成る。

「真似できません・・・」

 正直に自分の未熟を恥じる。

「精進せい、未熟者」

 少女はクククと笑みを浮かべる、正体が化け狐とか以前に、確実にこの人には勝てない事は嫌と言うほど判った。


「・・・ん?」

「如何した?」

「其れならこの服の意味は・・・?」

「わしがお主に着せて遊びたかっただけじゃ」

 悪気も無くニヤリと笑って断言する、突っ込むだけ野暮だったらしい。

「お主は着飾る事を覚えろ、折角の容姿が勿体無い」

「男を着飾らせて如何するんですか・・・」

 一体誰得なのか・・・

「可愛い者を着飾らせて見るのは楽しいのじゃよ」

 クスクスと笑って居る、多分、之に関しては絶対この人に勝てない。


「さてと、お主場所の見当は付けとるか?」

「あっちです」

 何と言うか、変な違和感を感じるのだ、基本的にこの違和感に従う限り外れた事は無い。

「無意識に正解を引き当てるか、素養は有った様じゃ・・・」

 そんな誉め言葉を受けながら迷う事無く歩を進め、暗い路地裏に一歩踏み込む。

 不意にぞわりと空気が変わった、半袖でも若干暑い位の気温だった筈なのに、寒さを感じて鳥肌が立って居る。

 瘴気だまり等で、空間が周囲とズレて居ると良くある状態だ。

「当たりです・・・・」

 この感触が出たらもう間違い無い。

「不用意に異界化した空間に入るな馬鹿たれ・・・・」

 後ろからコツンと小突かれる。

「これが一番早い・・・」

「油断しすぎじゃ阿呆」

 言い切る前にもう一度小突かれた。


 先程迄聞こえていた喧騒が遠い。

 しんと静まり返った空間の中心、明らかに異質な闇がわだかまって居た。

「この淀みさえ見つければ・・・」

 荷物を地面に降ろして身なりを戦闘態勢に整える。

 刀袋の鍵を開け、刀を取り出す、先程のベルトに挟みこむようにして鞘ごと刺して固定する、帯で止めた時の様に其れなりに形にはなった。

「・・・行ってきます」

 呼吸を整え、何時でも抜刀出来る構えで闇に向かって一歩踏み込んだ。

「おう、行ってこい」

 何だか愉快そうに送り出された。



追伸

 双性存在として扱われる間はパッシブで悪霊の類に対してステルスが発動するので、先制が取れます、但し其のせいもあって主人公は油断してます。

 葛に関しては目立たず、余り現世に干渉し無いように自分で認識阻害発動して居るので、自分から干渉しようとしない限りはあまり認識されません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る