第5話 入学直後の混乱(隣の席・琥珀視点)

(可愛い娘が居る・・・・)

 クラスに入ると、思わずストレートにそんな事を思い浮かべるほど可愛い娘が居た。

(あれ? でも男の子の列?)

 男女比は20:20のクラスで男女男女と列を作って居る席順で、その娘は何故か男子の列に座って居た、誰かと話す為に他の人の席に座って居るのかと思ったが、そんな様子も無い、他のクラスメイト達も気に成って居る様で、視線はその娘に集中して居た。

 そんな視線の中心に居るその娘は、涼しい顔で机の上に置かれた今日の予定表のしおりに目を通して居た。

 思わず黒板に貼ってある席順表を見比べる、三門陽希? 男の子の名前・・・だよね?

 キーンコーンカーンコーン・・・・

 チャイムが鳴ったので、皆が席に着く、あぶれた人も無い・・・あれ? 何で?


 教師が教室に到着した、教師が教室内をぐるりと見渡すが、特に問題無いなと言う様子で最初のHRは進行して行った。

 初回のHRではお約束の、之から1年よろしくと言った内容の言葉が流れ、全員の顔と名前を一致させる為の自己紹介と成った。

 名前を呼ばれ、皆が当り障り無く自己紹介をして行き。その娘の順番に成った。

「三門陽希(みかどはるき)」

「はい」

 その娘が返事をした、どうやら人違いでは無いらしい。他の人の自己紹介は聞き流して居たが、之は聞き逃せないと注目が集まる。

「こんな格好ですが、男です、家庭の事情でこんな格好しています、ホモでもおかまでも有りませんので、普通に接してくれると嬉しいです」

「はい、質問良いですか?」

「どうぞ?」

「どっち扱いで?」

「見た目と恰好コレなだけで男です」

 悩んだ様子も無いので良くある質問なのだろう。

「髪長いけど地毛?」

「地毛です」

 クラスが沸いた。

 パンパン

 担任の教師の柏手(かしわで)で沸いた空気が静まる。

「質問攻めは休み時間にしろ」

 その後は普通の自己紹介が続いた。


 最初のHRが終わり、休み時間に成り、いざ自由時間と成ると、クラスの皆が先ずは様子見と、謎の牽制を始め、遠巻きに観察するだけと成って居た、当人であるハルキは特に話しかけるなオーラは出して居ない、実はあの瞬間、クラス最初の自己紹介と言う場は特殊な一種の無法地帯でも有るので意外と好き放題出来るのだが、実際自由行動で人に話しかけるとクラス内のグループ作りに影響が有るのだ、なあなあで集まると意外と発言力が弱いグループに入ってしまったりするので、下手な仲間を作ってしまうと後が怖い。

 そんな感じの困ったヒエラルキーが働いて居るのだろう、確かに自分では男だと言っても、見た目が無駄に可愛い女の子だ、下手に女子グループに入れると容姿で男の方が可愛いとか言われてアイデンティティーが崩壊したり、男のグループに入れると、可愛いだが男だからのホモに走るのも有るかも知れないと言うか、ノンケがホモ扱いされるとネタ枠にされ、クラス内グループで極端にランクが下がったりする。下手すると虐めも有る。

 そんな事を考えるが、私は其の類の微妙な空気と言うのが気に入らない、あえて空気を読まないキャラで行こうと思う、と言うか、私は隠れオタの創作系腐女子だ、こんな面白そうなキャラ放って置く事など出来そうに無い、ぶっちゃけ創作のネタの為にも手元に欲しい。

「ねえねえ、ミカド君ちょっと良いかな?」

 意を決し、平静を装って話しかける、周囲の外野から無言の視線が此方に向く。

「何です?」

 キョトンと可愛い顔が此方を向く、長いストレートな髪がさらりと揺れる。うん、之はあざとい、下手な娘より可愛いと言うか、女子とは違う男子特有の油断加減が隙だらけで無駄に魅力的に映る。言われなければ女にしてはちょっと違うな? 程度、多少の違和感で済むが、男だとあらためて言われて居れば、成程男だと納得する。

「何て呼べばいい? 君? さん? 様? ちゃん? ハルキ? ルキ? ハル?」

 初対面なので呼び方の話題は鉄板だ、存在に突っ込み所が多すぎるので、一つずつすり合わせよう。

「お好きにどうぞ?」

 何を言って居るのかと言った様子で、気分を害した事も無く返事を返して来る。

「じゃあ、ルキで良い? 響きが可愛いし」

「良いよ? じゃあ、こっちは・・・・」

 咄嗟に私の名前が出て来ないのだろう、私は先刻までこの人の中ではその他大勢のモブキャラなので当然だ。私が咄嗟にフルネーム覚えて居るのに不公平だと言う思いも有るが、世の中はそんな物だ、気にする事も無い。

「琥珀(こはく)だよ、三条琥珀(さんじょうこはく)、コハク酸とでも呼んで?」

「じゃあ、宜しく、こはくさん?」

 ツッコミが来ない、メタすぎて滑ったか。因みに「シーフード?」的なツッコミが正解だ。

「やっぱり訂正、琥珀で良いよ」

「了解、宜しく琥珀」

 自然に手を伸ばして来る、握手で良いかな?

 ちょっと驚いたけど、距離感が近いのはネタが増えて良いと思い返す。

 手を出すと特に気にした様子も無く手を握って来る。

 見た目と違い、やっぱり女の子とは違う意外と鍛えてそうな力強くしっかりした感触だ、見た所背丈は160ちょい、其れほど大きく無いし、肩幅も有る訳じゃ無いから、女子制服でも違和感が無いけど、内側は結構鍛えてそうだ。

 至近距離なので色々見える、睫毛長い、ぱっちりとした二重瞼、歯並びも奇麗、肌艶も良い感じと、口臭体臭は違和感無しと、流れる様な背中まである緑の黒髪にリボン。髭や鼻毛も見えない、剃っている様子も無いので元から体毛が薄いのか、化粧っ気は無いからメイク無しのすっぴんで実力? この分だと女子力は余り無いけど、今の段階で既に可愛いいし、これ化粧でブーストするとヤバい奴だ。

「よろしくね? ルキ」

 うん、しかもこの距離感だと間違い無く勘違いするのが絶対出る、ヤバい、外野からの視線も痛い、自分も顔も熱いと言うかして周囲の雰囲気の飲まれて照れている。バレない様に自然な感じを装って手を離した。

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