第4話 六甲おろしの風評被害

 時間は少し遡る。


「六甲おろしって知ってる?」

「33-4?」

「なんでや! 阪神関係ないやろ!」

「えー」

 現在地は○○学校の教室で、今は昼食の時間、仲良くなった2人のクラスメイトと机を囲んでいる、自分で作った雑な作りのサンドイッチをお茶で流し込み、時間は余ったのでノンビリ、本を読んだりスマホを弄ったり雑談する時間だ。

 因みに、ツッコミが鋭い大阪気質が琥珀(こはく)、寡黙な方が紬(つむぎ)だ、因みに両方女子、男からは女に見える自分は距離が測りにくく、男っぽい女と見た方が取っつき易かったらしい、自分としては友人も出来たので特に浮いている自覚も無い、今の所の学園生活は順調と言って良いだろう。

 隣から不意に飛んで来た話題に有名なネタを提供した所、凄い勢いでツッコミが飛んで来た。

 ろーっこーおろーしーにーさーあっそーうーとー

 と言う感じにあの歌詞が脳内再生される、因みに、3日で3戦してボロ負けした時のトータルスコアらしい、野球ファンでは無いのでにわか知識だが。

「違うの?」

「今回のは違うの、でもその返し自体はナイス」

 グッジョブと二人揃って親指を立てて来る、ある意味有ってはいたらしい。

「ナンパの方の六甲おろし」

「そっちは知らない」

 首を傾げて見る、その反応を待って居たとばかりに得意気に琥珀の説明が始まった。

「ナンパでドライブに行かない? で、ドライブに行くと六甲山の山道でホテルに行く? それとも降りる? って言われて、断ると車から降ろされて暗い山道を一人で延々と歩いて帰る事に成る奴」

「ゲスい・・・・」

 思わずドン引きする奴だった。というか、そんな怪しい車にホイホイ乗るのだろうか?

「ギリギリ帰れる距離だから比較的良心的らしいよ?」

「其れで良心的なら普通の男が聖人君主に成るんじゃないか?」

 思わず突っ込む、雀の涙位の、大分ささやかな良心だ・・・・

「其れもそうだけど、酷いのだと意思確認以前に襲い掛かって来るらしいから、ボロ雑巾みたいになるらしいし・・・・」

「命が有ればめっけものみたいな・・・・」

 ボロ雑巾で済めばマシな方じゃ無かろうか? その後のトラウマとかも酷そうだが・・・

「と言うか、学校でする話じゃないと思うけど?」

 聞き耳を立てていた周囲がドン引きして居るのを見かねて、横からささやかなツッコミが入る。

「何でそんな話になったの?」

 ツッコミに合わせて話を本道に戻す。

「いや、何か流行ってるの、夜に繁華街歩いてると、気が付くと山奥に立ってるって言う事件」

「人さらい?」

「いや、何でも間の過程が抜けてるんだって、車が停まって人が出て来て無理矢理とかそう言った前置き無しで、街に居たのに次の瞬間山の中だって」

「後ろから薬とか?」

 どっちにしても人の犯行なら凶悪事件だ。

「ドラマとかアニメみたいに一瞬で意識失う様なのだったらクロロホルムだと致死量だよ?」

「まあ、そんな扱いだよね」

 創作通りには行かない。

「見つかった人がボロボロだったし傷だらけって事で病院に運ばれたらしいんだけど、怪しい薬の痕跡とか、乱暴された痕も無かったって」

「ん? 妙に具体的だけど、実際? 噂じゃ無く?」

「実際って話だけど、知り合いでは無いから確証は無いよ」

「成程・・・」

 話半分で良いだろうか?

「その話が何だか例の六甲おろしのナンパに被るから、六甲おろしって言われてるの」

「風評被害が酷い・・・・」

「ナンパの手法としては結構昔から有ったらしいよ?」

「えー」

 嫌な世界だ、都会は怖い・・・・

「そんな訳で、ルキもナンパには注意しなよ?」

「ん? 俺? 何で?」

「見た目女だもん。他人事みたいな顔しない」

「えー」

 何とも微妙な評価だ、いや、褒められては居るのだが、男としては何とも言えない気分になる。

「そんな微妙な顔しない、ルキは自覚しなさい、下手な娘より可愛いんだから」

「可愛い?」

 自分で納得しきれずにきょとんと首を傾げる。

「無自覚でこれだよ・・・」

「あざとい・・・・」

 二人がかりで可愛いを肯定される、自分ではそんな自覚は無い、解ぜぬ・・・


 と、そんな感じの昼食の雑談タイムを過ごし、放課後、仕事の連絡が入った、駅前の繁華街に瘴気の淀みが見つかったから斬り祓って来いと言う物だった、引っ越してから初仕事だ、相方は無しで、代わりに危険手当てが上乗せされるらしい、現場で単独行動は厳禁だと厳命されていた筈だが、良いのだろうか?

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