第3話 お説教

 此処は現在日本、身分制は廃止されてはいるし、公的には陰陽師と言う地位は明治時代に廃止されて居るが、仕事が無くなった訳では無いし、分家と本家の関係は本社の社長と平社員位の関係だ、仕事を回してもらっている以上、派遣社員とかフリーランス、アルバイト扱いかも知れない。

「仕事は夜なので、今は只の下見ですよ」

 内心で襟を正して向き合う。今は諸々の準備が足りて居ない、学校帰りに若干遠回りして昼間の内に現場を確認、家に帰って装備を整え、人が居無くなった深夜に目星をつけた場所の淀みを斬れば良いだけだが、深夜にぶっつけ本番で現場を探してでは倍以上の時間がかかるので、効率が悪いのだ。

「それじゃあ、ちょっと付き合え、奢ってやろう」

 葛様が行先を指差す先には、全国チェーンのコーヒー屋が有った。

「ダークモカ抹茶フラペチーノ、氷少な目ミルクマシ、抹茶パウダーマシでわらび餅とタピオカとアーモンドシロップ追加でベンティ」

 葛様が手慣れた様子で妙な呪文を唱える、どうやらそれがこの店でのオーダー方法らしいが、正直何を言って居るのか分からない。

「ほれ、お主も好きなのを頼むがよい」

「えっと、同じのを」

 メミュー票の読み方もオーダーの仕方も判らないので、当り障りない様に同じ物をオーダーする。

「はい、こちらです」

 抹茶色の液体にこれでもかとクリームが乗っかった謎の物体がででんとトレイに乗っかって出て来た。

「一緒で」

「はい、2000円です」

(高?!)

 貧乏学生の自分には驚きの値段が表示されて居た。

 飲み物の値段だと認識出来ない、この値段だったら自分なら一食分ちゃんとした御飯が買えるし、あの本も買えるとあーだこーだと思い浮かぶ。

 おやつでひょいひょい使って良い金額じゃない。

 そんなショックを受けるが、葛様も他の客も驚いた様子は無い、此処では之が普通なのだろう、自分だけだったら絶対入らなかった。

「何しておる? さっさと座れ」

 驚いて居る内に葛様が先に席に着き、席に着くように促してくる。

「じゃあ、失礼して・・・」

 おっかなびっくり座る。

「全く、固まり過ぎじゃ」

 苦笑いを浮かべられた。

「すいません・・・」

「まあ、先ずは飲め、氷が溶けてからじゃ不味くなるからのう」

「いただきます・・・」

「おう、飲め飲め」

 何故か葛様の内心では笑って居そうな顔で薦められた。

(甘?!)

 異様な甘さに驚く、コーヒー屋だからコーヒーなのかと思って居たのだが、抹茶ベースでクリームてんこ盛りの謎飲料だった。

「甘いじゃろう?」

「はい・・」

「これ一杯で1200キロカロリーあるからな、今日の夕飯は之で十分じゃ」

(カロリー高?!)

「って、これ夕食ですか・・・・?」

 恐る恐る聞く。

「カロリー的には十分じゃ」

「そりゃあ十分でしょうけど・・・」

 このカロリーと値段だったら豚骨ラーメンとかステーキとか食べたいと、女子力皆無の思考で考える。

 葛様は此方の驚き顔とツッコミも含めて予想通りと言った様子の上機嫌で自分の分の消費に取り掛かっている。

 ストローで一口吸い込んで、甘さに納得したのか笑みを浮かべる、先程受けた威嚇の笑みとは別の攻撃性の無い笑みだこっちの笑みなら、純粋に可愛いと思うし、見た目の年相応だと思う。

「さてと、それじゃあ色々話すとするか・・・」

 何を聞かれるのかと思ったが、色々な世間話に脱線して行った。

「因みに、先の様に想像の刃で辻斬りすると、外傷無しでも魂が死んだと認識して其のまま死んだり、魂の器が割れて取り付かれたりして余計な物を呼び込むんじゃ、気持ちは分かるが注意せい」

「はい・・・」

 最後に本題に入った、やり過ぎたらしい。

「ナンパされた時は返答すると奴等調子に乗るからな、返事も反応もせずに無視したままぶつからないように避けて通り抜けるのが最上じゃ」

「はい・・・」

「お主一々律儀に返答しておっただろう? ありゃ悪手じゃ、返事した時点でナンパする側としては第一の関門突破じゃ、会話が成立したら次も行けると付きまとわれるぞ」

「なるほど・・・」

「成れん内は誰か連れて歩け、単独人ごみでキョロキョロするとお上りの田舎者でカモ扱いされるからな、お主、当て無しで瘴気の淀みを察知して探すつもりだったんじゃろう?」

「実際田舎者ですし、地元ではそんな感じでしたから」

「都市部は駅から放射状に街が作られるから駅をベースに探すのは間違いでは無いがな、人が集まる時間帯ではあのように絶音が多くてやってられん、其れこそ夜に来た方が楽じゃぞ?」

「でも夜は・・・・」

 正直暗くてまともに歩けた物では無い。

「お主が居た田舎と違ってここ等は夜でも明るいからな、終電の後でも懐中電灯も要らんわ」

 くくくと笑われる。

「それと、どうしても攻撃したいなら、心力か気だけ、遠当てで殴れ、斬るよりはマシじゃし、当たった証拠が無けりゃ後始末も楽じゃ」

「良いんですか?」

 思わずキョトンと聞き返す。

「やり方次第じゃ、表向き傷が残らんようにボディーにしとけ」

 葛様はくくくと笑みを浮かべて居る、どうやら其れで良いらしい。

「はい、そうします・・・」

 苦笑交じりに返した。

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