第2話 未熟者(葛視点の説明回)
三門陽希(みかどはるき)は土御門の家計から見ると傍系の血筋の内の一人だった、我々の家計では代々退魔師もしくは陰陽師と言う仕事を行って居た関係上、悪霊や怨念、生霊やその他の怨嗟を一身に受けて其れを治めて来た為、呪詛返しなどが行先不明で散々溜って居る為、呪いに対する抵抗が低い幼児期等は特に気を付け、産まれる時は自分達、本家の息のかかった病院で結界の中で産むのがお約束であったのだが、少し早目に産気付いた上に、病院に付く前に生まれてしまった、無事産まれた事は喜ばしいのだが、その際に良く無い物、散々返して行き場を亡くした呪いやら悪霊やらに、産まれた直後の赤子が見つかってしまった、咄嗟に担ぎ込まれた病院は残念ながらその知識が無い病院だったので、結果として、産まれた赤子は散々精気を吸われ、半死半生の危険な状態と成ってしまった。
其れを知ったわしが大急ぎで到着、一先ず自分の精気を注ぎ込んだ事で赤子は一命を取り止めたが、呪いと霊障が残ってしまった、尚且つ目印をつけられてしまったので、それらの魔の手からの攻撃が激しくなってしまう、危ないのでせめて赤子が自力で自分の身を守れるように成る迄は、それらの目から隠すために女装させる事と成った、何故女装なのかと言うと、双極存在、双性存在と言う物がある、古くは日本書紀、古事記まで遡るが、悪霊や呪いの目印には性別が含まれるので、男の筈が女だったり、女の筈が男だったりした場合、悪霊達からは見つけることが出来なくなると言う物だ、彼等にもルールが有るらしく、人違いの疑いが有る限り襲わないのだ。不思議とこの風習は世界中に古くからあるので、世界共通だ。最近は下火に成ってしまった風習なので少々残念だ、可愛い男の子が可愛い女の子の恰好をするのだ、可愛いに可愛いが合わさってとっても可愛いと言うのに・・・・
普通の子供だったら幼少期、6歳までは神の内と言う言葉の通り、6歳までは死亡率が高いので、最低其れまでは女装させれば良い訳なのだが、この子は本当にぎりぎりまで吸われてしまって居たので、回復が遅かった、最近の言い方で言うと、HPゲージがドットで残ってたと言われる範囲らしい。普通の格好に戻しても良い時期に育っても普通の格好に戻した途端見事に憑かれてしまった、これは諦めて準備が整うまでは女装のままで育てようと決まり、現在に至る。
尚、基本的に身内の子どもと言う物は全て可愛い物である、極論老人で有ろうと、ほぼ等しく年下で有るので、結局孫みたいな物なのでとても可愛いのだが・・・
更に陽の気、人の性別には陰と陽がある、これは大陸の陰陽の基準に倣う、純粋に局部が雄か雌かの違いでしかないが、魂の形も其れに引きずられる。一般的には陽の気の方が外に出やすく、出力が上がり易いが、内部で循環させるのは苦手と成る。
最終的に思春期の終わり頃には精気が充実して溢れて外敵からの攻撃にも自力で対応出来る様に成る物だが、どうやら未だ其処まで育って居ない様だ、精気が溢れると同時に体の成長も顕著に成り、異性の恰好などは似合わなくなる物なのだが、外見的にも未だ早そうだ。言ってしまうと、現在でもとても似合って居て可愛らしい。
そんな事をナンパされて居る陽希を遠くで生暖かく見守りながら考えていた。
しかし、女子(めのこ)のような男子(おのこ)と言うのはモテると言うが。
(ありゃ魔性じゃのう・・・)
内心で呟き、くくくと笑う、四苦八苦しながらナンパ男をあしらう様子を観察する、うっかり実力行使等された場合も後れを取ることは先ず無いと思うので此方としては気楽な物だが、陽希はいよいよ疲れたのか、目が座って来た、ナンパ男をぎろりと睨んだと思ったら、心力の刃で切り刻み始めた、外側に傷は残らないが、下手に当てると人死にが出る危険な技だ。
(自制心やらあの手のあしらい方、其の他色々未熟よのう・・・)
半ば呆れつつ、未熟者の蛮行を止める為に声をかけた。
「こら、堅気に迷惑をかけるな」
清々した様子の未熟者、陽希に声をかけて窘める。
ギギギと、陽希が油の切れた動きで此方の方を振り向いた。
悪戯がバレた子供の動きだ、格好も相まって中々可愛い。
「何をそんなに焦っておる? 陽希(はるき)?」
呆れ顔で見つめてみる、高校の制服のまま駅前を宛も無くふらふらと歩いて居れば、スキ有りと見てあの手の輩は何処にでも湧いて出るので自業自得でも有る。
有るのだが、あの斬り方は少々不味い、斬るのではなく殴る程度で良いのだ、一転集中だと魂の器が割れたりして、後々面倒な事に成る。
「何でこんなところに居るんです? 葛(かずら)様?」
陽希は何でこんなところに居るんだ? 偽物じゃ無いだろうな? と言う様子で此方を観察した後に口を開いた。
因みに、儂(わし)は現在、葛(かずら)と呼ばれて居る、正式名称は葛の葉の君、信太森葛葉稲荷神社(しのだのもりくずのはいなりじんじゃ)で神として祀られる化け狐で神道における八百万(やおよろず)の神の一柱、稲荷である、身内で有る子孫を見守る為と言う名目で、こうして時々受肉しては人里に降りて歩き回ったり、遊んでいたりもする。
「なあに、只の散歩序に期待の新人の仕事ぶりを見て置こうかと思ってな?」
一先ず笑顔で威嚇して見る、歯が見えると言う事は、野生では一種の威嚇だ、力関係を自覚したのか、陽希が半歩後ろに下がった。
「まあ、そう身構えるな、話し序にちょっと茶でも奢ってやろう」
くるりと振り返って近場のコーヒー屋に向かおうとするが、陽希は目を白黒させて固まっていた。
「ほら、とっとと来い未熟者」
気持ち柔らかい感じで声をかける、やっと硬直が溶けたのか、おっかなびっくりついて来た。
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