横断歩道

 僕が中学生の頃の話です。


 僕が通っていた中学と実家のマンションとの間には、四車線の大きな国道が横たわっていて、複数ある信号のうちのどこかで「向こう岸」に渡るわけですが、当時の僕は取り立てて「この信号で渡る」という場所は定めていませんでした。


 と、いうのも、学校の手前のどこかで「向こう岸」に行ければいいわけで、随時赤になったり青になったりする信号の様子を見ながら「待ち時間が短くなるタイミングの信号」で渡っていたからです。もっとも、歩く速さと信号の巡り合わせで最後までタイミングが合わず、学校最寄りの信号でほぼ丸々1ターンを待つような日もあるわけですが。



 寒い冬の日でした。

 それは帰り道で、僕はいつものようにぼんやりと信号の付き変わりを眺めながら「向こう岸」に渡るタイミングを計っていて、丁度青のタイミングで信号に差し掛かり、おっとラッキー、などと思いながら「向こう岸」に渡ったはずでした。


 横断歩道を渡り切り、パッと顔を上げると、渡る前にいたはずの「こっち岸」の公園の生垣。

 えっ⁉︎ あれっ⁉︎ と振り返ると背後にまた「向こう岸」。点滅を始める歩行者信号。

 僕は慌てて引き返し……いや、もう一度横断歩道を渡り、混乱しながら「向こう岸」に辿り着きました。


 どういうこと?

 同じ信号を無意識に往復した?

 どこかで渡ってそのあともう一回渡った……?

 いやいやいや。


 じゃ、どゆこと????

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