第12話 財務諸表

 ジェマがワッツを説得にいったころ、残ったアルテミスとパメラは財務諸表の作成にとりかかった。


「帳簿を見て、部門別の入出金を合計した表を作って欲しい。入金はプラス、出金はマイナスで合計して、さらにその入出金の合計も出して欲しい」

「まさか最初からやるの…?」

「1ヶ月分だけで良いや、とりあえず。たぶん武器防具屋が大きくマイナスになるはずだから。僕は損益計算書をつくる」


 2人は紙をめくっては別の紙に転記して計算してを繰り返した。


 1ヶ月分の損益計算書は簡単にできた。すると、3つの部門はぎりぎり黒字ぐらいで、本業の依頼の仲介が大きく黒字だった。ただし、アルテナの支払いを費用にいれてしまうと赤字になる。まぁ、これは費用ではなく建設仮勘定で処理するから良いんだけど。投資過多で現金が足りないから借入を増やしてただけに見える。パメラの資料次第だけど、経営状態はまだ悪くないな。手が打てる。


 貸借対照表もざっくりと作ってしまう。武器防具の棚卸資産とアルテナの支払いが重たく、借入が膨らんでいるみたいだ。儲けは出ている。


 アルテナの支払いをやめればすぐ良くなるが…あのマシンゴーレムは期待できる。武器防具屋を改善すれば自前で金が用意できるはずだ。できるまで辛抱してその後は借入が減らせるはず。何とか展望が見えてきた。


「できたわ…」


 ぐったりしてパメラは紙を渡してきた。


「どれどれ…」


 武器防具屋だけ大幅なマイナス。予想通り。


「ありがとう、これで何とかなりそうだ」


 2人は仕事を終えてそれぞれ部屋に戻った。アルテミスは報告書を書き始めた。


 ディラック殿。アルテミスです。ポトス村の冒険者ギルドについて報告します。結論ですが、意思決定は不要です。借入が増加しているのは投資を行っているからで、業績は順調です。また、更なる改善に着手しました。金貨50枚の追加借入をするかもしれませんが、投資の完了の目処はついています。現金収支の改善にも着手しているので、稼ぎから投資を捻出できる体制を整えられるかもしれません。財務諸表を別紙で同封しますので判断根拠としてご確認ください…。


 以降つらつらと書き進め、翌朝には報告書を送った。こんなもん信用できるか! という内容なのだが、展望が見えてきただけに、早めに報告した方が時間に猶予が生まれる。また、もし内容を信じて貰えるなら、潰れるかもという誤った認識は早めに正しておいて、誤った意思決定をさせないために、正しい現状を報告すべきだ。要は賭けみたいなものだった。


「あとは今日からの武器防具屋の改善がうまくいくかだ…。要チェック。そして、他の問題もしくは改善を探そう」


 そんなことを考えて、食堂に向かうのだった。


 

 

 

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