第7話 棚卸し①

「アンジェラ王女、確かに試作機を拝見しました。完成次第、ギルドに試作機を納入いただく条件で支出を継続する旨書き加えておりますので、いつも通りこちらにサインをお願いします」

「・・・これでいいかしら」

「結構です、ありがとうございます」

「面倒ね。研究に戻るわ、気をつけて帰りなさい」

「ご対応ありがとうございました」


 書類を手に入れ、3人は研究所を後にする。


「アンジェラ王女はすごいですね」

「見た目もすごいがアイディアを具現化しちまうのがな。女王の娘らしい、才媛だよ」

「・・・美人で頭が良くて王女とか世の中不公平よ」

「お前も十分美人だから安心しろ・・・まぁ、胸はないがな」

 ガハハハと笑うジェマの背中をパメラは思いっきりひっぱたいた。

「あぐぅぅ!!」

「くそエロ親爺が!!・・・アルテミス、あなたも笑ったわね?貴族でも許さないわよ!!」

「いやいやいや、笑ってない!」

 痛みで悶絶するジェマと必死で弁解するアルテミス、そしてパメラの絶叫が寒空に響く。

「これだから男どもは!」

 受付のお姉さんはセクハラされるからね。そりゃあ日頃の鬱憤もあります。


 ギルドの自分の部屋に戻ってアルテミスは考えていた。これで当初の目的は果たせた。使途不明金は投資支出になって、もし誰かにつつかれても痛くはない。ただ、フォルセナの金でアルテナが技術強化をおこなっている現実は頭が痛い。まだ情報がとれるだけましたが、明らかに先を超されている。


 何よりギルドの経営状態が良くなったわけではないので、根本的な問題が解決していない。今回の支出で金貨は40枚に減った。問題を見える化しなければ。


「財務諸表を作るしかない。今の帳簿は現金集計表だから問題が見えない」


 そうして帳簿をまた最初からひっくり返す。まずは貸借対照表だ。現金、借入金から初めて、ギルドと倉庫の建物を注文した金額でうめていく。土地はフォルセナ領だから無視、棚や道具は少額だから無視。買取った魔物の在庫は棚卸しするから保留、ポーションや魔道具は棚卸しするから保留、武器防具は原価計算があるから保留、食品在庫は棚卸しするから保留…って保留ばかりだ。帳簿からポーションの残高は出せそうだが、見えない紛失や破損があるから数える方が正確だ。棚卸しをやらなければ。


 ジェマを説得しよう。そして皆に棚卸しをしてもらって数字をうめていこう。他に何か問題が見つかるかもしれない。明日のやることが明確になったので、眠りについた。


「財務諸表をつくりたいので棚卸しをしたいのですが、協力してもらえませんか?」

「なんだぁ?財務諸表とか棚卸しってのは」


 翌朝、仕事部屋にジェマとパメラを集めてアルテミスは説明し始めた。


「今ギルドがどれだけ財産をもっているか、そして儲かっているかを数字で表した資料が財務諸表です。棚卸しは、財産を数えることです」

「パメラの帳簿じゃダメなのか?」

「現金集計表としては完璧です。ただ、何で儲かっているか損をしているかは財務諸表でないと分かりません」

「棚卸しは?」

「ポーションや魔道具などが、今何個あるか数えるだけです。残業か休日出勤になってしまうのですが…」

「数えると何がわかる?」

「まず財務諸表を作るのに必要です。どこで儲けたまてどこで損をしているか明らかにします。次に、買いすぎてダメにしてたり、少なすぎて販売機会を逃してたりする商品がわかるかもしれません」

「お前はどう思うパメラ?」

「やりましょうよ、ギルドが良くなるんでしょう」

「分かった。各部門の責任者を読んで話をしよう」


 ジェマはそう言って、仕事終わりに各部門の責任者を部屋に集めるようパメラに指示をした。

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