第6話 アルテナの王女

 冒険者ギルドの裏にある山のトンネルを抜けた先がアルテナだ。長いトンネルを抜けるとそこは一面の雪景色・・・ではないが、アルテナは雪の多い国で魔法使いが多い。安定した気候で兵士の多いフォルセナとはまるで違う国だ。

 

「はぁー、相変わらず寒いわねぇ。息が白いわ」

 パメラが息をはぁーっと手に吹きかける。山を隔てただけで気温がずいぶんと違う。アルテナの女王があえて国を寒くしているという噂さえあるほど一年中寒い。氷の女王とも揶揄されていた。


 寒さの中、過去の支払いの証憑を見てアルテミスは考えていた。証憑に文言が足りないから寄付に見えかねない。寄付だとマシンゴーレムが完成してもギルドには1台もこないかもしれない。何とか契約書みたいなものを結んでこの支払いには対価があるものと証明できるようにしないとギルドが国家に背いたと見なされて潰されかねない。


「おい、アンジェラ王女の前では絶対に魔法の話はするなよ。魔法が使えないという噂だ」

「アルテナの王女なのに?女王の魔力は世界一と聞きますが・・・」

「娘の自分に魔力がないと立場も色々と悪い。だから、機械の重要さを説いて,自分の存在を証明するつもりだ。マシンゴーレムには思い入れが相当強い。金は絶対に欲しいからこちらの要求は飲むはずだ」

 

 ジェマの分析に希望が湧いて、3人は歩きつづけた。整理された道と家が見えてきた頃、目的の研究機関についた。ジェマが名を告げると応接室に通され、しばらく待つと部屋のノックがして扉が開いた。3人は立ち上がる。


「はーい、入るわねー」


 目鼻立ちのはっきりした気の強そうな女性が入ってきた。胸が大きく肌の露出が多い服を着ているせいで谷間がくっきり見えている。髪は赤く腰まである。王女らしい気品と色気の混じった美人だ。


「アンジェラ王女、お忙しい中申し訳ありません」

 ジェマが挨拶をした。

「資金援助に参りました」

 そういって金貨10枚を差し出した。

「ジェマ、有り難いわ。そろそろ尽きそうだったのよ。もう一息で完成しそうなんだけどね。動く姿を母様には見ていただいて、新しい時代の在り方を考えていただきたいわ」

「よろしいですな。ご紹介が遅れました、この度、フォルセナの中央から派遣されてきたアルテミス・グレイ伯爵です」

 アルテミスは頭を下げた。

「伯爵にはギルドの経営をみてもらっています」

「そんなに経営状態が良くないのかしら?繁盛していると聞いていたけれど・・・まさか、もう私にはお金を出さないと言うつもりじゃないでしょうね?」

 アンジェラが燃えるような赤い瞳で睨む。

「お金はいつも通り支払う予定です。今日は、マシンゴーレムを拝見したいのと書類にサインをいただきたく参りました。フォルセナの正式な手続きを踏まないで他国に寄付をしたことになりますので、最終的にはギルドの存続が危ぶまれます」

「いつもサインしているじゃない。何が不満なの?」

「マシンゴーレムが完成したら、私どもにも譲っていただくお約束をしてほしいのです。そうすれば寄付ではなくマシンゴーレムへの投資支出になります」

「うーん・・・」


 王女が考え込む。


「サインを拒んだら今後お金はもらえないのね?」

「そうなります。ジェマもギルドも処分されるかもしれません」

「分かったわ。今ある試作機をギルド用に改造して、それを渡す条件でどうかしら。1号機は母様にお見せする性能も高いものだから渡せない。試作機ならジェマも一度見ているしどう?」

「拝見できますか」

「そうね。案内するわ」


 4人は部屋を出て長い通路に出た。ガラス張りになっている大きな部屋に大きさのちがう2体の機械が壁際に立っていた。金属でできた円錐の頭に目、寸胴な体、手足。


「大きいのが1号機、小さいのが試作機よ。試作機を動かしてみるわね」

 

 王女は手に持った小さい箱にある赤いスイッチを押した。試作機は目を黄色く光らせたあと、部屋の中を歩き始めた。


「今は普通の二足歩行だけど、車輪やドリルに足を変形させて素早く移動できる。背中にはチェーンソーがあってそれを武器に戦うわ」


 そういって黄色スイッチを押す。足がドリルになって部屋を高速で移動する。そのまはま青いスイッチを押すと背中からチェーンソーをとりだして上下に動かし始めた。


「動きが滑らかで戦闘にも十分使えそうですな。耐久力や故障はどうですかな」

「12時間は動き続けられる。故障しないように改良したわ。もし故障しても持ってきてくれれば直すわよ。人の命令を聞くから動かすのも楽。声でもスイッチでもね。強制的に動きを止める機能もある。安全対策でね」


「魔物討伐には十分ってところか、しかし、すごいな。こんなものが作れるのか」


 アルテミスは目の前の機械をみて、アルテナの進歩に驚いていた。

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