第3話 初出勤

 今日が初出勤だ。気合いが入る。しかし、朝食はなんだろう、楽しみだ。家の外以外の食事にうきうきしながら、宿の食堂に向かった。


 ふーん、目玉焼きとベーコンと四角いパンに野菜のスープか。美味しそうだ。飲み物は紅茶にしよう。砂糖はたっぷりいれる。目玉焼きは塩に胡椒派なんだが、胡椒はないか。塩をふたつまみ。ベーコンはかりかり派だ。よし。パンはよく焼けて厚さも申し分なし。バターは控えめに塗る。スープは野菜がほどよく煮えて塩加減がよい、後を引くうまさだ。果物はオレンジ。甘い紅茶と酸っぱさのバランスを考えたが、この酸っぱさが元気をくれる。ヨーグルトは・・・あるある、これでいいかな。


 旨い。派手さはないが滋味のある食事だ。すぐに食べ終えてしまった。


 部屋に戻って仕度を済ませ、銀貨1枚を払って宿を出た。『淑女のひととき』という名前通りの宿だった。


 ポトスの街の中央に冒険者ギルドがあると聞いている。宿から少し歩いた、広い木造の建物に『冒険者ギルド』と書かれている。ここだ。意を決して門を開けて中に入った。


「おはようございます」


 大勢の人間で大食堂がざわざわと賑わっている。仲間同士分かれて話しこんだり、食事をしたり、煙草をふかしたりしている。


 これだけ賑わっているのに本当に潰れそうなのか・・・?疑問に思いながら、長く青い髪をした受付の女性に話しかけた。華奢で色白で、可憐な女性だ。


 「フォルセナから参りましたアルテミス・グレイと申します。ギルド長はいらっしゃいますか」


 あたりがしんと静かになり、みながこちらを見ている。物珍しい目、敵意の目、期待の目が見える。


「どうぞこちらへ」


 女性の後をついて階段を上り、部屋の扉を開け、中に招き入れた。柔らかそうな皮の椅子が部屋の中央に4つと左端に机が見える。


「ようこそ、アルテミス・グレイ伯爵。ギルド長のジェマだ」


 白髪で白いヒゲの男性が、部屋の右端の机の椅子から歩み寄り、握手を求めた。腕が太く体格も良い。手は大きく柔らかく、熱い。タコができている。昔は兵士だったのだろうか。握手をした後、中央の皮の椅子にどっしりと腰を沈めた。


「よろしくお願いします。これは中央からの書類です」

「・・・推薦状だな、内容は分かった。まぁ、座ってくれ」

「はい」

「ここは冒険者ギルドとして魔物の討伐依頼や魔物や希少なモノの買取と販売・転売を行っている。付随してポーションと呼ばれる回復薬や魔道具、武器防具を売ったり、食堂をやっている。ここまでは普通の冒険者ギルドと一緒だ」


「違うのはフォルセナ領でありながらアルテナとも交流があることだ。その意味はおいおいわかる」


「俺たちは金勘定に疎い。お前のスキルでここを立て直してほしい」 


 ジェマの目が真っすぐこちらを見据えている。これは本気だ。何か分からないが問題があってジェマは困っているのだ。


「事情は分かりました。多くの人で賑わっているように見えますが、本当に苦しいのですか」

「金が増えないからだ。人は集まるのに何故か金がない」

「いつからですか。理由はわかりますか」

「理由は分からない。中央が借金に文句を言い出したのは半年前ぐらいからだ。なぜ借金が少しずつ増えているのかと言われても、利用者が増えているから以外に返答のしようがない」

「お金に関する記録はありますか」

「ある。パメラからもらってくれ」


 ジェマは連れてきてくれた髪の青い女性を指差した。よく見ると瞳も青い。見てると自分の存在がすーっと吸い込まれそうになる。


 しかし、女性に金周りを一任しているのか。信頼しているのか些事と思っているのかどうか。見極めが必要だな。


「パメラさん、よろしくお願いします」

 アルテミスはにっこりと挨拶をした。

 ウェーブした自分の髪を撫でながら、照れた顔でパメラも応えた。

「伯爵さま、こちらこそ・・・」


 ジェマが思い出したように言った。


「紙と睨めっこするんだろう?あっちの机を使え。私は普段この部屋にはいないから自由に使って良い。宿は引き払って3階の空いている部屋で寝泊まりしろ。風呂は共同風呂だ。トイレは各部屋にある。食事は食堂がある。服はギルド服を用意する」


「他に何かあったら言え。私からは以上だ」


 こうして初出勤は終わった。

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