第2話 出発
荷物は使用人たちが粛々と準備をしてくれた。行き先にはみんなも驚き、僻地の勤務に憤慨し、泣き出すものさえいた。けれど、アルテミスさまはすぐお戻りになられますと慰めてくれた。使用人たちに恵まれた。
男1人の荷物は少ない。紙とペンと金に服と書類が少し。必要なものは向こうで買えばいい。
「じゃあみんな、しばらく留守を頼むよ。ネロが僕の代理だからよろしく。ネロは定期的に連絡をお願いね」
執事は意外な言葉を発した。
「アルテミスさま、父上は経営管理者として色々な仕事をされていましたが、現地で現物を見て現実を知ることが大事だとおっしゃっていました。自分の目で見て自分の耳で聞いて、吟味した上で自分の答えを出すのだ、と。これは忘れないでください」
「そして、今回のアルテミスさまの役割は中央との連絡係です。しかし、ただの連絡係では価値はありません。生かすも殺すもアルテミスさまの情報の質が問われます。瀕死の場合は、内部からギルドを生き返らせることができるかまで見られています。だから期間が決まっていないのです」
「大変だと思います。お身体にはくれぐれもお気をつけください。責任は任命者が負えばいいのですから、気楽にいてください」
1日考えて出してくれたアドバイスは有り難かった。そして、思ったより意味のある人事だったようだ。
「僕には荷が重くない・・・?」
「悪いのはアルテミス様ではありませんから。ぎりぎりになるまで経営管理者をおかなかった人間とぎりぎりになって経営管理者をおくと決めた人間が責任を感じればいいのです」
あっけらかんと答える執事。
「なるほど・・・意味がありそうで良かった」
「火中の栗を拾うので大変でしょう。お気をつけて」
「ありがとう。じゃあ行ってくるよ。みんなまた会う日まで」
「「行ってらっしゃいませ」」
こうして長年暮らした実家を馬車に乗って後にした。またいつ帰ってこられるだろう。父と母、使用人たちに愛され不自由なく育った。その思い出が強くしてくれるだろう、辛い時には。空は高く青く澄んで、滲んで見えた。
道中、アルテミスの頭の中に執事の最後の言葉が反芻していた。ぎりぎりになるまで経営管理者をおかなかった人間とぎりぎりになって経営管理者をおくと決めた人間が責任を感じればいい・・・。
なぜぎりぎりになるまでおかなかったのだろう。新規に組織を立ち上げるとき、金勘定ができる人間をおくのが普通だ。仮に最初の時点で準備できなくても、すぐに採用するはず。金を借りるのに説明できる人間が必要だからだ。
そもそも、冒険者ギルドはどういうところなんだろう。魔物を討伐する依頼を冒険者に出して成功すれば報酬のやり取りをする、という一般的な知識しかない。
後は・・・誰が働いているか、だ。ただ、行ってみてだなぁ、これは・・・。
中央への報告は月に1回ぐらいだろうか。ディラック宛で良いのが幸いだ。当座の生活資金は前渡しでもらった異動費用の銀貨10枚と俸給の銀貨30枚で足りるかな。ギルド長への中央の書類もあるし、忘れ物はないな。
そんなことを考えながらも、昼が過ぎ夜が過ぎ野宿を挟んで夕方にようやくポトスについたのだった。山の麓の街みたいだ。銀貨1枚の宿に泊まり、さっさと風呂に入って夕食をとって寝ることにした。明日はゆっくりして明後日からが本番だ。
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