⑯
白い光に包まれた空間。
身体全体を何かに包まれている感覚。
頬を何かがそっと撫でる。耳元で何かがささやく。
「何が起こっても大丈夫。いつも見守っているから」
その言葉を聞いた途端に、自然と涙が止まらなくなった。
「何が大丈夫なんですか?」
訊いても答えは返ってこなかった。
目を覚ますと、黒島たちの顔が飛び込んでくる。
「メガネ君?メガネ君!!」
黒島がかすれた声で俺の身体を揺すってくる。
「痛い」
ごめん。と黒島は手を放してクシャクシャになった顔を袖で拭いている。俺が起きるまで泣き続けていたらしい。
「気持ち悪い」
意識が戻ると徐々に身体が中が痛くなり気持ち悪さが襲ってくる。
「大丈夫?」
森が心配そうに俺の身体に触れようとする。こちらも随分泣いたのか、頻繁に鼻をすすっている。
「ホント、死んだと思ったんだよ。血を吐いているし、頭も血がいっぱい出ていたし」
「でも本当に良かった。目を覚まさなかったらどうしようかと思った」
「どうしてあんなことになったの?」
「もう、嫌だよ。怖かったよ。メガネ君が死んでしまうと考えたら」
4人は相当心配していたのか一斉に思いを口にする。
「あの、どうなっているの?」
「え?」
4人の会話を遮るように訊く。
「全然覚えていないんだ」
「そっか。メガネ君、凄い顔でみんな倒してしまったんだよ」
倒したというのは、ヤンキーだろうか。そういえば、4人は大丈夫なのだろうか。
「みんな。大丈夫なの? 怪我ないの?」
起き上がろうとすると身体中が痛くてうまく起き上がれなかった。
「起きないで! まだ頭から血が出ているんだから。今救急車呼んでいるからね」
普段、穏やかな黒島が顔をしかめる。彼女がそんな顔をすることができるのだと思った。
「あの、みんなは……」
「だから私たちは大丈夫だよ! メガネ君が大丈夫じゃないんだよ」
と大きな声で叫んだのは浜辺だ。彼女もこんなに声を荒げることがあるのだと思った。
ふと4人をよく見ると顔こそ傷はなかったが髪の毛はグチャグチャに乱れ、制服を見るとボタンが外れ、汚れていた。
「どうして戦ったの?」
「え? どういうこと?」
「勝てるわけないだろ。男に」
俺がそう言うと、黒島はやっといつもの優しい笑顔を見せる。
「とっさに殴りかかっちゃった。ヤバイ! と思って」
「逃げろよ。そんな…」
「逃げる? どうして?」
どうしてじゃない。現にそうしてやられているじゃないか。
「ホント情けないよね。助けに行ったのに、結局助けてもらって。ごめんね」
どうして謝るんだ。謝るのはこっちだ。
「ごめん。俺のせいで」
「え? どうしてメガネ君が謝るの?」
「俺のことなんかどうでもいいから、それよりもどうしてそんな無茶するんだよ」
「え? 放っておけるわけないでしょ? 当たり前でしょ?」
何言っているの? という顔で4人は俺を見つめる。
「…だから、そういうことを言いたいんじゃなくて、俺はいつ死んでもいいけど、みんなはダメだろ?」
「なんでメガネ君が死んでもいいの? 私嫌だよ? そんなの」
「そうだよ。本気で言っているのそれ?」
「本気じゃないよね? 私たちが頼りないからわざと言ってくれているんだよね?」
「大丈夫。私たち、もっと強くなるから。そんなこと冗談でも言わないで」
4人はまくし立てるように言ってくる。俺は何も言えなくなってしまった。そして飽きれたように笑う。
「何笑っているの?」
負けるとわかっている戦いをするなんて馬鹿だ。でも、本当に馬鹿なのは俺なのかもしれない。俺は今まで何も見ていなかったかもしれない。
微かに救急車のサイレンが聞こえた。少し疲れたので目をつぶることにした。また、4人が叫んでいるような声がしたが、もう十分伝わったから。と心の中で呟いて眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます