ボクシングジムで練習している時よりも雨脚は弱まった気がした。

 とは言え、傘をさしても手に持っているスポーツバックは普通に濡れるくらいウザったい雨だった。

 ジムから自宅へ帰る途中、自宅前の公園を通り過ぎようとしている時だった。雨に交じって誰かがすすり泣く声がする。気のせいかと思い、歩みを止めずにいたが、今度ははっきりと人の泣いている声が聞こえてきて足を止めた。公園からその声は聞こえ、ゆっくりと公園の中に入る。中には人の姿は見当たらなかった。そもそも、泣いている人を見つけたところで何ができるわけでもない。

 途切れ途切れであるが、声は確実に聞こえていたが無視して公園を出ようとする。その時、真ん中にある鬼の滑り台から光がちかちかと光った。あそこに人がいる。確かに何ができるわけでもないが、そこに泣いている人がいることがわかっていて見て見ぬ振りもできず、その滑り台へと足を進める。

 中に4人の人がいた。すぐに制服と髪型で女子高生だとわかった。そしてさらに近づいていくとそれが黒島たちだというのがわかった。

「そこで何しているの?」

 中をのぞき4人に話しかける。それぞれのスマホで明かりをつけて4人は丸くなって座っており、泣いているのは森だということがわかった。

「あ。メガネ君・‥」

 俺の顔が分かった瞬間、黒島も顔をくしゃくしゃにして泣きそうな顔になった。よく見ると4人はお互いに制服の中に手を入れ合っている。

「怖かった。。。」

 森がつぶやく。

「怖かった? いったい何があったの?」

「リンチされたの」

 土屋がボソッと言った。

「え?」

「帰り道、メガネ君と同じクラスに茶髪の女の子いるでしょ? その子たちのグループに呼び出されてやられた。。。」

 聞くと、呼び出された黒島たちはそこで待ち伏せていた不良グループに暴行を受けたとのことだった。腹部を殴る蹴られ、それが失神するまで続き、目を覚まさしたと思えば無理やり水を飲まされ、膨れた腹部をまた殴られ大量に飲まされた水を嘔吐するということをさせられたという。

「ちょっと見せて」

 俺は黒島のお腹をめくった。色白の腹部は真っ赤に腫れており、それに伴って腹部全体も若干膨れていた。

「いっぱい殴られたし、吐いたからね」

 さっきまで泣きそうな顔になっていた黒島が何故か照れくさそうに笑う。

 どうしてだ。どうして関係のないこいつらがこんな目に合わないといけないんだ。怒り、恨み、悲しみいろいろなどす黒い感情が押し寄せてあふれ出る。

「笑うな」

「え?」

「笑うな! 俺が何とかするから!」

 人に向かって久しぶりに大声を出した。それに4人とも顔と身体が固まって俺をジッと見つめていた。嫌な予感がしていた。でも今度は同じようにはならない。あいつのようには絶対にさせない。もう、これで終わりにする。

「え、でもどうするの? いくらメガネ君が強くても1人ではどうしようも…」

 そう弱々しく訴えたのは浜辺だった。

「いや、これは俺の問題だ。みんなには関係ないよ。関係ないから」

「そんな関係ないなんて、私たち友達でしょ?」

 森がまた泣きそうになりながら俺の肩にそっと手を置く。

「…とにかく、俺が何とかするから」

 手を優しく肩においてあった手を振りほどき、うつむきながら呟く。

 また雨脚が強くなってきた。黒島が俺に何か話しかけたがその音のせいで聞こえなかった。彼女の表情からその言った言葉が何となく予想できたが、聞き返すことはしなかった。

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