天気曇りが続き、雨は降らないがかと言って太陽もなかなか顔を見せないという同じような天候が2週間ほど続いた。高校は始業式の翌日から通常授業になり、こちらも勉強する教科、内容は変わるもののほぼ同じような代り映えもない日々が続いている。

 高校生活にも慣れてどの時間にどこにいるのかというのがだいたいルーティーンができてきる。変わらず1人でいたいと思う俺は休み時間トイレに行く以外声をかけられないように教科書をペラペラと読んでいるふりをしているし、昼休みは誰も来ない体育館裏の倉庫前で昼食を食べて過ごして、最後のホームルームが終わったらさっさと帰る支度をする。

 だが、この梅雨の季節に雨が降らない日が少ないのと同じように、そんな望んだ平凡な日々も長くは続かなかった。

 昼休み、チャイムとほぼ同時に授業を受けている3階の教室から1階の下駄箱まで一気に階段を降りて上履きから靴へ履き替え、いつものように校庭を突っ切って体育館の裏手へ歩いていくと、そこには同じ制服を着た5人くらいの男が居座っていた。

 今日は別のところで食べよう。目を下へそらして方向を変えようとすると5人の1人が俺に気づいたようで声をかける。

「おう」

 無視して足を止めずに立ち去ろうとするが、男が俺の前に通せんぼをするように立ちはだかった。

「お。メガネの兄さん。見ない顔。1人なの?」

 へらへら笑ないながらからかう男の口からはたばこの臭いがした。横目で他の4人を見るとたばこを吹かしている奴、たばこを手に持っている奴がいた。

「お兄さんはたばこ吸わないの?」

 さらに無視してその場から去ろうとすると男が俺の腕を掴む。その手を勢いよく振りほどいて数メートル駆けた。

「おい!!」

 怒鳴り声とともに肩を強く押され、よろけて近くの壁にもたれるようにぶつかる。そして男たちに取り囲まれる。

「せっかく同じ学校にいるんだから、仲良くしないとなあ。これ昼飯?」

 1人が手に持っていた昼ご飯のサンドイッチが入っている袋を取り上げる。

「うまそうじゃん。くれよ」

 変わらず沈黙を続ける。昼飯なんてやるから早くここから去りたい。隙を狙ってまた駆けだす。

「おいおい!  そんなに俺らのことが嫌いかよ」

 だが、駆けだそうとした俺の両脇を男二人が捕まえ、壁の方に押し戻されてしまう。

「もしかして、俺らがここにいたこと先生に言ったりする?」

「1年生? 何処のクラス?」

 どうして絡むのだろう。何もしていないのに。未成年で隠れてたばこを吸おうが誰かに密告したりしない。勝手にやればいい。ただ俺はお前らみたいなやつと関わりたくないだけだ。

「何か、こいつチクりそうじゃね? 優等生っぽいし」

「ちょっと、絞めておいたほうがいいかもしれないな」

1人が俺の腹部にボディストレートを打ってくる。

「イテ!! ヤベえ。こいつの腹凄い硬ぇよ。殴った俺が痛かった」

殴ってくるモーションが大振りで遅く、腹部に拳が当たるとほぼ同時に腹に力を入れることができた。男は俺よりも10㎝以上も身長が高く体型も太っていたがパンチに威力はなく、簡単に弾き飛ばし痛みは皮膚が少しかすった程度の痛みしか感じなかった。

 次にもう1人の瘦せ型で眉毛が異常に薄い男が今度は顔面めがけて殴ってくる。顔面はさすがに当たれば倒れてしまうし痛いので拳の軌道を読んでフットワークで避ける。殴った男は空振りした勢いで前傾姿勢となり前へ転倒した。

「この野郎。。。やりやがったな。。。」

 何もしていないがと突っ込みたくなったが、間髪入れず男たちは一斉に殴りかかってくる。それをすべて避けた俺は、男たちの体制が乱れたところでその場から上手く逃げ出した。後ろから大声が聞こえた気がしたが気にせず全力で走った。

 男たちの声が聞こえなくなったところで足を止め振り返ると誰も追ってくる様子はなかった。あの時も全力で逃げた。あの時、本当はあいつを置き去りにしてこんなふうに逃げなければよかったのか。あんなことになるとは思わなかった。だからもう厄介ごとには関わりたくない。

 今日の昼飯。

 男たちに奪われたサンドイッチを思い出した。今日は昼は抜きか。腹は減ったが昼ぐらいは我慢するかと教室に向かってゆっくり歩き出した。空からはポツポツと小雨が降りだし、校庭に水のシミを作り始めていた。

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