第10話 ユウヤの場合
大学の剣道部のマネージャーと付き合っていて、卒業と同時に結婚した。ノリだ。そんなノリだったから特に何も考えずに結婚を選んだ。もちろん彼女は可愛かったし、いつまでも一緒に遊んで暮らせると思っていた。結婚生活を1年、2年と続けるうちに理想が現実に飲まれた。俺は若いし嫁もまだ若い。遊びたい。立川駅前に設けた愛の巣は顔を合わせるたびにお互い罵倒し始める九龍城となった。俺は当然外で浮気するし、嫁だってしていたかどうかわからない。外泊はあたりまえ。一週間顔を合わさないこともあった。
独身時代と変わらない好き勝手な生活を送っていたわけだが、越えてはいけない一線というものがあったのだ。ナンパした女とセックスして朝帰りした翌日、無造作にスマホを机の上に放り出して寝ていた。当然ロックはかけているが、通知設定をオフにしていなかったので、着信したLINEのメッセージが表示されていたのだ。運悪く構ってちゃんのメンヘラ女だったばかりに、ポンポンと延々と通知が流れる状態になっていた。嫁はそれをずっと見ていた。浮気するなら隠し通せ。そこが一線だったのだ。結果、俺有責で離婚し200万ほどふんだくられた。高い授業料だ。後にシークレットベースに入り、「脇アマは死刑」ということを勉強することになるが、そのときはまだなんの理解もしていなかった。
シークレットベースには離婚の傷跡を消すために入った。もともとメンタルは強い方だが、そんな俺でも今回の離婚は堪えた。別に元嫁に悪かったと言うことじゃなくて、もっと上手くやれるはずなのにやれなかったという自分に対する怒りだ。Xで知り合った人から紹介してもらったシークレットベースにはその自分自身の不甲斐なさを解消してくれる知識が溢れていた。どいつもこいつも大仰に精神論をぶちまけていたが、表面だけ読み取って小手先の応用をするだけで十分だ。もともと非モテでない俺にとって、シークレットベースのテクニックを使えば一日に3回違う女を抱くことなど造作でもないことだった。他人との共同生活という障害が外れた今、いつでもセックスができる環境となり、開けても暮れてもセックスしていた。
シークレットベースのメンバーはどいつもこいつも偉そうなこと言うが、偏差値は低そうだった。下手に出ながらも小馬鹿にしていた。だが、時折出るメンバーの家庭生活の話にはとても心が惹かれた。俺はバツイチといってもマトモな結婚生活は送っていない。だからこそ一般的な家庭の暖かさに飢えていたのかもしれない。
そんな折、一人が妊娠したという。比較的短期間だがセックス中心の生活がマンネリ化していたのでちょうどいいタイミングだった。次の結婚生活はうまくやろう。これも深く物事を考えない、まさにノリだ。彼女の名前は美咲。正直、籍を入れるまで「どの」美咲かわからなかったのは内緒だ。
ある日、俺は美咲の手帳を何気なく開いた。そこには、赤いペンで丸がつけられた日付がいくつかあった。何の意味があるのか気になったが、美咲に直接聞くことはできなかった。結婚とは奇妙なもので、気にしようがしまいが赤い糸というやつが存在する。いつの間にか俺を雁字搦めにしていた。なぜか彼女の笑顔が頭に浮かび、疑念を抱く自分が嫌になった。
しかし、どうしても気になってしまい、俺はその日付を一つ一つ確認することにした。最初の日付は、俺が出張で家を空けていた日だった。次の日付も、俺がいない日だった。偶然かもしれないと思いながらも、心の中で何かがざわついた。
ある日、俺は美咲がシャワーを浴びている間に、再び手帳を開いた。次の日付は、彼女が「友達と会う」と言って出かけた日だった。俺の心はますます重くなった。何かが起きているのではないかという疑念が膨らんでいった。
その夜、俺はインターネットでDNA鑑定について調べ始めた。子供の髪の毛や爪を使って簡単にできることを知り、俺は決意した。次の日、俺は子供の髪の毛をそっと集め、鑑定キットを注文した。
数週間後、結果が届いた。封筒を開ける手が震えた。結果は黒だった。俺の子供ではなかったのだ。俺の心は崩れ落ちたが、同時に決意した。この秘密は墓場まで持っていこう。彼女と子供の幸せを壊すわけにはいかない。俺は静かに手帳を閉じ、元の場所に戻した。
それからの日々は、まるで何事もなかったかのように過ぎていった。俺は美咲と子供に対して、これまで以上に優しく接するように努めた。だが、心の奥底では、常に疑念と苦しみが渦巻いていた。
自分も好き勝手やってきた手前、美咲の不貞行為に対しては複雑な思いだった。俺も完璧な夫ではなかったし、散々遊んできたのは前述のとおりである。だからこそ、美咲を責める資格はないと思っていた。だが、やっぱり割り切れない気持ちがあった。俺の心の中で、彼女への愛と裏切られたという感情がせめぎ合っていた。
ある日、美咲が「友達と会う」と言って出かけた日、俺は思い切って彼女の後をつけることにした。彼女が向かった先は、見知らぬマンションだった。俺は遠くからその様子を見守りながら、心の中で何度も問いかけた。「本当にこれでいいのか?」
美咲がマンションに入ってからしばらくして、俺は意を決してそのマンションに近づいた。エントランスのインターホンを押すと、見知らぬ男の声が聞こえた。「どちら様ですか?」
俺は一瞬、言葉を失ったが、すぐに「宅配便です」と答えた。ドアが開き、俺はエレベーターに乗り込んだ。美咲が入った部屋の前で立ち止まり、深呼吸をした。そして、ドアをノックした。
ドアが開くと、そこには美咲と見知らぬ男が立っていた。俺は美咲に気づかれないように、男の顔だけを確認した。驚いたことに、その男の顔は愛娘にそっくりだった。俺はその場を立ち去ることを決意し、咄嗟に言い訳を考えた。
「すみません、部屋を間違えました。宅配便の荷物は隣の部屋でした。」俺はそう言って、軽く頭を下げた。美咲は驚いた表情を浮かべたが、すぐに男と顔を見合わせた。俺はその隙にエレベーターに乗り込み、静かにマンションを後にした。
マンションを出た後、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。頭の中は混乱し、心臓の鼓動が速くなっていた。愛娘にそっくりな男の顔が、何度も頭に浮かんだ。俺は深呼吸をして、冷静になろうと努めた。
そして、その足で先日ナンパした女子大生の家に行き、物言わず乱暴に犯した。
家に帰ると、美咲と子供が笑顔で迎えてくれた。俺はその笑顔を見て、胸が締め付けられるような思いをした。さっきまで女の愛液まみれだった人差し指で娘の鼻をつついた。娘は、クシュンと可愛らしいくしゃみをした。と同時にお尻を支えている右腕に生暖かい感触を覚えた。しょうがないな、お漏らししちゃったんだね。おむつ替えしようといったんベビーベッドに寝かせたら、グズり出した。昔甥っ子を抱いたときに大暴れされて閉口したことがあり、子供は苦手だったが、うちの娘はさめざめと泣くだけ。本当に手がかからない。
「よちよち、今パパがオムツ替えまちゅよ〜」
ベビーベッドの下からオムツを取り出し、お尻の下に敷いた。古いおむつを剥がしたらうんちもしていた。お尻ふきティッシュで丁寧に優しく、きれいにうんちを拭き去った。まだ他の女のマン臭が取れていない右手を使って。
すべてノリだ。俺はこれからもノリで生きて行くんだ。娘が大きくなって、俺みたいなクズにノリで犯されても、その場のノリでやっていこう。そう誓った。
secret base〜駆け抜けて壮春 マッスルアップだいすきマン @keronchiro
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