第7話 メグの場合〜パパ活純恋歌
コンコン
小汚ないレンタルルームのドアをノックすると同時に、ドアは勢い良く開け放たれた。
「こんにちは!」
男は空元気なのか何なのかわからないが、不自然に元気良く挨拶をしてきた。
「ちょ、近い近い」
いきなり距離を縮められたので、思わず口走った。お客さんを蔑んだり、拒否したりするのはご法度。店から釘を刺されているのだが、咄嗟に感じた不快感が言葉に出てしまった。
「かわいいね。」
「今日朝から働いてるの?」
「普段何やっているの?」
男は矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。女の子に話をさせよう、という良くある恋愛教科書をなぞっているのがバレバレだった。
話もソコソコに、愛想笑いを作りながら、服を脱ぐように促す。同時に自分も支度しようと思い、腕時計をはずしてティッシュ箱の隣に置いた。
「時計、カッコいいね!どこの?」
「え、ガガだよ。」
「あ、ああ。ガガね。」
こいつガガミラノ知らないんだ。つくづくダサいやつだな。
「いくら位なの?」
「15万くらいかな。」
「高!自分で買ったの?」
「いや、パパが・・」
そういいかけて、心の奥に仕舞い込んで忘れようと努力をしてきた記憶が、徐々に甦ってきた。目を閉じると、瞼の裏に映りだす180センチの逞しい身体を持った、決してイケメンとは言えない顔。
思い出してはダメ。必死に幻影を振り払う。
「俺の時計はこれ。ボタン押すと画面が変わるんだぜ。」
そういって男はこちらの話もろくに聞かずに自分のショボい時計の話を始めた。そんな下らない話でも、相づちを打っている間はあの人の事を忘れることができた。
段取りは、服を脱いだら一緒に狭いシャワールームでシャワーを浴びる。服を脱いだ男はドヤ顔をしていた。うっすらと割れている腹筋、そこそこ膨らんだ胸筋。普段相手にしているオッサン達に比べたらマシだ。マシだけど・・全てが中途半端だ。あの人に比べて・・
「キスしていい?」
シャワー後、いよいよプレーという時に男は少しハニカミながら言った。もっと堂々とすればいいのに。仕事だから、断るわけにもいかない。仕方なく舌を絡めたが、そのぎこちないディープキスは、少しあの人の香りがした。マルボロメンソールライト。あの人は普段は煙草なんて吸わなかったけれど、お酒を飲んだときには少しだけ煙草を吸った。その後にするHを、私は好きだった。仄かに漂うマルメンの薫り。
美味しいご飯もご馳走してもらって、心の底から愛されて、小娘には多すぎるお小遣いまで貰えるー幸せだった。
今こんな仕事をしてるのもあの人のせいだ。
あの人のせいで、こんな船橋の高架下で粗チンをしゃぶらないといけない。
あの人のせいで・・
「クンニしていい?」
義務的にしていたフェラを止め、男の顔を見た。気づいたらあの人の事ばかり考えていた。あそこを舐められたら、もっと思い出してしまうかもしれない。
「ちょっと・・恥ずかしいかも」
少し抵抗したつもりだったが、男は空気を読まず、無言で半ば強引にあそこを舐めだした。クリトリスをつまみ上げ舌先で舐めてから大陰唇から小陰唇までなぞるように舐めた。一通り舐め終わって、男が顔をあげた所で目があった。
「少し甘い味がします。」
その言葉を聴いたとき、この身長170センチ程度のショボい男が、あの人の姿と重なった。
「じゃあ次は素股かな。」
男の中で決まっている風俗の段取りを伝えられたが、私はもう覚悟していた。
「いいよ。」
「え?」
「中でしていいよ。」
「ホント!?」
男は言葉を発するや否や私に覆い被さってきた。
あの人は、ピクニックに連れていってくれた。
あの人は、アリアナグランデが好きだった。
あの人は、SVRで私を愛撫してくれた。
あの人は、私が他の男と遊んで病気を移されても、真剣に叱ってくれた。
あの人は、就活で私が音信不通になってもどこまでもどこまでもLINEで追ってきてくれた。
あの人は、いつも中で出してくれた。
「イク!イクゥゥゥ!」
絶対に取り返せない恋愛があったとして、その恋愛を取り戻すことができるかな。
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