第3話 secret base

初めて参加した恵比寿のエスニック料理でのオフ会は、ある意味拍子抜けするものであった。180cm以上の超絶イケメンや渋くてダンディでスーツをバシッと着こなしたおじさん方ばかりだと思っていたが、全くそんなことはなかった。ファッションに疎そうなおじさんや普通のスーツで普通の眼鏡をかけている普通のサラリーマンが大半を占めていた。目を見張るようなオーラの人はいない。少し遅れてこの会を主宰しているコウジさんが到着した。一目見て、正直がっかりした。身長は170cm無いくらいだろうか。首から銀のアクセサリーを下げてちょっとチャラい感じであったがどことなく頼りなさげな感じがしてとても凄腕に見えない。

「みんな揃ったんで乾杯!」

幹事のマイティさんが発声をした。ビールに口を付けながら自分が場違いではないという安堵感を感じた一方、一種の失望感も感じていた。一次会は、各々近くにいる人と今の彼女の話など取りとめの無い話をして、取りとめなく終了した。

皆てんでばらばらに駅に向けて歩を向けた。ああ、自由解散なのか。たまたまコウジさんの前後で店を出たので俺は特に何も考えることなくコウジさんに尋ねた。

「二次会とかやらないんですね。」

コウジさんはニヤニヤしながら口を開いた。

「みんなこれからストナンでも行くんじゃないのかな。俺らはどうしようか・・・」

と話が終わらないうちにすれ違った女2人組の方に踵を返してナンパを始めた。俺はプレイヤーを志してからブーメラン作戦はやったことはあったが、こんなに自然に女に声を掛けることはできなかったし、やってこなかった。突然の出来事にあっけにとられた。コウジさんは並行トークで粘っていたがオープンこそすれ、連れ出しは難しそうだった。放流のタイミングで我に返った俺は、常備していたブーメラン用のメモを片方の女に手渡した。

「もし暇だったら俺らここら辺にいるから連絡して。」

女二人は行ってしまったが、コウジさんは俺を褒めてくれた。

「いつもそれ持っているの?いいじゃん」

先ほど頼りなさげだと感じたコウジさんはそこにはおらず、背中から後光のようなものが見えた。肯定された俺はとても嬉しく感じた。

「じゃあ2人でバーナンでもしようか。」

そういってコウジさんに連れられて俺は近くのバーに入った。

バーでは入口近く、丁度2人席が空いておりそこに案内された。コウジさんはきょろきょろと店内を物色し始めたが、半ばあきらめ気味で自分らの席の後ろのテーブルにターゲットを絞ったようだ。その席にはアラサー位の女3人組がいた。同級生だろうか。この年の瀬に、ささやかながら同窓会を行っているようだった。

「あれ、女子会やってるの?」

全然気が付かなかったが、コウジさんはいつの間にかその三人組の席についていた。と同時に女子がとても楽しそうしてる。席に着いたら即、和み。今までこんな状況を見たことはなかった。会社の飲み会でも、先輩に命令されて声掛けしに行き、当然玉砕して戻ってきて怒られるというのが基本パターンだった。声をかけるまでも躊躇するのに席に着いた段階ですでに和んでいる。俺は唖然とした。

「ケイちゃんも来いよ。」

唖然としてぼーっとしていた俺にもコウジさんは声をかけてくれた。

「どうもケイでーす!」

顔を引くつかせながら、それでもノリがよさそうに集団に入っていった。


コウジさんを中心として、和気あいあいと時は流れた。女の一人が、全員でラインの交換を提案した。

「あれ、名前コウジじゃないの?」

女の一人が言い出し、女のスマホを覗いてはっと気が付いた。確かにコウジさんのLINEの名前は「ケンジ」となっている。

「いや、ケンジだよ。コウジは学生時代からのあだ名だよ。みんなコウジコウジ呼ぶから後輩のこいつもコウジさん、て呼んじゃうんだよね。お前、なんで俺がコウジって呼ばれてるか知ってるっけ?」

「確か玉置浩二の真似してカラオケうたったんじゃないんでしたっけ?」

俺はたどたどしく精一杯のアドリブを入れた。

「遠からずも近からずって感じかな。コウジって名前にはいろいろと因縁があってね・・」

「なにそれききたーい!」

女子たちが色めき立っている。コウジさん得意の「想像してごらん」トークだ。惜しげもなく技術を披露するコウジさんに場の全員が魅入られていた。


気が付いたらコウジさんは一番の巨乳女と二人で恵比寿の街に消えていた。


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