第6話

 薄手のジャケットに袖を通し、瞳はトートバッグを手にした。


「じゃあ、今から行ってくるわ。戸締り、よろしくね」

「はい、任せてください」


 晴太と玲子にオフィスの戸締りを任せ、瞳は玄関を出た。


 外はすっかり暗くなっていて、少し肌寒い。五月だというのに、まだまだ朝晩の気温差を感じる。今日は早く帰るつもりだったので薄手のジャケットを羽織ってきたが、失敗してしまったと瞳は思った。


 結局、瞳は詩織の自宅を訪ねることにした。

 二日間も音信不通の詩織のことが心配だし、彼女なしではイラスト制作の仕事が一切進まないからだ。


「何事もなければいいけど……」


 不安そうに呟きながら、瞳は手元のメモ紙を見る。詩織の自宅の住所を、晴太が書いてくれたものだ。


 夜、こうして歩くのは久しぶりのように感じられた。いつもなら会社を出てすぐにバスに乗り、自宅に向けて一直線に帰るからだ。

 最初は少し肌寒いと感じていたけれど、歩き出すと、意外と丁度いいと思うようになってきた。


 車道は車が行きかっていて、ヘッドライトやテールランプが眩しい。帰宅ラッシュの時間帯のため、ドライバーがイライラしているようにも見える。時折、クラクションが鳴らされていた。


 街全体の時間がいそいそと進んでいるせいか、瞳もまた、足早に歩き出した。

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