第3話

 ホームページさえ作れば儲かる、という都市伝説を信じている人は多い。


 しかしながら、アクセス数の母数がないと、そもそもGoogleの検索結果に表示されない。インターネットの検索エンジンシステムが”Google製”である以上、検索結果に表示されないということは、ゴーストサイトと同義なのである。


 それは、まるで『誰も寄り付かない廃墟はいきょ』だ。

 

なので、ホームページを運営している企業や個人は、お金や時間をかけて、アクセス数を稼ごうとする。アクセス数の母数が多いほどに、Googleの検索結果で上位にあがってくるからだ。


 そのため、サイトオーナーはコンテンツの投稿量と質を増やし、少しでも他者より優位に立とうとする。アウトソーシング業が成り立つのも、この現象があるからだ。


 だが、考えることは皆同じなので、この泥仕合どろじあいがもう何年も続いている。泥仕合のおかげで、瞳たちの仕事は途切れることがない。インターネットという世界が存在する以上、今後も仕事がゼロになる可能性は限りなく低いといえる。


 しかし、アウトソーシング業者が増える毎に価格競争が激化し、顧客の浮気も頻発ひんぱつしていくのだった。


「ふう……」


 席を立って、瞳はゆっくり伸びをした。

 社員の半分は、既に退社している。

 窓の外を見ると、もうすっかり暗くなっていた。


「月島主任、本当にすみませんでした」

「いいのよ、気にしなくて。進行を確認してなかった私にも非があるんだから」

「でも……」

「この話はもう終わり! さあ、今日はもう帰って帰って!」


 パンパンっと手を軽く手を叩きながら、由衣の退社を促す。これ以上”謝り合戦あやまりがっせん”をしても、仕方がないからだ。


「……はい。では、お疲れ様でした」

「お疲れ様~」


 申し訳無さそうな表情のまま、由衣は会社を後にした。


「瞳さん、お疲れっしたー」

「晴太くん、お疲れ様。ありがとう。あなたのおかげで、助かったわ」

「へへん! どういたしまして」


 晴太は、戦場で王の首をとったように、鼻高々はなたかだかだ。


 あの後、アイキャッチと挿絵イラストは、どこを探しても見つからなかった。Googleドライブのフォルダにも、詩織のパソコンのローカルフォルダにも。おまけに、詩織にも連絡がつかず、八方塞はっぽうふさがりの状態だった。


 その状態に突破口を作ったのは、晴太だった。総務部長とカメラマンを兼任する彼が、フォトショップを使って、代わりのアイキャッチと挿絵画像を作ったのだ。


「いや~、クライアントが大目に見てくれて助かりましたよ。マジで」

「そうね。本当に感謝するしかないわ」


 クライアントには、事情を説明した上で謝罪をした。その上で、として晴太が作ったアイキャッチと挿絵の画像を提案したのだった。長い付き合いのある取引先だったため事なきを得たが、入稿条件を守れなかったという現実は、社会人として失格である。


「今回はでどうにかなりましたけど、もう次は無いっすよ。オレも他の仕事で忙しいですし……」

「うん、分かってるわ。同じミスを犯さないよう、ちゃんと手を打つつもり」


 パソコンの電源を落とし、瞳は帰り支度を始める。


玲子れいこちゃんも、遅くまで残ってもらってごめんね」

「いえいえ、大丈夫ですよ。今日はどの道、残業確定してましたから」


 経理主任の金田玲子かねだれいこが、分厚い伝票ファイルを掲げて、おどけた表情をしてみせた。彼女も、瞳と晴太と同期の社員だ。


「会社のパソコンなんだけどさ、もうそろそろ買い替えできないかしら? こうもフリーズすると、仕事が進まないわ。今日だけでも三回以上、再起動したし」

「社長にはもう何度も相談してるんですけどね。あのケチ親父、なかなか首を縦に振らないんですよ。自分は先月から海外旅行に行ってるくせに」

「本当よね」


 社長の顔を思い浮かべ、瞳はため息をついた。


「社長の帰国、いつでしたっけ? 今月末? オレも海外旅行、行ってみたいなー」

「予定では、今月末よ。まあ、延長される可能性もあるけどね……って、晴太くんは飛行機苦手でしょ? 海外なんて、絶対に無理だわ」

「ですよねー」


 互いに顔を見合わせ、笑った。こうして三人で話していると、入社当初のことを思い出し、懐かしい気分になる。


「さて、そろそろ私達も帰りましょうか。お腹も空いたしね」


 戸締まりを確認し、三人は会社を後にした。

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