7言目「貧乏ゆすり」

「仕事が一区切りつくまでお酒はお預けです」


担当の山口さんにそういわれ、今現在打ち合わせの真っ最中。


「ボクって宿題は夏休み終盤に一気に終わらせるタイプなんですよ」

「なら締め切りを早めれば書いてくれますかね」


良い子のみんま、宿題は計画的にねっ!


渋々仕事を進めようとはしてみたものの、やっぱり気分が乗らずに行き詰まる。


ボクが右手で頬杖をついてうんうん唸っていると、なんだかジトっとした視線を感じた。

その視線はどうもボクの左手に向かっているみたいだった。


「安心して下さい。薬指はフリーですから」

「切り落とせばその心配もなくなりますね」

「調子に乗りました」


下の住人に迷惑がかかる勢いで床に額を打ち付ける。

何か山口さんて恋愛ネタに関して妙に殺伐とするんだよなぁ。


「いえ、ちょっと机を叩いてたのが気になってしまって・・・」

「あ、すいません。貧乏ゆすり出ちゃってましたか」

「気にはなりましたけど、注意する程ではないと思ったので」


まぁ気になるもんなぁ。次から気をつけよ。


そういえば、とちょうど先日あったことを思い出す。


「でも貧乏ゆすりってなんか自然に出ちゃうじゃないですか」

「私はしませんけど」

「でるんですよ」

「・・・」

「でるんですよ」

「もうそれでいいので話進めて下さい」


最近の山口さんはだいぶ流れを掴んできた模様。

許可が下りたので続きを話す。


「こないだちょっと体調が悪くて医者に行ったんですよ」

「脳外科ってお金かかりそうですよね。大丈夫ですか」

「おい患部を断定するのはやめろ悪いのは頭ですかって言いたいだけだろそれ」

「精神科でしたか?」

「頭も性格も良くはないけど違ぇーよ。次は何ですか顔っですか」


「顔は悪くないと思ってますよ?」

「え、あ、はい。恐縮です?」


真顔で何言ってくれてるのかしらこの人⁉

ヤダもうっ、何かすごい恥ずかしい!

急に上げて落とすのやめてね?


「贔屓目に見ればですが」

「結局落とすんですね」


逆に安心したが。

べ、別に、悔しくなんてないんだからね⁉


「あー・・・それでですね、待合室で隣に座ってたオッサンがいたんですけどね? 

もう床をカツカツカツカツカツカツと・・・」

「まぁ、時々いますね。そういう方も」

「そこでボクは意を決して」

「注意したんですか」

「対抗してもっと激しいビート刻んでやりました」


一瞬は感心したような顔をみせたものの、事実を聞いて一転侮蔑の表情を見せる。


「うわぁクッソ迷惑・・・」

「いじめっ子黙らせるには同じように虐め返すのが一番なんですよ」

「で、大人しくなったんですか」

「二人でセッションかましてやりました」

「何故そうなる・・・・・」


まぁここからはボクも予想外でしたが。


「いやオッサン、実は昔バンドマンだったらしくて『兄ちゃん、中々熱いリズム刻むじゃねぇか』って妙に気に入られちゃいまして」


意外と話せば分かるオッサンでしたよ。


「先生、類は友を呼ぶって諺ご存じです?」

「えぇそうなんですよ」

「は?」

「他にも待合室にいた患者さんに元ギタリストがたくさんいまして」


ボクとオッサンの二重奏に感化されたのか、次々と名乗りを上げる人が出てきた。

最終的にボイパやらタップダンスやらで楽器はないものの皆で大合奏だった。


そして仲良く看護婦さんに大目玉を食らった。


「ギタリスト多すぎません?」

しかも”元”。

というツッコミも聞こえたけど、それが仕方ないのもボクは知っている。


「男の子はみんな学生の頃に一度はギター始めます」

「そうなんですか?」


「みんな文化祭でカッコいいとこ女子に見せたいんですよ」

「しょうもない理由ですね」

「一部はFコードで躓いて諦めますが」

「マジでしょうもないですね」


ちなみにボクもそのしょうもない一部ですが。


「さらに文化祭で上手いことやったやつも、大抵1~2か月ですぐ別れますいやむしろ別れろ」

「それもうただの僻みと願望じゃないですか」


「ボクらが『男の子だらけのドキドキ☆ツイスターゲーム』やってる間に後藤のヤツ抜け駆けしやがって・・・」


「ずいぶんファンキーな青春送ってますね」

「ちなみに脱衣ありルールです」


「どこに需要が・・・」

「女子って意外とBL好きが多いってタレコミがありまして」

「来たんですか?」

「来ましたよ。・・・・・・・・・・ゲイバーの常連さんがいっぱい」

「でしょうね」


あの地獄絵図は今も網膜に焼き付いて離れない。


「『一般参加は受け付けておりません』って言ってどうにか追い返しました」

「お客様は神様ですよ?」

「あんなもん邪神ですよ。邪の塊ですよ!」

「差別的発言はどうかと」

「差別というか区別です」

あれはもう別の生き物だ。住む世界が違う。


「あの方たちはただ愛情が深いだけです」

「毛と顔の堀が深いのは知ってます」


やけに肩持ちますね。そっち派なの?


「ていうかあまり思い出したくないのでもうこの話やめていいです?」

「むしろさっさとやめて仕事の話に戻りましょうよ」


「あ、そうそう貧乏ゆすりなんですが」

「がんばってもう少し前まで戻って」

残念、古いログは削除されました。


「ちゃんとリズム刻んでも貧乏ゆすりって呼ぶんですかね?」

「知りませんよもう・・・」


なんか久々にギター触りたくなってきた。


仕事?

それはまぁ、明日から頑張る。

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