6言目「コーヒー」
「山口さんはどういう時に大人になったなーって感じます?」
仕事の合間の休憩。
お茶をいれて一息つきつつ、先日あった出来事について話すことにした。
「とりあえず
ちょっと台詞にルビ振ってあったが気がしたけど、あえてそこはスルーした。
空気が読めるようになる事も大人になったなぁと感じる部分だよね。
「ボクは昔からコーヒー=大人のイメージだったんですよね」
「人の話をしっかり聞くことも必須だと思います」
「タバコは何か大人っていうより、オッサンって印象が強いですね」
「煙に巻こうとしてますか? タバコだけに」
「いや別にそんな事は考えてなかったんですけど、上手いこと言いますね山口さん」
「都合の良い時だけ聞いてんじゃねぇよ」
照れ隠しにアイアンクローを極められた。
指が細くて長い分、食い込んで痛い痛いイタイ地味に握力凄いッ‼
あとちょっといい匂い!
「それでコーヒーの話なんですけど」
「はいはい聞きますよなんですかもう」
解放されるのを微妙に惜しみつつも、話を再開する。
「何故大人がコーヒーに行き着くのか、理由を悟ってしまいました」
「そうですかーオメデトウゴザイマス」
すでに興味がないのか返事がめっちゃなげやりだった。
「先日友達と一緒にちょっとお洒落なお店にいったんですけど」
しゅしゅっとスマホを操作してその時に撮った写真を見せる。
そしてそれを見た瞬間、何故か山口さんの目が急に温度を失った。
「このお店にお友達と・・・・・・・ちょっと伺いたいんですが」
「はい」
何だろう。もの凄い圧力を感じる。
「こんな、お洒落な、お店に、先生が?」
ピクリと肩が跳ねた。
一言一言区切って協調した言い方が恐ろしい。
アレ?
何か怒っていらっしゃる??
「失礼ですが、ご一緒されたのは男性ですか?」
「ままままぁ、ボクにも異性の友達くらい・・・」
「へぇ」
ひぅっ、と喉からおかしな音がする。
「妹です」
スイマセン。見栄張りました。
「そうですか」
正直に告白したことで圧迫感から解放された。
別にその程度の嘘でそんなに怒らなくても・・・
とは思うものの、女性の起こるポイントは男とはまるで違う。
そのことはボクもよく妹にも注意されていた。
よって理由は分からなくてもとりあえず謝罪する。
人によっては追及されるのでそれも正解とは言えないらしいけど、幸い山口さんはあまり深く突っ込んでくるタイプではないので、ボクはこうするようにしている。
また後日教えを請わねばならない案件が増えてしまった。
今度はどんなお高いお店で奢らされることやら・・・
「ま、まぁそれはさておきですね」
とりあえず一旦収まったようなのですかさず話題の転換を図る。
「最近のお店ってメニューからして何か横文字ばっかりでお洒落じゃないですか」
カタカナで書いてあるところはまだ優しい方で、
英語か、下手したら時々それ以外の言語の店すらある。
「横文字って言っちゃう時点で相性悪そうですね」
「もはや頼み方すら分かりませんよ」
そういうお客さんはボクだけではないハズだけど、店員さんの無言の笑顔が凄いプレッシャーに感じてしまう。
「焦るほど余計に頭が真っ白になって、もうレジの前で固まっちゃって」
もう対人恐怖症を発揮しそうになった。
やっぱり自販機は人類の英知だとさえ思う。
「じっくり10秒くらいメニューと睨み合った結果、『アイスコーヒー』って言って事なきを得ました」
さんざん待たせてソレかよ!って妹にも突っ込まれた。
「何かもう、時代に着いて行けずに考えるのを放棄した大人への救済措置的な飲み物ですよねって」
「先生まだ30にもなってないじゃないですか」
「コーヒーなら基本ドコのお店でも置いてあるし、何コレ最強じゃん!って気付いたんです」
「ブラック飲めないくせに・・・」
「飲めますよ一応」
ミルクとガムシロは必須だが。
「で、後日意気揚々とス〇バ行ったんですけど」
「あ、もうオチ読めました」
マジか。さすが女子。
でも悔しいので最後まで聞いてね?
「『アイスコーヒー1つ』って言ったら『ドリップとアメリカーノどちらにいたしますか』って聞かれて」
「スタ〇は『アイスコーヒー』って表記されてないんですよね。そういえば」
あまり頼むことがないので、と山口さんが言うのでやっぱり慣れてる人には常識なんだなぁとレベルの差を痛感する。
「何が⁉ってなるじゃん‼ ただのアイスコーヒーにまさかさらに細かい注文あると思わなくて・・・」
そこであっさりメッキの剥がれたボクはプチパニック☆に陥りました。
「まぁ初心者あるあるらしいので気を落とさず」
「咄嗟にサイズ聞かれたのと勘違いして『大きい方』って答えて」
意味が解ってなくて他に思い当たる質問がなかったんだもの!
「それはショートとかトールでしょう」
「
それでもサイズは事前に調べていたけどなッ‼
・・・グランデとかベンディ? はホント聞いたこともなかった。
「店員さんには『(´・ω・`)』って顔されました」
「あんまり困らせては駄目ですよ」
「好きで困らせてるワケじゃないんですけど」
むしろ世間に着いていけずボクの方が困ってる自信がある。
「それとですね」
「他にも何かやらかしたんですか」
「後ろでカメラのシャッター音が聞こえた気がしまして」
隣のレジとお客もキョトン顔でボクの方を見てたので雑音も少なかったしなぁ!
「あとでSNSで検索したら『♯〇タバ 初心者』でボクの写真が出てきました」
後ろ姿だったけど。
「何が悔しいって、軽くバズっててしかもそんなに悪い気がしてない自分がいることですよ⁉」
「先生の著書の感想より多いですね」
スマホを確認した山口さんも呆れている。
「まぁ仕方ありませんね」
「山口さん・・・」
こほん、とひとつ咳ばらいをして一言。
「今後は私が同行しますので、一声かけるようにして下さい」
あまりの惨めさを見かねたのかありがたい進言をしてくれる。
若干覚悟が足りないのか、少し顔が赤いけど。
「・・・助かります」
まぁ当分行く気にはならないだろうなぁ、という一言は胸にそっとしまっておく事にした。
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