第26話 名も無き村 防衛戦①


夜明け前にアラームで起きた。


ゆっくり背伸びをしてキャンピングカーから外に出た。


この星も夜明け前のこの時間は世界が紫色に輝くんだな~


俺は2度、3度と深呼吸をして脳に濃厚な酸素を送った。


「空気が上手いな!」


キャンピングカーに戻りシャワーを浴びて着替えていたら日の出の眩しい光が車内に入って来た。


タモツはソファーで寝ている。


サブは既に四輪駆動バイク、ATVで出かけていた。

あいつは本当に凄いな・・・


キッチンでお湯を沸かしてコーヒーを入れて外のテーブルで飲んで居ると独特のエンジン音を響かせてサブが帰ってきた。


「おはよう。」


「おはようございます、 兄貴!」


「良く働くな~サブ」


「イャ、タイムリミット早いかも知れないっスからね。

早めに調べるトコは調べないとっスょ!」


「なに調べて来たんだ?」


「川の位置ッスね。」


「こっから大体2キロ位に有りましたから引き込みも出来なくはなさそうッスね。」


「掘り作るのか?」


「作れたらベストッスけど村長さんにも確認しないとなんで」


「あっ、タモっちゃん起こして朝飯の準備しちゃいますねー」


半分寝てるタモツとサブの三人で朝飯を食べ始めたらエリス達も起きてきた。


エリスは朝の挨拶も程々にアンナを連れてキャンピングカーのシャワールームに駆け込んだ。


昨日の催涙ガスまみれになったエリスをキャンピングカーのシャワールームに押し込んで催涙ガスを洗い流させたがシャワーもそうだがシャンプー、リンス、ボディソープに洗顔ソープをいたく気に入り上目遣いで使わせてくれと懇願された。


マルコはバツの悪そうな笑顔で朝飯の手伝いをしていた。


「マルコ、お前ら今日はどーするんだ?」


「今日ですか?

取り合えずスジャクさん達のお仕事を手伝う様になると思います。」


「魔物の襲撃に備えるんですよね?」


「それは午後からになるかな?」


「午前中は家を設置しようかと思ってる。」


「家ですか?

そんなに早く出来ちゃうもんなんですか?」


「あぁ、半分以上出来上がってる小さい家を繋げるだけだからそんな時間は掛からないと思うぞ?」


「あっ、ついでだからお前らの家も立てるからな。」


「僕らの家ですか?」


「あぁ、多めに持ってきてるから気にしなくて良いぞ。

俺の魔法の訓練にもなるしな!」


タモツ教授からびっちり概念から術の完成型まで習ったから大丈夫だ!


しかしタモツはなんでそんなに魔法理論?に詳しいのか意味が分からん。


マルコと話しているとエリスとアンナがシャワーから出てきてアンナがピカピカになってた。

アンナの髪の毛ってオレンジだったんだな・・・

ずっと赤毛かと思ってた・・・


エリスが青でマルコが茶色、アンナがオレンジか・・・

惜しい!!


マルコもシャワー浴びたら変わるのか?


「マルコ!」


はい。何ですか?


「お前もシャワー浴びてさっぱりして来い!」


えぇ~ 身体は拭いたので綺麗ですよ?


「アンナを見て見ろ! 髪の色が変わったろ? それだけ汚れてたんだよ! お前も綺麗にして来い!」


「サブ、マルコの服用意してやってくれ。」


ウィッス、兄貴! ジャージで良いッスかね?


「良いんじゃねーか?」


「シャンプーとかボディーソープの使い方教えてやってくれ。」


了解ッス!


マルコは渋々シャワー室に入って行った。

シャワーから出てきたマルコは予想通り茶髪が金髪に変わってた。

異世界恐るべし!



そしてみんなで一緒に朝食を取って各々の仕事に別れた。


カスタムのドローンを駆使して地形データーを編集して地図を作るタモツ、タモツの指示で現地で調査したり木を切り倒したりしているサブ、開拓村周りの地形データーが無ければ効率的な城塞化は出来ないからな。


タモツとサブでそれを纏めて村長に提案に行ってくる。


多分理解は出来ないと思うが村の防衛力は確実に上がるからな。


俺はその間魔法で地面を馴らして基礎を作りブレハブを設置する仕事を請け負っていた。


何だかんだ言ってもタモツはヒキオタだから体力無いしサブは何でも出来るが言語理解のスキルしか使えないから限界は有る。


今の所、チーターは俺だけらしい。


落ち着いたらサブとタモツを強化する予定だ。


今は遠距離からサーチ&デストロイが可能だから取り合えずは大丈夫だろう。


俺は地面に手を付き初魔法を発動させた。


『グラビティ!』


事前にタモツの図面を見て寸法通りに重力で整地、圧設する魔法らしい。


固められた地面の外側四隅にマルコに杭を打たせて糸を張って水平を見ながら簡易的な基礎を土魔法?で作ってプレハブをポコポコと四つ出し合体させてマルコ達の家を作った。


その後はドンドン魔法を使って井戸を掘ったり浄化槽を設置したり下水道を設置したりで無事に外側だけはマルコ達の家と俺達の仮住まいを作る事が出来た。


早めの昼飯の準備をしているとサブとタモツが帰ってきた。


村長のOKが出たので午後から要塞化を始めましょうとの事だ。


サブがパスタを大量に作り要塞化の手伝いに来ていた奴隷らしき人達にもパスタを食べさせて城壁作りに向かった。


城塞の形?


もちろん星型だ!


タモツ大興奮で星型の城塞を語ってたよ。


俺は土魔法で城壁を作って回った。

高さ3m.、壁の厚さは30cmだ。

城壁分の土を削って掘りを作りゆくゆくは水を流す予定だそうだ。


メインの出入口を二カ所作って残りの3ヶ所は通用口の様な感じで作った。

門、扉、橋は切り倒した木材を使ってこれまた俺の魔法の練習台にして作成。

大木を乾燥させたり墨通りに切ったり便利だな魔法・・・


先端部に5ヶ所の物見矢倉を工事現場に有る足場を組んで広目の踊り場を作らせた。


足場のパイプに透明なポリカーボネートの板を結束バンドで付けたら取り合えずは完成だ。


何とか日が落ちる前には完成した。


納得は出来ませんけど取り合えずのチュートリアル防衛戦ならこんなもんでしょう!


タモツのOKが出たので今夜も引き続き宴会らしい。


俺達と最低限の見張り5人は引き続き監視業務に就いている。


村長のリバル曰く

「夜にこんな立派な城壁に襲撃して来る魔物は居ないだろ。

来るなら夜明けじゃ無いか?」

だ、そうだ。


タモツカスタム2、赤外線、熱探知付きのドローンで周辺をパトロールして居ると不自然に熱源の固まりが有るとの事だ。


開拓村の敷地から約1キロくらいの森の中らしい。


森の中と言うか開拓村から森の入り口までが大体200メートルくらい。


「画像で確認は出来るか?」


森の中で狭いし暗いので赤外線でも画像はちょっと厳しいかもです。


「画像はダメか・・・」


1、2キロ位で熱源の固まりがうごめいて居るのならやっぱ襲撃だろうな!


「タモツ、その熱源の固まりは森の奥から集まって来たのか?」


どうやら違うっぽいですね、朱雀さん。


熱源感知のギリギリで上空50メートル付近でホバリングしてるんですけどどうやら魔物湧きさせてるのかもですね。

もう30分監視してますけどその辺の位置から熱源が増えてる感じです。


「魔物湧きって何だ?」


あー、すみません。朱雀さん、ダンジョンの魔物倒して少しするとまた魔物がリポップするでしょ?

それと同じ事を森の中でやってるみたいですね。


「・・・・」


えーっと・・・ 簡単に言えば朱雀さんの召喚と同じ様な物を森の中でやってる感じです。


タモツ教授はダンジョンにも詳しいのな・・・


「そうか。

任せたぞ! 仮眠してるから何か展開有ったら遠慮なく起こしてくれな。」


大体の魔物と思われる熱源の位置を確認してから俺は仮眠した。



☆★☆★☆★☆★☆★



夕日が落ちた頃に一匹のガーゴイルが魔方陣より現れた。

ガーゴイルは毒々しい沼の周りを石の全身な割に柔らかそうにクルクル飛んでいる。


すると漆黒の霧が晴れて不気味な洋館が現れガーゴイルは躊躇無く洋館に近づいた。


ガーゴイルが扉の前まで来ると扉が観音開きで勝手に開いてガーゴイルを中に招き入れた。


器用に飛んでいるガーゴイルはある部屋の前で止まりまた扉が勝手に開いてガーゴイルも中に入る。


お呼びと聞きましてはせ参じました。


ガーゴイルは執務机で羽ペンを忙しく動かしている白髪、赤目の執事服を着た初老の男に頭を下げている。


「第16、ダンジョンマスターですか?」


初老の男はガーゴイルの方を見ずに尋ねた。


はい。

第16ダンジョンマスターでございます。 バヴィリア様。


「もう直ぐオーガ族の族長のハイオーガが来ますので少し待ちなさい。」


そう初老の男が言うとドガドガドガと廊下を歩く音がした。

その騒がしい足音は部屋の前で止まり扉が開くと黒光な筋肉の塊が部屋に入って来た。


「ちょうど来ましたね。」


お呼びでしょーかー バヴィリアさまー


黒光りした盛り上がった筋肉の塊、立派な角を3本持ったハイオーガが初老の男に話しかけた。


「取り合えず好きな所に座りなさい。」


ガーゴイルはソファーの背もたれの部分に止まりハイオーガはそのまま床にこしかけた。


「ハイゴブリン族に与えた森の第16ダンジョン近くに有る人族の集落は知ってますか?」


はい。分かります。


森の浅い所の人族の集落ですかー


確か人族が50匹位居る集落ですねー


「うむ。 

そこに主様が呪いをかけた勇者もどきの子供が居たんだが第8ダンジョンから月下草を取られてしまってな、解呪の薬を作られて呪いを解かれてしまったんだ。」


バ、バヴィリア様、第8ダンジョンのマスターは・・・


「お嬢様が首を跳ねました。」


・・・・・

ガーゴイルとオーガはお互いに無言で顔を見合わせている。


「話を戻します。」


「第8ダンジョンから集落に帰る途中、ゴブリンとオークに襲わせましたが全滅しました。

土魔法の手慣れが3人護衛に付いているらしいですね。」


「何か強力な土魔法で全滅させられたらしいです。」


「この件はまだお嬢様には報告しておりませんので速やかに人族の集落を勇者もどき諸とも消滅させてもらいたいのです。」


バヴィリアさまー

姫様がこの事を知ったらー


「もちろん八つ当たりが凄いでしょうね・・・

関係者含めて相当数の首が飛びます。」


ガーゴイルとハイオーガの顔色がみるみる悪くなっていく。


全く・・・


誰に似たんだか・・・

バヴァビリアと呼ばれる初老の男は溜息を吐いた。


「状況は分かりましたね?」


「今度こそ確実に人族の集落を潰しなさい。」


はい。はいー。


「第16ダンジョンマスターは集落の近くの森に移転陣を設置しなさい。

魔物を大量に召喚するのです。」


バヴィリア様、地上に魔物を大量に召喚するにはかなり制約されますしコアの魔力も足りません。


「コアの魔力の補充はこれを使いなさい。」


初老の男は手の平を上に上げて漆黒の大きな宝石の様な物を出した。


「これだけ有れば魔力は足りるでしょう。

後は制約と言うのは何ですか?」


はい。 地上に召喚出来る魔物の種族と数がが決まっております。

私のダンジョンですとゴブリン、ダークウルフ、コボルトにオーク迄です。

この制約を破ればコアが消滅してしまいます。


「そうですか・・・ 数はどれくらいですか? 又種別は選べますか?」


数は各50迄、種別は問題なくメイジにアーチャー、ウォーリァー全て大丈夫です。武器と防具も装備出来ます。


「うむっ、でしたら問題有りませんね。

オーガ族の方はどうですか?」


はいー。 うちの方は直ぐに戦える人数を揃えますー 

第16ダンジョンで待機してれば良いですかー。


「それで良いでしょう。

これから準備をして夜明けに集落を襲いなさい。」


「第16ダンジョンマスターは残りなさい。

采配は貴方が取りなさい。

ダンジョンで慣れているでしょうから。」


「足の早いウルフを先行させてゴブリン、コボルトで弓など遠距離から制圧していきなさい。後詰めでオークを突入させてからオーガを投入しなさい。」


「良いですか? 必ず集落を壊滅させなさい。

でないと姫様の機嫌が非常に悪くなりますからね!」


はい。十分分かっております。


初老の男は満足そうに俯いてからまた羽ペンを走らせて書類の束らしき物に視線を落とした。



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