第3話 召喚師エリス


白で統一された建物の中で両膝を付き両指を絡ませ翼の生えた純白の女性の像に祈る少女が居た。

少女は何十回、何百回、何千と教会で祈っていた。


日の出から辺りが暗くなるで・・・

時も忘れたかの様に一心不乱に翼の生えた純白の女性像に祈る少女。


「女神ミヤ様、どうか哀れな私達をお導き下さい。 弟、マルコの呪いを解いて、この世に厄災を振り撒く魔人の排除の役目を私達にお与え下さい。 女神ミヤ様の使徒として命を掛け必ず厄災の魔人をこの世から排除致します。・・・」


少女はラーセン司祭と神父がロウソクの明かりを燈したのも気付かず一心不乱に純白の女性像、女神ミヤに祈りを捧げていた。


水も食事も休憩も取らずに少女は祈りを捧げ続けていた。


教会の仕事を終えた神父、ラーセン司祭も少女の後ろから女神ミヤに祈りを捧げた。


神父が休みを取りロウソクの明かりも消えかけた頃、少女と少女の後ろから祈りを捧げていたラーセン司祭に月の光が差し込んで来た。


ロウソクの明かりが消え月が真上の時に、翼の生えた純白の女神像の天窓から少女、ラーセン司祭に一筋の月の光が・・・


『可愛い我が子よ・・・』


少女は祈りを中断し、はっ、と辺りを見渡した。


後ろで祈りを捧げていたラーセン司祭と目が合いラーセン司祭は優しく微笑みながら少女に向かって頷いた。


「女神ミヤ様、ミヤ様の僕、エリスと申します。 我が弟マルコが厄災の魔人の呪いを受けております。」


『話しはきいておりました。命をとして厄災の魔人を滅ぼすのなら祝福の聖水を授けましょう。』


少女エリスの顔に初めて笑顔が輝いた。


この2年間は作り笑顔だけ、妹もすっかり笑顔が消えてしまった。


『使徒エリスよ、弟マルコと共に厄災の魔人を必ず滅ぼしなさい。』


「この命に替えましても必ず厄災の魔人を滅ぼします。」


エリスは再度深く頭を下げた。


『使徒エリスよ、月下草は一週間後のこの時間にオバースダンジョンの14階、階層主部屋の扉前に咲きます。 それを逃せば月下草の採取は限りなく不可能になるでしょう。』


「分かりました。女神ミヤ様、必ずや月下草を採取し弟マルコの呪いを解呪致します。」


『使徒エリスよ、祝福の聖水を授けましょう。』


純白の女神ミヤ像から月の光に乗って小瓶がエリスの手元に下りて来た。


「ありがとうございます。 女神ミヤ様」


『それと使徒エリスに使徒の聖印と祝福を授けましょう。 服を脱ぎ左の胸をこの月の光に当てなさい。魔人と戦える力を授けましょう。』


エリスは上着を脱ぎ上半身裸で月の光を左の胸に当てた。


月の光がスーッとエリスの胸に入りエリスの胸には女神ミヤの使徒の聖印が光輝いた。


左の胸、乳房の上から左腕の上腕に掛けて幾何学模様と蔦の様な入れ墨が刻まれた。


『使徒エリスよ、中々良い資質を持っていましたね。 これより召喚師を名乗るが良い。 必要な時に必要な召喚陣、召喚の詠唱が我が使徒聖印より頭に流れて来るであろう。』


「ありがとうございますか。女神ミヤ様。 命を掛け弟マルコと共に・・・」


そして月の光が無散して辺りは静寂に包まれた。


「使徒エリス様、おめでとうございます。この大陸に女神ミヤ様の使徒が誕生致しましたのは約300年振りになります。 まだオバースダンジョンの月下草採取が残っておりますが必ずや女神様の聖水が作れると信じております。」


エリスはラーセン司祭の変わり様に驚き、直ぐさまラーセン司祭に感謝をした。


「止めて下さい。 ラーセン司祭様。一週間後のオバースダンジョンで必ずや月下草を採取してまいります。」


「オバースへは私も一緒に参りましょう。 マルコ君と妹さんはオバースの教会が責任を持って使徒エリス様のお帰りまで保護致します。」


「何から何までありがとうございます。 ラーセン司祭様。」


月の薄明かりの中でエリスとラーセン司祭が共に笑顔で頭を下げ合って居た。



☆★☆★☆★☆★


2日後、マルコを背負ったエリスと妹、ラーセン司祭と共にダンジョン都市、オバースに向かい乗り合い馬車に乗っていた。


エリスの住む開拓村からは乗り合い馬車で約半日の距離に有るダンジョン都市、オバース。


元々はオバースの地にダンジョンしか無い荒れ地だったがダンジョン捜索を生業にする冒険者が集まり、冒険者の対応に冒険者ギルドが出来、ダンジョン産の魔石、魔物の素材、ダンジョンから稀に出るマジックアイテムに鉱石など

人が動けば商品が動き商人達が集まり商業ギルドが出来、鍛冶ギルド、魔道具ギルド、錬金術ギルドにと

約50年前からダンジョン都市として独自の進化を続けている。


オバースのダンジョン都市の城壁が見え乗り合い馬車はそのまま城門前に着いた。


エリスはマルコを背負い妹と手を繋いで乗り合い馬車から降り城門前の列に列んだ。


ラーセン司祭は徒歩で貴族用の小門に向かい門番に神光教会の司祭紋章を見せ城壁の中に消えて行った。


エリス達は入門審査の列に1時間位列び次がエリス達の番だ。


エリスが冒険者ギルドカードを出し妹がマルコの分と二人分の開拓者カードを見せ問題無くダンジョン都市、オバースに入った。


事前の打ち合わせ通りにオバースの教会に向かい待っていたラーセン司祭にマルコと妹を預けてエリスは冒険者ギルドに向かった。

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