第2話 調査

 「あれ」との同居生活を始めてから、早くも二週間が経った。今のところ特に変わりはなく、私は「触らぬ神に祟りなし」もとい「触らぬ化物に祟りなし」を実行しているので、今のところ祟りや霊障を起こされるような目には遭わずに済んでいる。

 しかし全く何もしてこないのかというと、そうでもなく、手こそ出さないが、家にいる間は常に私の側に「いる」のだ。ふと気がついたら背後で膝を抱えて「いた」り、視界の端に佇んで「いた」り、ある時は風呂上がりに扉を開けたら目の前に「いた」ので、この時ばかりは流石に腰を抜かした。

 少なくとも、こちらから何もしなければ「向こう」も手は出してこないことは確かなようである。したがってこの奇妙な生活にも慣れてきた。ちなみに「この」ことは人には口外していない、したところで信じるまい。新部署へ赴任早々、奇人扱いされてはたまったものではない。

 それにしても「あれ」は一体「何者」で「何の為に」に私の前に現れたのか、どうして私にだけ「見える」のか、謎は深まるばかりだ。

 そもそも「何の」類の「化物」なのか、初めは座敷童子とも考えたが、今のところ身の回りで幸福な出来事は起きてはいないのでおそらく違う。

 水木しげる氏にでも問い合わせれば、正体がわかるやもしれないが、残念ながら今は氏自身が妖怪となってしまったのでそれも叶わない。

 そういえば職場の近くに図書館があった。もしかすると相当古く珍しい「妖怪」なのかもしれない。また今度、仕事帰りにでも寄ってみるか。

 それよりも「これ」の写真を撮影し、ネットへアップして情報を募る方がより早く確実ではないか。そもそも、それこそがこの情報化社会で最善で定番の調べ物の方法であろうに、なぜ思いつかなかったのか。自分の俗世への疎さに呆れるばかりである。

 早速スマホのカメラを起動し、布団の隅で体操座りしていた「これ」をカメラ画面越しに見てみた。

 しかし、カメラの画面には梅雨で少し湿気気味た壁だけが広がるばかりで「これ」は「何処」にも写っていない。


 肉眼でしか見えないのか。こいつは。

 しかも、自分だけにしか。


 いよいよ「化物」じみてきた。気味が悪い。

 当てが外れ、ついでにSNSで一躍バズるかもしれない期待も外れ、結局「これ」の不気味さが増しただけであった。私はスマホを放り投げた。

 何だかドッと疲れが出てきた。何もかも嫌になった。今日は特に何もしてないが、そうだ、それこそ「こいつ」の仕業だ。「こいつ」がやる気を吸っているに違いない。人間の生気を吸う類の「妖怪」か何かだろう、知らんけど。

 落胆したら腹が減った。だが調理をするのは面倒だ。コンビニへ行こうにも、休日だというのに今日も雨で、外へ出るのも億劫だ。その上、得体の知れぬ「化物」と一つ屋根の下なのだから、余計に気も滅入ってやる気が起きない。出前でも取るか。近頃はウーバーイーツなる出前が流行っているらしい、これを機に経験してみるのも悪くない。しかしこんな田舎にウーバーイーツは生息しているのか。重い体を起こして、「化物」の足元に落ちているスマホを取りに行った。

 

 いつの間にか「「化物」について調査する」という事から、「昼飯のメニューを決める」事に目的が移ろい、その後も布団の上でスマホをいじっていたらいつの間にか日が暮れていた。こうなると昼飯ではなく晩飯を考えなければいけない。ああ面倒くさい。今日も一日を無駄にした。もう嫌だ死にたい。どうしてこうなった。

 今日一日で「化物」について分かったことは、少なくとも座敷童子でないということだ。

 もしかすると「厄病神」かもしれない。今のところ最も有力な可能性である。

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同居人 放狼 @uruoinu02

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