同居人

放狼

第1話 入居

 この部屋には「化物」がいる。

 現に今も、ここで私のことを見ている。

 髪はざんばらで痩せ細っており、服なのかボロ巾なのか分からないような布を纏い、いつも小さな声で何かを呟いている。ちなみに付け加えると目玉がないので見ているというより此方に向かっているという方が正しい。

 いつから「いる」ことに気づいたかというと、気づくも何も、この部屋に入居したときからもう既に「いた」。部屋に入ると隅の方で膝を抱え佇んでいたのだ。一緒にいた引越し業者は「彼(彼女?)」の事は気にもとめずに荷物を運び込んでいたので、どうやら私にだけ見えるようだった。私は驚きはしたが、あまりのことにかえって冷静になってしまい、「これ」のことは一先ず脇に置き、引越し業者に荷物の配置の指示を飛ばしていた。私達が引越し作業で慌ただしくしている間も「それ」は抵抗する事もなく、ただじっと部屋の隅で私達の事を眺めていた。なので私が入居したというより、私の方が後から同居させてもらうような形で暮らすことになったのだ。

 私は特に霊感は持ってないし、何か祟られるようなことをした覚えもないので、初めての化物の類との遭遇に、始めのうちは困惑や恐怖感はあったものの、ただ座って見ているだけで、何か仕掛けてくるわけでもなく、しかしながらただならぬ妖気というか呪いのようなものは、霊感はなくとも感じとれたので、文字通り「触らぬ神(?)に祟りなし」曰く付きの不気味な人形とでも考え、なるべく関わらずにそのまま生活することにした。

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