第53話

 まさか勇者が住むことになるとは……。


 流石の俺も驚きを隠しきれなかった。


 まぁ、 普通にドラゴンも住んでるのだから今更驚くことでもないだろう。


 それにここから領地も広げることができる。どんな相手でも数は大いに越したことがないだろう。


 ただ、街の安定まではまだまだ時間がかかりそうだ。


 魔王も去っていっただけだし、より一層町を強化していく必要があるだろう。


 そうなると予定通り、領地を広げるだけだな。


 まずは勇者の能力を確認しておこう。



【名前】 サイル

【年齢】 16

【職業】 勇者

【レベル】 2(3/4)[ランクE]

『筋力』 2(5/150)

『魔力』 3(21/200)

『敏捷』 3(12/200)

『体力』 3(6/200)

【スキル】 『光魔法』2(540/1500)『剣術』1(156/1000)『神聖剣』1(0/1000)



 あぁ、なるほど。

 ほとんど能力値が上がってない。


 体を鍛える前に勇者だからという理由だけでラストダンジョンに放り込まれたようなものだな。


 しかも、まず最初に戦うのが魔王。

 嫌にもなるわけだ。


 まぁ、やってもらう仕事は難しいな。

 能力のほとんどが勇者だけあって戦闘に特化してる。


 勇者の方を振り向くと楽しそうに畑を耕していた。

 ただ、適正なスキルがないので畑自体はうまく成長していないようだった。


 ――やはり戦闘面を鍛えさせるしかないな。それがきっと彼の自信にも繋がるだろう。


 だからこそ俺はそのことをアルバンに相談しに行った。



「わ、私が勇者様の教育係、ですか!?」



 アルバンは驚きのあまり、目を点にしていた。



「あぁ、せっかくの力を持っているのにもったいないなと思ってな。アルバンは教えるのがうまいから力になってくれると思うんだ」

「も、もちろん喜んで受けさせていただきます!」



 アルバンは嬉しそうに頷く。

 これで彼の方は問題ないだろう。

 あとは勇者、サイルの方か。


 アルバンを連れて畑のところにいるサイルの下へと向かう。


 そして、事情を説明したのだが……。



「む、無理ですよ。ぼ、僕にそんな力なんてありませんよ……。それに魔物と戦うなんて僕には……」

「いや、いきなり戦いに行ったりとかはしないぞ? そうだよな、アルバン?」

「もちろんですね。いきなり戦いに出すなんて愚か者のすることにございます」



 ――いや、それを指示したのがアルバンの上司だった人なんだけどな。



 俺は苦笑しながらサイルの返答を待つ。


 すると、彼は少し悩んだ後、小さく頷いていた。



「わかりました。それなら頑張ってみます」



 気合を入れるサイル。それがまさかとんでもない結果になるとは、この秋の俺は知らなかった。



 一ヶ月を過ぎる頃、サイルの顔つきは全く違うものに変わっていた。



「ソーマさん、おはようございます!」



 九十度に近いお辞儀をされてしまう。

 その雰囲気は以前のオドオドした様子はまるで感じられなかった。



「あぁ、おはよう。今日はどこに行くんだ?」

「はい、アルバン師匠と一緒に魔物討伐に行ってきます!」



 自分から魔物を狩りに行く姿。

 以前だと本当に怖がっていたのにな……。


 しかも、普通にDランククラスの魔物なら一人で討伐してくれる程の能力を誇っていた。

 この辺りはやはり勇者。

 かなり能力値が上昇したようだ。



【名前】 サイル

【年齢】 16

【職業】 勇者

【レベル】 12(3/4)[ランクD]

『筋力』 12(535/650)

『魔力』 13(215/700)

『敏捷』 13(162/700)

『体力』 13(79/700)

【スキル】 『光魔法』4(2540/2500)『剣術』3(56/2000)『神聖剣』2(145/1500)



 本当にアルバンに強化してもらったら一気に成長するな。

 でも、アルバン自身には成長を促進させるようなスキルはなかったはず。


 ……いや、もしかするとずっと色んな人に教えていた結果、そういったものを会得していたのかも。


 アルバンも調べてみると予想通り『指導』のスキルを持っていた。


 なるほど、これでエーファやサイルの能力が大幅に上がっていたわけだ。

 エーファなんか、最近AランクやたまにSランクの魔石を持って帰ってくることもある。


 おかげで更に領地発展が進んでしまっている。

 ずっと溜めていけばそれこそ俺の神聖武器であるピコハンも強化できるかもしれない。


 勇者の神聖武器がやはりかなり高威力を持った武器になっている。

 それなら俺の方も成長させたらかなり良い武器になってくれるだろう。

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