第52話

 アルバンに声を掛けられた少年は必死に首を横に振っていた。


「違うみたいだぞ?」

「そ、そんなことありません。背中の聖剣は紛れもなくあなた様が勇者であることの証……」

「……何か事情があるのか? とりあえずここじゃ落ち着かないだろう? 領地の中に来るといい」


 少年を案内して、俺たちは領地へと戻っていった。







「まずはエーファ、助かった。こうもあっさり魔王って追い返せるものなんだな」

「魔王とは言っても所詮一人の魔族ですからね。最強のドラゴンである私の方が強いですよ」



 胸を張って自信たっぷりに言ってくる。


 まぁ、それもそうか。


 ただでさえ能力が倍になっているんだもんな。

 そんなエーファの相手をする方もかわいそうだ。



「それにあいつ、本気じゃなかったですよ。いえ、ずっと動いてたから疲れていたのでしょうか?」



 どうやら魔王の方も本調子ではなかったようだ。


 ずっと壁を攻撃していたら本気を出すのも難しいか。



「わかった。それじゃあ、また魔王が現れたらそのときはエーファに任せるからな」

「わかりました。全力で滅ぼしちゃいますね」

「ほどほどで頼む」



 エーファの本気だと領地が壊されかねないからな。


 思わず俺は苦笑を浮かべていた。



「それで今度はお前の方だが……」

「ひっ……」



 少年の方に振り向くと彼は小さく悲鳴を上げていた。



「別にとって食おうとしているわけじゃない。どうして勇者がこんな所にいたんだ?」

「それはその……、ま、魔王が出たからと無理矢理連れてこられました……」



 今にも泣きそうな表情で少年は答えてくる。



「つまりここまできたのはお前の意思じゃないのか」

「ち、違いますよ!! 何でこんな恐ろしいところにこないといけないのですか!?」



 まぁ、周りは魔物が出るわけだもんな。そう考えると恐ろしい地……か。



「まぁ、それならこの領地内でゆっくりしていくといい。ここなら安全だからな」

「そ、そういえば、ここはなんていう町なのですか? こんな所にすごく立派な……いえ、村?」



 少年はなんてこの領地のことを表現したら良いのか迷っているようだった。


 まぁ、それは仕方ない。


 この領地にある建物だけ見れば、その辺の大都市と遜色ないくらいだろう。

 かなり数値を上げまくったからな。


 ただ、領地の広さにかんしては据え置きだ。

 こちらはすでに二回ほど、領地を広くするクエストに挑むことはできる。


 ただ、どれほど強力な相手を倒さないといけないかわからないので、エーファやアルバンが戻ってくるのを待っていたのだ。


 すると、その間に魔王が襲ってきて、エーファたちが戻ってきたかと思うと、勇者がいて……。


 なんだろう、最近の俺はとことんついてないな。


 トラブルがここまで固まってこなくても良いんじゃないか、と思えてしまう。


 でも、そろそろ領地を広げていく時期か。


 上げられるだけ数値は上げてきた。



【領地称号】 弱小領地


【領地レベル】 4(96/32)[村レベル]

『戦力』 30(1/155)[人口](17/29)

『農業』 28(0/145)[畑](19/28)

『商業』 30(0/155)[商店](1/30)

『工業』 36(0/185)[鍛冶場](1/1)



 数値だけ見ると跳ね上がっているように見える。

 ただ、俺自身は特に何かしているわけでもない。


 工業にかんしてはバルグが鍛冶師を一人連れてきてくれたおかげで、勝手に上昇していた。


「こ、こんなに良い鍛冶場を一人で使って良いのか!?」


 鍛冶師は驚いていたが、むしろ俺も使わないので自由に使ってくれ、と言うと泣いて感動されていた。


 そして、毎日熱心に鍛冶に打ち込んでいるようだった。

 そのおかげで『工業』の数値が寝ていても上がるようになった。

 更にその工業製品をバルグ(は人前でほとんどまともに喋れないので、ルリ)がどんどん売ってくれるので、それに釣られるように『商業』も上がっていく。


 戦力は高ランク木材が採れるようになったことで、強化しまくったら気がついたら上がっていた。


 うん、ちょっとやり過ぎた気はする。

 町全部がSランク級の建物で豪邸が建っているわけだからな。


 しかも、建てられるところには全部建てたから家が余っている。



「まぁ、開いている家に案内するから気が済むまで住んでいってくれ」

「えっと、よろしいのですか?」

「あぁ、空いているからな。なんだったらそのまま住んでくれても良いぞ。まぁ、勇者なんだったら忙しいだろうけどな」



 まぁ、勇者だからそんな暇じゃないよな……。

 と、心の中で微笑んでいると、少年は真剣に考えたあと、一度頷いて、返事をする。



「いえ、僕もここに住ませてください!」

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