第50話
それは突然起こった。
領地を守る城壁、それに対して何者が攻撃を加えているようで、朝から凄まじい音が響いていた。
「んっ? なんだ、こんな朝早くから――」
まだ眠たいのを堪えながら、窓の外から城壁の方を見る。
何やら煙のようなものが上がり、定期的に音が鳴り響いている。
何者かがこの領地に力ずくで入ろうとしていることは間違いないようだ。
すると慌てた様子で部屋にラーレとクルシュがやってくる。
「ソーマ、大変よ!!」
「あぁ、誰かが城壁を壊そうとしているな」
ただ、水晶で城壁の耐久度を見ている限り、まだ全然大丈夫そうではあった。
【名前】 城壁
【品質】 S[石材]
【耐久度】 24/10000
【復旧素材】 S級石材(25/1)
それほど強い相手ではないのだろうか?
まぁ、この程度なら放っておいても問題ないだろう。
「あ、危ないわよ! 早く倒さないと……」
「んっ、問題ないんじゃないか? このペースなら一日攻撃されてても城壁は壊れないぞ?」
「そ、そんなことあるはずないわよ。だって、相手は……」
「知ってる相手なのか?」
「魔族……、それもかなり強力な力を持ってる相手よ!」
魔族か……。まさか魔王なんてオチはないよな?
少し心配をしながらも、さすがにここまで弱い能力の持ち主が魔王のはずないよな……。と自分の考えを否定する。
そして、クルシュやラーレたちと共に城壁へと向かっていく。
◇
城壁に攻撃をしているのは頭に角が生えた、遠目から見ても強力な力を持っている魔族だった。
ただ、それだけ……。所詮、その程度の能力。
やっぱり魔王じゃなかったか……。
そう思って背を向けようとした瞬間にクルシュは怯えた表情で呟いてくる。
「ま、魔王……」
その呟きを聞いて、もう一度魔族を見てしまう。
確かに魔王と言われたら納得できるほどの雰囲気はある。
しかし、そこまでだ。
実際に城壁を壊せるだけの力を持っていない訳だし、どうやらこの世界の魔王もたいしたことないようだ。
ただ、こうもいつまでも攻撃されて音を鳴らされたら生活するのに不便か……。
俺はため息交じりに魔王に話しかける。
「おい、どうしてこの領地を攻めようとしているんだ!」
暴走しているバーサーカーみたいな相手。ろくに話も通じるとは思っていない。
しかし、意外にも魔王から言葉が返ってきた。
「……ここの領主か?」
「あぁ、そうだが」
「なら死ね!」
いきなり俺の方に向かって魔法を使ってくる。
もちろん距離があるので躱すのは容易だったが。
「いきなり何をするんだ!!」
「……先に襲ってきたのはお前たちだ。特に何もしていない魔族領を勇者だなんだとかいう奴らが突然襲ってきたのではないか! 俺たちは何もしていないのに……。だからこそ、我は先にお前たちを滅ぼしてやるだけだ。特に上に立つ奴らには滅ぼされるだけの責任はある」
どうやら魔族にも魔族側の理由があるようだ。
ただ、それは俺たちには関係のない話だな。
「そうか……、なら、まぁ頑張ってくれ。ただ、その城壁はお前程度じゃ壊せないぞ?」
「……我は魔族最強の男、魔王だぞ? 我に壊せぬものがあるとでも?」
「やってみたらわかる。まぁ、適当に頑張ってくれ」
ひらひらと手を振って町の中へと戻っていく。
すると、すぐに城壁を壊そうとする音が聞こえてきた。
「そ、ソーマ、大丈夫なの? あんなにずっと攻撃され続けたら……」
「まぁ、こっちから攻撃する手段がないのも事実だからな。エーファやアルバンが帰ってくるまでは」
「そういうことね。私もさすがに一人だと厳しいもんね」
「あ、あ、あの……、本当にここにいて大丈夫なのですか? 魔王と言ったら世界を滅ぼす最悪の厄災と言われている人物です。そんな相手が……」
「あぁ、それは心配しなくて良いぞ。城壁を壊せない程度の力なら気にするほどの能力ではないのだろう」
実際はSランク城壁の耐久度が桁違いなだけだが。
ただ、こうやって襲ってきた相手に攻撃する手段を何か考えないとな。
一応弓はあるけど、もっと高威力のものが必要になる。
……大砲とかか?
一応Bランク石材とかで作れなくはないが、相手が本当に魔王ならその程度で対抗できるとも思えない。もっと強い何かが必要になる。
いや、ドンドンと鍛冶を続けていけば更に強力な武器を作ることができるだろう。
それなら一応俺がすることは……。
「ドンドン大砲を作っていくか。ほとんど効かないかもしれないが、それでもゼロ、ということはないだろう」
あとは魔王がいつまでここにいるのか……。
それと魔王がいると勇者が襲ってくるみたいだが、そっちはどうなるのだろうか。
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