第48話
そのエーファの光を見て、男の顔は青ざめていく。
「ま、まさか、そいつが魔法を……? 言う、言わせてくれ!!」
男は慌てて俺に向かって言ってくる。
それを見たエーファはどこか残念そうな表情を浮かべていた。
――なるほどな。エーファの魔法を受けて意識を失っていたのか。
俺は苦笑を浮かべた。
「それで一体誰に命を受けたんだ?」
「と、隣町の……シュビルの領主、ランデンだ――」
ラーレと同じ相手か。
まぁ、ある意味予想をしていた相手だな。
俺は苦笑を浮かべるが、アルバンは唇を噛みしめて怒っていた。
「国王の認可が下りているソーマ様を襲うなんて……。それこそランデンは叛逆の徒ではありませんか。ソーマ様、私に時間をいただけませんか? 少しシュビルの町を滅ぼしてきます故――」
「いや、争いごとは起こすな。面倒なことになる」
せっかく国王の認可をもらっているんだ。それならわざわざ俺たちが動く必要もないだろう。それに、戦力差はかなりある。
いくらアルバンやエーファが個で強いにしても群である相手に勝てるとは限らない。
もし勝てたとしても無傷ではすまないだろう。
極力自分の兵は減らしたくない。
特に人数がいない以上――。
「では、どうされるおつもりですか? ここまでのことをしでかしたのに無罪放免……というわけにはいかないですよ!」
「あぁ、それでアルバンに仕事を頼みたい。まずは国王に報告をするところからだろう?」
これで兵を失わなくてすむ。
そういう意味を込めて笑みを浮かべるとアルバンの方もハッとしていた。
「なるほど、かしこまりました。確かにまずはそう動くべきでした。では私はこれより急ぎ王都へ向かわせていただきます。国王を説得した後、戻って参りますので今しばらくお待ちください」
「あぁ、頼んだぞ」
「あと、お前もこい! 国王に罪を問うてもらう」
「わ、わかりました」
クルシュをさらった男はエーファから離れられると少しホッとしていたようだった。
「あと、エーファ。足が欲しい。お前、元に戻れるか?」
「うーん、どうだろう? でも、戻れたとしてもアルバンなんて乗せたくないよー」
「エーファ、俺からも頼んでいいか?」
「わかりました。ソーマ様の頼みなら全力でひとっ走りしてくるよー!」
エーファはアルバンの頭に乗り、領地の外を指さしていた。
「行け! アルバン!!」
「って、お前が乗るな!!」
無理矢理アルバンに引き下ろされるエーファ。
ずっと二人で組んでいたからか、ずいぶんと仲が良くなっているようだ。
二人なら無事に国王を説得して、ランデンの領主としての称号を剥奪してくれるだろう。
そんな期待を浮かべていた。
しかし、それはのちほど予想外の方向で裏切られることになるとは思っていなかった。
「国王軍を動かしてもらえば、一気に町を制圧できるもんな。我らが先に動いてしまったら、下手をすると王国からの信頼も失うことになる。さすがソーマ様。そこまで考えていらっしゃるとは……」
「私は難しいことはわかんないよ……? とりあえず燃やしておけば良いの?」
「あぁ、それはあとからだ。ソーマ様の策が外れるはずないもんな」
物騒なことを考えながら誘拐犯を引きずってアルバンたちは走って行く。
そんな二人を俺は微笑ましい表情で見送っていた。
ようやく領地に安全が訪れたので俺はホッとしていた。
「その……、ごめんなさい……。私が誘拐されてしまったばかりに皆さんにはご迷惑を……」
クルシュは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
しかし、俺は首を横に振っていた。
「いや、それをいうなら俺の責任でもある。この領地に不審な男を侵入させてしまった。こうならないように領地を強化していたのにまだまだだな……」
「そ、そんなことないですよ。ソーマさんはすごく頑張っておられます。だから、ゆっくり休んでもらおうとしたのですが――」
「体調はもう大丈夫だ。これはクルシュが休ませてくれたおかげだな」
クルシュの頭を撫でると彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
すると、その時側にいたラーレが冷めた視線を送ってくる。
「あの、私、席外そうか?」
クルシュの頭を撫でていたタイミングにいわれて、俺たちは顔を赤くしてお互い距離を置いていた。
「いや、その必要はない。ラーレも一緒に探してくれてありがとうな」
「ラーレさん、ありがとうございます」
「ふ、ふんっ、べ、別にお礼なんていらないわよ。二人とも無事でよかった。もう、こんなことしたらダメだからね」
ラーレが顔を背けながらも俺たちの心配をしてくれていた。
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